0ー30 雨の中
新星暦二九九七年五月二日
今日は朝から雨が降っていた。
そんな中、オレは一人外にいる。
「……………………」
ここは山の麓、ハズラーク領より少し北にあるザノア帝国とレミリス王国の中間都市「ザノリス」にいる。
一人になりたかった。
リンさんはきっとここに来ない。オレはいつも何かある時は帝都に行くから。
住宅と住宅の隅、ずっとオレはそこにいる。
ここに着いたっきり何もしてない。飯も食ってない。
ずっと考えている。
けど結局何も考えてなんかいない。
想い出すのはいつもの日常だけだから。
雨が次第に強くなった。
※※※※※
「貴族アズバング・ハズラーク及びその妻フレイ・ハズラークは今朝、王宮の王室の中央で『魔術師殺し』討伐隊計十七名と共に遺体となって発見された」
――――――――――
「……は? ……冗談だろ……?」
「残念ながら……事実だ」
オレはダンベルさんの胸倉を掴んだ。
「何言ってんだよ、お前! 今フレイが死んだって言ったのか……!」
「ノア様っ……!」
ダンベルさんが待ったの合図をする。そして冷静に答えた。
「ああ。ちゃんと君に言った」
「ふざけんなよ! もう一回言ってみろ! お前の両の目玉をほじくってやる!」
「ならほじくれ。君がそれで気が済むなら」
「っ……!」
くそ。
ダンベルさんの言ったことが本当だって言うのか。
オレはダンベルさんの胸倉をほどき、椅子に座る。そして、オレは下を向いてしまった。
「……大丈夫か?」
「………………………………」
大丈夫?
大丈夫な訳ないだろ。
ダンベルさんはどういう経緯でフレイとアズバングさんが『魔術師殺し』を討伐しに行ったのか話してくれた。
オレはずっと黙っていた。未だに信じられなかったから。
ダンベルさんの話を聞いた後、リンさんがずっと溜め込んでいたのか片手で口を覆い、泣いてしまった。
「ささ。君もずっと立たず、彼の横に座りなさい。ずっと立ってちゃ辛いだろ? 遠慮なんてしなくていい。だから、座りなさい」
「……そう、させて……貰います……」
「君も泣いていいんだぞ」
「…………………………」
泣くとは?
そんなことしたらフレイに笑われてしまうだろ。
……いや、もういないのか。
客室内で漂う嫌な空気。オレはずっと下を向いていた。リンさんは泣いている。
ダンベルさんはオレたちを見て立ち上がる。
「俺の用は以上だ。何かあったら帝都の城に来なさい。いつでも聴いてあげるから」
そう言ってダンベルさんは客室から出ていった。
「……………………」
「……………………」
「…………申し訳ございません。お見苦しい姿をお見せしてしまって。お茶、用意しますね」
「……………………」
リンさんが客室から出る。
――――――――――
――――――――――
『山登りに行くよ、ノア……!』
『は? 剣術教えるんじゃねえのかよ』
『教えるよ? でも、その前に体鍛えなくちゃね。君はまだ私の剣術を教える程の体じゃない。だからまず、体を強くしなきゃ……!』
『……わかった』
――――――――――
『ノアくん、顔死んでるぞ。大丈夫か?』
『良いですよ。これもオレが魔術師になるためだから』
『君が良いなら良いんだ。フレイは加減を知らないからなぁ。何かあったら俺に言ってくれていいんだぞ。いつでも相談に乗るから』
『大丈夫ですよ。オレは強い魔術師になるんで』
『……そうか。ならがんば――――――』
「お茶、用意できました」
「…………………………」
リンさんはテーブルにお茶を置いた。
「……失礼します」
「…………………………」
再びリンさんが客室を出た。
あの時、なぜ止めなかったのだろう。
あいつが久しぶりに仕事に行くと言った時、オレは逆に仕事に行くと言った。
それが間違いだった。
オレが押し通してでも行くべきだった。
……オレがそこで――――
『行かないで!』
じゃあ、どうすりゃ良かった?
どうすりゃお前が、アズバングさんが死なずに済んだ?
わからない。
わからない。わからない。
わからない。わからない。わからない。
オレはお茶も飲まず客室を出る。
「ノア様、どこに行くんですか?」
リンさんがオレに気づいて廊下で尋ねる。
「……一人にしてくれ」
そう言ってオレは玄関に行き、出ていった。
リンさんはその時、何か思い詰めた表情をしていた。
――――わからない。
※※※※※
「何してるんだろ」
雨が強くなっていく。
この雨で大体の店は大至急に店を閉め始め、ポツポツ歩いていた人々は今や誰もいない。
ただ一人、オレだけが雨に打たれていた。
こんな物騒なところで一人、訳もわからず縮こまっているオレ。
オレは一体、何して――――
「何してんの? こんなところで」
? 誰か呼ばれたぞ。ま、オレじゃないからい――――
「ねえ、聞いてる? こんなところで一人、どうしてあんたはこんなところにいるの?」
オレは強制的に顔を上げさせられた。
その少女はオレを真正面から見つめた。
柔らかそうな唇をしていて透き通る目。フードを着けていて髪はわからないけど前髪から多分金髪。
とにかく美少女だ。
でもなんでそんな美少女がオレに声を掛けてくるのだろう。
「別に良いだろ? オレの勝手だ」
「良いわけないじゃない。こんな雨の降るところに居たら風邪引くでしょ?」
「……別に良い」
「別に良くない。そんなところに居られちゃ私が困る」
「うるせえな。一人にさせてくれ」
「ダメ。絶対あんたを一人にさせない。ちょっと来て」
そう言って少女はオレの手を引っ張った。
オレは連られて彼女にここを出られされる。久しぶりに広い道を出た。
「……で、どこに行くんだよ」
「あたしの家だよ。正確に言ったら寮だけどね」
「……はあ?」
オレは手を引っ張られながら彼女の家に向かった。
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