0ー29 大好き
私は詠唱を唱えた。
「《生点》と《死点》が締結する」
――――、一瞬でもいい。
「万物の陽光。天目指す温厚の桔花」
――――奴を倒すことができるなら、どんな代償を背負ってもかまわない。
「その花は皇后と真っ直ぐに咲き続き、
その花は暗黒に満ちた世界でも尚、前を向く」
――――だから、
「そう、我が魔術は希望にして最強。
故に、いかなる悪をも打ち払う希望の花。
さあ、ここにその花を咲かせるとしよう。
太陽に愛でられたその花を……!」
――――この一撃で倒す……!
「――――最高位魔術《向日葵》……!」
剣をかがげた所に火の粉のような赤い小さな球が集まる。
その集中した赤い球は巨大な突起のある円盤が生まれ、そこに規律正しい花びらが生成された。
「……美しい」
奴が言うようにそれは正しく「希望の花」。
ここが煉獄とは思えないほどに、その花は綺麗に新しく咲いた。
これこそ私の最高位魔術――――《向日葵》。
向日葵は自身の中心から『魔術師殺し』の方に光線を放った。白く放たれた光線はあまりに眩しく何も見えない。
よって、避けることができない……!
「……なるほど。それが貴様の最高位魔術か……。ならば、おれもここで最強の魔術を放つとしよう!」
奴も詠唱を唱える。
「新時代に導く御方、魔王様。
貴殿の下僕である我にどうかご慈悲を与え給え。
世界を変える無限の力。そしてそれは新たなる世界の理。
その力は世界を支配する貴殿の力。
その理は我らに優劣する最高の理。
では、貴様に見せてやろう。
これが我が主の力だ……!
魔界術《悪魔の極地》……!」
奴は黒い謎の魔力を拳に宿した。
そして、ピンポイントで私の魔術を殴った。
※※※※※
「たっだいまあぁ……!」
私はやっと屋敷に帰ってきた。
「お帰りなさいませ、フレイ様」
「久しぶり、リンちゃん……! 屋敷お留守番にさせてごめんね……!」
「いえ、それが私の仕事ですから」
「それで? ノアはどこ……?」
「ノア様は今自室で――――」
「フレイ……! 帰ってくるの遅いぞ!」
ここでノアが乱入。
「ごめんごめん……! 結構仕事がキツくて……でも大丈夫! 私は元気です……!」
ノアはここで肩の荷が下りた。
「……ふぅ。あまりに帰ってこないから心配したぞ」
「心配してくれたの?」
私はニヤリと笑う。
「……うるせぇ」
ノアは顔を赤くなる。
あぁ。やっぱり、ノア弄るの楽しいわ。
けど、やっぱ言わなくちゃね。
「……それでね。何個か言っておきたいことがあるんだけど……」
私は『魔術師殺し』を討伐したことを伝えた。そして、夫のアズバングが亡くなったと伝えた。
リンちゃんは目を逸らし、ノアは下を向いた。
「……だから、ノア。リンちゃん。悲しいかもしれないけど、絶対に死んじゃダメだよ。そんなこと、絶対アズバングさんは望んでないから……」
ノアは自分の拳を震わした。
「オレは、誰よりも強くなる……! リンさんもフレイも守れるように……。だから――――」
すると、屋敷が真っ白な世界へと変わった。
そしてノアの表情が一気に変わった。
ノアがどこかに歩いていく。
歩く方向、そこは《煉獄》。
ノアは『魔術師殺し』と今から戦おうと立派な剣を持っていた。
その時、私はこう叫んだ。
『行っちゃダメ……!』
※※※※※
私の最高位魔術は敗れた。
向日葵から放たれた白い光線は黒く飲み込まれ、完全に消滅した。
「どうだ、人間……! これが我が主の力だ! たかが人間如き、我らに勝てると思うなよ!」
そう公言する『魔術師殺し』。
奴は高々と笑い、煉獄の空を見上げる。
確かに私が今出せる最強の魔術が負けた。
もう魔力も無いし、状況は絶望。
どう考えても私の敗北で間違いないでしょう。
でも、私はこれで勝てるなんて思ってない……!
「……!!!」
巻き上がる煙、その中から飛び出して私は奴に斬りかかる……!
奴は私に反応する。でも、もう遅い!
「光の剣術・奥義“【伝家の宝刀】煌めき”……!」
私は全身全霊を以てこの二つの剣に力を込めた。
私は誓った。
もう後悔はしない。
もう誰も失わない。
けど、また一人失った。
最愛の人を亡くした。
――――だから、今度こそ失わない。
二人には触れさせない。
血の繋がりなんて関係無い。
私にとってノアとリンちゃんは家族なんだから。
「はあぁぁぁぁあああああ……!」
「ぐぅあぁぁぁあああああ……!」
私の剣が奴の首に届きそうになる。
奴は私の剣に抵抗しようと後ろに躱そうとした。私は奴の首を掻き斬ろうと前に前進する。
首に寸前まで届いた。
“【伝家の宝刀】煌めき”は斬った瞬間、その速さが故に爆発が発生し、存在ごと消える。
だからあと少し、あと少しで……!
すると、『魔術師殺し』はニヤリと笑った。
「大した人間だ。クインテットでも無い貴様がよくぞここまでおれを追い込んだ。素晴らしい……素晴らしい戦いだった!
褒美としてこれをくれてやる……!
……死ね――――!!」
リンちゃん。
ごめん。
私は屋敷に帰って来れない。
いつも帰りを待ってくれてたのに。
ごめん。
ノア。
ごめん。
二人がいる世界にとんでもない怪物を残してしまった。
来ないで。
悔しいのはわかる。
でも、きっと奴は君より強い。もう失いたくないから
だから、来ないで。
ノア。リンちゃん。
ありがとう。
いっぱい迷惑かけちゃったね。
いっぱい心配させちゃったよね。
でも、楽しかった。
私が生きた時間、とても幸せだった。
ノア、リンちゃん、アズバングさん。
――――大好き……!
――――《死眼》。
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