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0ー31 回想


「着いたよ。ほら、早く入って」


 オレは少女に手を引っ張られながら彼女の家に連れてこられた。

 彼女の家は山の中にあった。

 彼女に手を引っ張られながら森の中に入り、急な坂を登ってここに辿り着いた。


 凄い所に住んでるな。


「……お前、ここに一人で住んでるのか?」

「そうだよ。今は一人」

「今は?」

「そう。今は一人、ここは私立タレミア魔法学園の学生寮の一つなんだよ」


 ここ、学生寮かよ。


「……へぇ」

「なに……? なんか文句あるの?」

「いや、なんかすごい物騒なところに住んでるなって思って」

「あー、それはね。ここが伸び伸びと魔術の特訓ができるからだよ」

「へぇ。って何脱いでんだよ!」


 彼女はコートどころか下着になるまで脱いでいた。

 やっぱり金髪だった。

 長い髪をたなびかせて美しく、体型も丁度いいぐらいに引き締まっていて胸も小さすきず、逆に大きすぎないぐらいに出ている。

 ……ってそんなこと言ってる場合じゃねえ。


「だって雨でびしょびしょだから」

「びしょびしょだから、じゃねえよ。良いから早くなんか着ろよ。色々気を付けなきゃいけねえだろ」


 彼女はようやくオレが男だと理解したのか、顔を赤くする。

 さっそうに服を着る……わけでもなく彼女は服を持って咄嗟にある所へ向かう。

 彼女はその部屋の前に着いた瞬間こっちを睨みつけた。


「……玄関から動かないで。床が濡れるし、何より今からお風呂に入るから!」

「行かねえよ。ここで待ってるから、ゆっくり入れよ」


 彼女は浴室に入った。


 まったく、フレイみたいな奴だな。

 いや、フレイよりはマシか。あいつは顔を赤らめるどころか「風呂に入る?」とか言って誘ってくるからな。 


 …………………………。


「ふんふふんふふーん……」


 優雅に美少女は入浴している。

 オレも男だ。同年代の女子が人目気にせず自分の姿を露わにして銭湯に入っているんだ。

 心臓が高ぶってしょうがない。


 と言いたいところだが、オレはどうにもそんな気分には慣れなかった。

 そんな気持ちに浸れる余裕がオレには無い。


「…………………………」


 玄関で一人、オレは玄関の横にある椅子に座った。


『ほら、一緒に入るよ』

『なんでだよ。入るかよ。オレを何歳だと思ってんだよ』

『十四歳』

『知ってるなら一緒に入ろうとすんなよ。恥ずかしいわ』

『えー。年齢なんて関係ないでしょ!』

『関係あるわ! こう見えてもオレは男なんだよ!』

『男なんて関係ないよ。私たちは男女である前に家族なんだから』

『は? 家族だろうと関係あるだろ』

『無いったら無いの! もう、まったくノアは飲み込みが悪いね』

『悪いねって、オレの言ってる事の方が普通だから』

『あ、わかった! 君、もしかして好きな子ができたでしょ……? やっぱり相手はアリアちゃん……?』

『なんでそうなんだよ!』

『やっぱり、そうな――――』


 浴室の扉が開いた音がした。

 駄目だ。やっぱり嫌なものを思い出しちまう。


「おまたせ。お風呂まだ入ってるから入りなよ。スッキリするよ」

「わかった」


 オレは彼女の言う通り入浴する事にした。

 風呂にさえ入れば、少しは落ち着くだろうと思った。


 けど、オレの脳裏にはまだその声は聞こえた。


 ※※※※※


「長かったね、お風呂。あまり湯にはつけなかった?」

「……いい湯だったよ。ありがとう」

「……ちゃんと言えんじゃん」


 彼女は安心そうにこちらを見つめた。

 オレは彼女に甘えて入浴した。服は全身濡れてたけど、彼女の配慮で家にあった男物の白い服を借りた。


 でもなぜ、こんなことまでしてくれるんだろ?


「……ちょっと良いか?」

「……なに?」

「なんでオレに……見知らぬ男にそんな世話焼けるんだよ。普通、道端でじっとしてる奴なんてほっとけばいいだろ?」

「ほっとける訳ないでしょ。そんないつ死んでもいいって顔をしている人なんて。あたしはそんな人を見殺しするなんてことできない」

「別に、死のうとは思ってないんだけど」

「あたしにはそう見えた。あたしもそういう時があったから」


 どういうこと?


「……昔、あたしが住んでた街が反乱軍に襲われたの。

 街は一瞬で燃えて、次々と聞こえてくる悲鳴と魔術の被弾の音。

 まだあたしは小さかったから怖くて怖くて動けなかった。

 その時、両親が庇ってくれたの。『逃げなさい』『速く逃げなさい』って。あたしは走ることしかできなかった。

 ……反乱軍の襲撃が収まった頃、あたしは隣の街の路地裏で蹲ることしかできなかった。

 だって、この目で両親が殺されてるのを見てしまったから。

 だからあたしはきっとあんたと一緒で死のうと思ったと思う」


 彼女の口から出たのは壮絶な過去だった。


「別に死のうとは思ってない。……けど、変なこと思い出せてしまったな。悪い」

「良いの。これがあたしが魔術師になると決めたきっかけだから」

「……?」


 彼女はこう言った。


「路地裏である人があたしを見つけてくれた。

 その人は魔術師で、何もかも失ったあたしを一時的に保護してくれた。

 その人の顔は今は覚えてないけど、その人はあたしにこう言ってくれた。

 『なりたいものなりなさい。君にはその資格がある』って。

 だから、あたしは必死に勉強して魔術も特訓して、いつかあの人に追いつけるようなそんな魔術師になりたい……ってね」


 彼女はまっすぐな目をしていた。輝いていた。

 オレとは全然違う。オレはそんな立ち直れるような人間じゃない。


「……凄い魔術師だったんだな」

「そう……! なんでも五大魔術師(クインテット)だって言うんだから驚きだよね」

「……そうなんだ」


 オレは下を向いていた。

 なんかそんな話されてもオレには届かなかった。興味も湧かない。

 そんなオレを見て彼女は口を開く。


「あんた、今思い詰めてるでしょ」

「……それがどうしたって言うんだよ」

「言ってみ?」

「……は?」

「だから、言ってみてよ。あたしも言ったんだから。そんな、思い詰めててもしょうがないよ。だから、言ってみて」


 彼女の言ってることはまともだった。

 そう。オレは思い詰めてる。そしてそんなことを溜めていてもしょうがない。


 だからオレは彼女になぜ思い詰めてたのか、その経緯をさらけ出した。

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