0ー28 たとえ相打ちになろうとも
「うそ。どうして……」
まだ魔力は残っている。体もまだまだ動ける。
どういうこと?
ダメだ。《剣聖》で奴にダメージを蓄積した部分が回復している。
このまま行くと、奴が、目覚める……!
「残念だったな……」
「……!」
上から複数の溶岩が落ちてくる。
私は魔術で解かれ落ちた魔剣を拾い、それらを避けながら奴との距離を離してしまった。
「くっ……」
「悔しそうだな、フレイ・ハズラーク」
まだ大丈夫。私の生み出した魔剣は全て本物。
魔術が解かれても剣は残る。
まだ勝機はある。
「あんたみたいな外道が私の名前を呼ばないで。汚れる」
「……そうか。それは傷つくなぁ、人間……!」
高位魔術《断崖の業火》の複数同時展開。
私は剣を構え直す。そんな高位魔術、《焦点》だけじゃ防ぎきれない。
でもどうしてそんな魔法が未だに使えるの。
最低位魔術《炎の千槍》の大量照射。
高位魔術《断崖の業火》の所々な使用。
結界魔術《煉獄》の発動。
最高位魔術《超速再生》の回復に伴った莫大な魔力消費。
どれだけ魔力の高い人間でも必ず魔力切れは免れないほど使っている。
――――どうして?
「今、貴様は何故おれがまだ魔力が使えるのか、疑問に思っただろ」
「……!」
奴は私の思考を読んだかのように話した。
思考を読む魔術でも持ってるの?
うぅうん。それは無い。
持っていたら私にここまで追い詰められない訳ない。
私の疑問は《断崖の業火》と共に放たれた。
「良いだろう。教えてやる。なぁに、簡単な話だ。
――――貴様の魔力を奪ってたからな……!!」
光の剣術“【連刃】千連光芒”――――!
私は次々とくる炎の弾丸をできるだけ遠く弾き返す。
被弾すると厄介な魔術。煉獄内は激しい轟音と溶岩の爆発に包まれた。
おかしいと思っていた。
結界魔術はただ術者にあった世界を広げるだけの魔術。魔力の吸引なんていう追加効果は無いはず。
奴は私が魔術を使う度に魔力を奪っていた。
そして、私の天性魔術《剣聖》はその姿だけで大量の魔力を消費する。限界が来た時、自動的に解かれた訳だ。
もう私の天性魔術は使えない。
およそ半年の間は魔力も半減し、しばらく魔剣は生み出せない。これがこの魔術の《死点》。
「はあぁぁぁあああああ……!」
私は《断崖の業火》を弾き続ける。
それにしてもなんて量。弾いたら弾いただけ炎が押し寄せてくる。
――――裁ききれない……!
そう思った時、炎の弾丸が私の剣を掠めた。
しまっ…………――――
※※※※※
私に初めて弟子ができた。
弟子の名前はノア・ライトマン。
ノアはいつも魔術師になることを志していた。
「ノア、何読んでるの?」
「……別に良いだろ」
「あ、わかった! エロ本だ……!」
「ちげぇよ」
ノアは歳相応に大人びていた。目標に向かっていつも努力していた。
「……魔導書だよ」
「え、なんで? 魔術使えないじゃない?」
「いちいち人のコンプレックスを突いてくるなよ。……オレはまだどういう魔術があるのか知らないんだよ。魔術が使えなくても魔術を知っていたら対応できるだろ? だから、魔導書を読んでるんだよ」
めっちゃうざがられた。
多分もうこんな姿を私に見せないんだろうね。
「……たまには遊びに行ったら? ほら、アリアちゃんとデートとか……!」
「はあぁ。フレイはオレとアリアがイチャついてるのを見たいだけだろ」
「うん……!」
「うん……って。オレは魔術師になるんだ。あいつらに見返すために。それに、オレは守れる力が欲しい。だからオレは……って何笑ってんだよ!」
「ぷふっ……。くさい……」
ノアはそう言ってくれた。
その時は胡散臭すぎて笑ってしまったけど、でも、ノアがそんなことを思っていたとは思わなかった。
きっと父親の影響かな?
その後、リンちゃんが夕飯ができたと知らせに来てくれた。
私とノアはちょっと言い合いしながらも食卓に向かった。
※※※※※
「ほう。まさか《断崖の業火》を耐えるとはな……。やはり貴様は素晴らしい剣士だ」
こんな日常を守りたい。
夫は亡くなった。けど、私にはまだ二人の家族がいる。
「……どうした? まさかこれで死んだのでは無いだろうな?」
ノアとリンちゃん。
『魔術師殺し』をここで倒さないと、この二人はきっと、近い将来危険に見舞われる。
それにここで『魔術師殺し』を置いたらきっと、ノアが『魔術師殺し』を倒しに行くはず。
絶対にそんなことはさせない。
五大魔術師級の力を持つ奴にノアが戦ったらダメだ。絶対になにかを追ってしまう。
それだけは絶対に避けるんだ。だって私の家族なんだから。
だから――――
「絶対にここで倒す……!!」
たとえ相討ちになろうとも……!
絶対に私は家族を守る。
初めて人を殺めた時、私はそう誓った。
絶対に――――。今度こそ――――。
私は右腕を天に高々と掲げる。
「いいぞ。かかって来い……!」
そして、私は詠唱を唱えた。
「《生点》と《死点》が締結する。――――」
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