0ー32 決めた
オレは全てのことを話した。
オレに師匠とお世話になっている人がいること。
その師匠とお世話になっている人が噂の『魔術師殺し』を討伐しに行っていたこと。
そして、討伐時に師匠とお世話になっている人が亡くなったこと。
「そう……。そんなことがあったのね……」
彼女はそう言って同情していた。
オレは別に同情して欲しいから言ったわけじゃない。同情されても困るだけだ。
オレが欲しいのはたった一つ。
「オレは、どうすれば良かったんだ……」
どうしたら良かったのか、わからない。
代わりに『魔術師殺し』を討伐しに行けばよかったのか?
フレイの跡について行って、守ればよかったのか?
……どうすりゃフレイとアズバングさんを失わずに済んだ……?
「わからないんだ。オレが何をしたら良かったのか。そればかり考えてしまう……」
わからない。わからない。わからない。わからない。
何もわからない。
考えが纏まらない。
もうなにもかも、わからない。
すると、少女は口に出した。
「どうしてそんなこと考えるの?」
はあ? 今なんて言った?
「おい、どういうことだ。もう一回言ってみろ」
「だから、なんであんたはそんなことを考えてるのって言ったの」
「そんなの決まってるだろ……!」
オレは少女の胸倉を掴んだ。
「オレは家族が好きだからだ! 本当の家族に見放され露頭に迷っていたオレを拾ってくれた家族なんだ! オレの家族を侮辱するな……!」
少女はこう言い返す。
「それじゃあなんであんたは家族を失ったことばっかり考えてるの! 『どうすれば良かった』なんてどうしてそういうことが言えるの!」
どうしてそういうこと言えるの、だと……!
「当然だろ! オレの大事な家族なんだぞ!」
「だったら、あんたは一回でも家族がどう思ってたか想像したことある……!?」
「……!!」
フレイとアズバングさんが何を思ってたか、だと……!
「ああ、あるに決まってんだろ!」
「うぅうん、無いよ! 絶対に無い……! だってあんたのことを思ってなかったら『魔術師殺し』を討伐するなんていう危険なこと、できるわけないじゃない!」
「……!!」
どういうことだ?
オレは不意に彼女の胸倉を離した。
「あんたは魔術師になりたいと決めたから弟子入りしたんでしょ? ならあんたはいずれにせよ『魔術師殺し』の標的になる。
今はまだ強い魔術師しか殺してないけど、もし他の魔術師を殺そうと『魔術師殺し』が考えたらどうなる?」
「……!」
「それにあんたには生きて欲しいって思ってたはずよ……! あんたが単なる『弟子』じゃなく『家族』だと思ってたから……。だからあんたの師匠とお世話になった人は『魔術師殺し』を討伐しようと思ったんじゃない……!」
そうか……。あいつは最初からオレのことを『家族』と言ってくれていた。なのにオレはそれをいつの間にか忘れていた。
ずっとオレは魔術師になることしか考えていなかったから。
「……ごめん」
「……こっちこそごめん。あたしも強く言いすぎた」
しばらく沈黙が続く。
オレはフレイもアズバングさんも好きだ。フレイとアズバングさんがいたあの日常が好きだった。だからこそ失いたくなんてなかった。
「……じゃあ、オレはこれから先どうすればいい?」
オレは顔を俯く。
そんなこと言ってもしょうがない。
どれだけ『魔術師殺し』を怒ろうと、恨もうと、憎もうと、あの二人は帰ってこない。
余計にわからない。わからなくなった。
どうすればオレに空いたこの心の中を埋めればいいんだ。
……どうすれば、あの二人を弔ってやれるんだ。
すると、彼女は俯いたオレの顔を両手でぐいっと強制的に上げさせられた。彼女の顔がオレの目に映る。
「俯いてても何も浮かばないよ! ほら、笑顔になって! そういう時は笑うの!」
「そんな顔を掴まれたら笑えないんだけど」
「あ、そうだね」
彼女はすぐに手を離す。
「ほら、笑って!」
彼女がニコッと笑顔になる。
可愛い。
違う違う。オレは真剣なんだ。
オレは無理やり頬を上げる。これで本当にどうすれば良いかわかるのか?
「気持ち悪っ……!」
「おい!」
彼女は笑った。オレも彼女と一緒に笑う。
笑うのは本当に久々だ。
彼女は笑いすぎて腹を抱えてしまう。
深呼吸。
頬を叩き、オレの方に向く。オレはその顔を見て再び心を切り替えた。
「何をすればいいかって、あんたの今やりたいことで良いんじゃないの? あんたは何したいの? ちょっと、また笑いが……、あんたが変顔してくるから……!」
「元々オレはこんな顔だ……!」
彼女は再び笑った。
それにしてもオレのしたいこと……それは……。
その時、オレの脳裏に何かが電流が流れ込んだ。
オレは咄嗟に自分の濡れた服を着直す。
「ちょっと! どこ行くの!」
「お前のおかげでやっと、オレのやりたいことがわかったよ!」
荷物を持って、オレは玄関の前に立つ。
「ちょっと待って! せめてこれ持っていきなさい!」
少女はオレにふかふかの端に蝶々の付いてるタオルを持ってきてくれた。
「返しに来なくていいから! あんたを応援してるから!」
「サンキュー! じゃあ行ってくる!」
オレは玄関を出た。雨はすっかり止んでいた。
オレは絶対に後悔しない。
この晴れ晴れした空の下でオレは絶対に全てを救ってやる!
フレイとアズバングさんがそうしたように……!
オレは雨上がりの晴天の中一人、山奥の中を走った。
(そういえば、あいつの名前を聞いてなかったな……。まあいいや。また会えるだろ!)
彼女が今住んでいる学生寮。
その玄関の横に木札で彼女の名前が載っていた。
私立タレミア魔法学園『紅葉の山荘』
中等学校 三年A組 リーナ・ラカゼット。
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