0ー25 獅子の怒号
結界魔術は術者が自身で解くか、気絶また死亡しない限り解除しない。
私は完全に奴を致命傷になるまで追い込んだ。なのにこの空間はまだ熱いまま。
気を引き締める。ゆっくりと足場に降り立ち、剣を強く握る。
マグマに奴は落ちた。なんか変な感じがする。
――――私から仕掛けるか。
「光の剣術“【斬撃】三日月”――――!」
私の二本の斬波がマグマに落ちた。この空間はできるだけ魔術を抑えないと。
すると奴は私の頭上を越えてマグマから飛び起きる。私の斬撃は見事に命中しており、二本の大きな傷跡が残っていた。
でも奴には無意味。
《超速再生》。
その傷は直ぐに元通りになった。
「痛いなぁ。貴様の斬撃、妙に熱く、そして痺れたぞ。魔剣の特性を生かした斬撃とはやはり素晴らしい」
「痛い? そうは見えないけどね」
奴は私の目の前にあるもう一つの足場に降り立つ。
「そりゃもちろん痛いさ。こう見えておれも化け物じゃない。ちゃんとダメージは受けてる」
「へぇ。あんたが化け物じゃないって。私は五大魔術師だから『怪物』だとか『化け物』だとかよく呼ばれてるのにね。あんたは十分に化け物だよ」
「そうか……。おれが化け物か……」
異様な空気がこの熱い空間から流れ出る。
「人間も落ちるところまで落ちたな……! ならば一つおれのとっておきの魔術を解放する」
来る……!
私は両手の剣を構えた。
「天命より我が魔術を仕え奉る。
魑魅魍魎。一騎当千。
強者によって群れを成し、
非情にして華麗なる猛獣。
貴殿の力を以てして我が心に百獣の王が目覚める……!
天性魔術・解放 《獅子の怒号》……!」
奴は魔術陣を展開しつつ、闘気を上げている。
その凄まじい威圧感で奴の闘志が伝わってくる。
でもこの魔術、どこかで見たような……。
奴はもう、私の目の前にいた。
「えっ……?」
私はこの時、初めて奴の攻撃をまともに食らった。
腹部を思い切り殴られ、獄炎の遥か彼方まで吹っ飛ばされる。
様々な岩が壊れ、大きく頑丈な岩にぶつかった。
「がはっ……!」
吐血なんていつ以来だろう。私が元五大魔術師を倒した以来か。
そんなことはどうでもいい。
それよりも今の動き、全く見えなかった。
魔術の痕跡は一つも無い。かといってただの身体能力強化でここまで速くなるか?
いや、これが《獅子の怒号》。
身体能力と闘志を最大限どころか限界をも超える魔術。シンプルなだけに弱点もないただただ強力な魔術。
「これは、不味いね」
うそ……。
奴はまた目の前にいた。
どれだけ飛ばしたと思ってるの?
「死ね……!」
「くっ……!」
奴の一振りに何とか反応する。でも反応したところで意味が無い。
剣と剣がぶつかり合った時、力が強い方が必ず優勢となる。
どれだけ剣術を鍛えた者でも圧倒的な差が存在するならば技術でも抗えない。
私はまた遥か彼方まで吹っ飛ばされる。
なんとかしなくちゃ……!
ひとまずここは――――
「中位魔術《飛翔》」
私はなんとか魔術でこの攻撃を凌いだ。
心は時に人の限界という限界まで引き出されることがある。
火事場の馬鹿力。
もし火事場で大事な人を背負っている時、本来出せる事の無い力が引き出せてしまうたとえ。
奴は今、闘志さえも上がっている状態。もしこれさえも《獅子の怒号》の仕業ならこの力と速さは頷ける。
「恐れ慄いたか、人間。これがおれのとっておきの魔術だ。貴様を殺したくて殺したくてしょうがねえ」
「殺す? あんたには無理だよ。だって、私があんたを倒すから……!」
中位魔術《飛翔》で奴との距離を詰める。
私は両方の剣を振る。奴は剣をマグマへ落とし、私の剣をまんまと掴んだ。
「……!」
「遅いなぁ。剣も弱い。間違えて壊しそうだ」
ビクとも動かない。なんて馬鹿力なの……!
「離して」
「敵に『離して』と言われて離すバカがどこにいる」
「離さないとあんたを焦がすよ」
「焦がす? 面白いことを言う女だ。おれが離さなくても焦がそうとするだ――――」
「離しなさい……!」
私の魔剣が握り潰された。
「……へ?」
「ギャハハはははっ……! 離してやったぜ。感謝しろ、よ……!」
腹部を思い切り蹴られた。
私はそのまま岩を壊し続けながら飛ばされる。
「がはっ……!」
マグマギリギリ。
もうずく埋もれそうな地面にまでぶつかった。
魔剣が、壊された。
こんなの、初めて。
私は剣術を極めてきた。魔術が全盛のこの時代でなお、剣術を極めた。
剣を壊されたことなんてなかった。
――――本気を出そう。
私は再び立ち上がる。
『魔術師殺し』。アンタに見せてあげる。
これが私の天性魔術・解放だ……!
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