0ー33 やりたいこと
新星暦二九九七年五月三日
オレのやりたい事。
それをしたらきっとあいつに怒られるけど。
オレは帝都の中央に位置する美しき豪華な建造物、帝城アルカナディアに足を踏み入れた。
その城門の前で護衛する魔術師団に止められた。
「止まれ。ここは皇帝陛下が住まう聖域であるぞ」
「……………………」
……オレの意志は既に決まっている。
「オレはダンベルさんに用があって来た。話、通してくれないか?」
「ここは貴族と魔術師団と、皇族以外は立ち入り禁止だ。貴様のような民間人が踏み込んでも良い境界ではない」
「だから、オレはダンベルさんに用があって来たんだって」
「貴様のような小童が団長を相手にするわけが無いだろ。帰れ」
「いや、直々にオレがお世話になってる家に来て言ったんだって。『いつでも城に来い』って」
「団長は貴様の家に行く暇など無いぐらい多忙な御方だ。なにせ皇帝陛下の護衛を任されるほどの御人だ。貴様みたいな小僧を相手する時間などあるわけが無い」
「良いから通してくれ!」
「駄目なものは駄目だ。もしこれ以上、我々に歯向かうと言うならば武力を以て貴様に行使しなければならない。理解したのなら退け」
武力を以て行使する……ね……。
「やれるものならやってみろよ!」
「こいつ……!」
「民間人の分際で……!」
オレは腰に添えた剣を片手に添え、構えた。
魔術師も杖を持つ。
するとそこに全身に鎧を纏い、国の至宝、霊剣キャンサーを腰に添えた屈強な男が現れる。
「なんだ……? なんの騒ぎだ?」
「だ……」
「団長……!」
フレイの次に強い、今や国内最強の魔術師。
ザノア帝国魔術師団団長、ダンベル・シュナイダー。
「おおう……! 久しぶりだな、ノアくん……!」
「……どうも」
「今日は何しに来たのかな?」
「あんたに用があって来た。あんた、いつでも来ていいって言ったからな」
「そっか……。なら上がっていけ。案内する」
オレは城門に足を踏み入れる。すると護衛の魔術師が呼び止める。
「待ってください! 団長、一つ質問があります」
「……なんだ?」
「なぜ民間人であるそこの少年を城に入れられるのですか?」
「そうだな……。強いて言うなら愚かな事をさせないため、かな?」
愚かな事?
「団長、それは理由になっていません。ちゃんとお答えしてください!」
「とにかく彼は我々と深く関わる人物だ。丁重に扱うように」
「話を逸らさないで下さい! ちゃんとお答え……」
「それと、彼に魔術は向けるなよ?」
ダンベルさんはその瞬間、底から溢れるどす黒いオーラを発した。
「死ぬぞ」
護衛の魔術師は不服そうに沈黙した。
「じゃあ、行こうか」
ダンベルさんは何も無かったかのように城の方に向いた。
少しあの魔術師の事は気になるが、今はダンベルさんについて行った。
※※※※※
帝城なんて初めて来た。
それもそのはず。ここは皇族と貴族、それに一部の魔術師と使用人しか入れない言わば「聖域」。
幾らフレイの弟子だからと言って気軽に入れるような場所では無く、なんと言っても一つ一つの装飾品が高級品にしか見えない。
使用人達がオレたちが通る道を開け、頭を下げる。
「あんたってやっぱ偉いな人なんだな……」
「ノアくん……。やっぱってなに? こう見えて俺は魔術師団団長なんだよ? 君は俺の事をなんだと思ってたの?」
「変なおっさん」
「へ、へぇぇぇぇ……」
「別にあんたが魔術師団団長なのは知ってはいたけどな。でも、こんなところで堂々としてるから確信しただけだ」
「……ま、それはそれとして君の話を聞こうじゃないか」
ダンベルさんは使用人の気遣いを無視して「着いたぞ」と言わんばかりに扉を開いた。
「お、おう……」
言葉を失った。
城にこんな場所があるとは……。
その部屋にあったのは壁一面に広がる本棚、そこに敷き詰められた本、飯を食うには全然足りない高さのテーブルに四つのソファ。これは……。
「普通の部屋だ……!」
「君もこのような場所の方が話しやすいだろ?」
どう見ても無駄な金しか使ってなさそうな廊下から馴染みのある部屋に変貌したのだからオレはどうしても驚きを隠せなかった。
確かにここの方が話しやすい!
「さあ、座りたまえ」
「お茶をご用意致します」
「ありがと。君もいるか?」
「じゃ、じゃあオレもお願いします」
「では、お持ちして参ります」
その時、ダンベルは使用人にニコリと笑った。使用人は頷き、持ち場から離れた。
――――オレは決意した。
――――それをしても、もう帰って来ないのはわかっているけれど。
――――それでもオレのこの感情は日を増す事に膨れ上がるんだ。
「それで話したいことって?」
ダンベルさんが本題を切り出す。
オレのやりたい事。それは……。
「単刀直入に言う。オレは『魔術師殺し』を倒す」
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