0ー21 テミール商店街②
一番安い剣を手に取り、すぐに買った。
「もう行くの?」
「あぁ。もう用は済んだしな」
「……もっと見ていけばいいのに」
「……わかったよ。ちょっとだけな」
「うん……!」
オレは今、アリアの可愛いさに惹かれ引き続き買い物をしている。
と言ってもわからないんだよな。
剣は安物ばっかで値段の高い剣を見ても「勿体ない」としか思えないし、他の弓矢や槍を見てもそもそも専門外だから余計にわからない。
ここでアリアが声をかけてくる。
「ノアくんはなんで一番安い剣を買うの?」
「……!!」
一番痛い質問が来た。ここでオレが「剣の価値がわからない」と言ったら、アリアに格好がつかない……!
ごほん。落ち着こう。
ここはオレの天才的な頭脳に委ねるんだ……!!
「……ま、まぁあ……! お、オレは……! や、安い剣、でも……! つ、強いから、な……!」
ヤベェ。片言で言ってしまった。
逆に格好がつかねえぇぇぇ……。最悪だ。
すると、アリアがボソッと口を魔導書で隠してこう言った。
「かっこいい……」
ズッッキュウウウウウゥゥゥゥゥゥウウウウウウンンン……!!
あ、これはダメだ。ダメなやつだ。
そんなことを言われてしまったら……オレは……。
――――惚れてしまうだろうがァァァ!!
オレの天才的な頭脳はことごとく溶けてしまった。
※※※※※
つい浮かれてしまっているオレ。
結局それ以降何も買わずにアリアと別れたオレは商店街をふらりと歩いていた。
さっきまで物を売りつけるために騒ぎ立てる店主が今は何故か賑わっているように聞こえ、商店街にいつもお客にショーを見せ金儲けする大道芸人をさっきまでよく思わなかったのに今は普通に凄いと思っている。
「ちょっと、そこのお兄さん……! テミール商店街名物、メジアン焼き……! 買っていきな――――」
「買います……!」
ついメジアン焼きを買ってしまった。
メジアン焼きは小麦粉や重曹、シュガー、ジャージー乳、卵で練った生地に「あん」という赤紫色の粘りのある甘い具を入れて、「メジアン」という魚に模して焼いたお菓子だ。
普段は無視するけど、即決してしまった。
――――仕方ない。食おう。
いざ実食。
美味い。
なんだろう。表面はカリカリだけど、生地の中はふわふわで具の甘さと非常にマッチしている。
甘いものなんてあまり口にしてなかったからわからなかったけど、なるほど、こりゃフレイも仕事をサボってまでデザートを食いたがるわけだ。
「あれ……?」
いつの間にかメジアン焼きが手元から消えていた。
もう食ってしまったのか。
まだ食い足りない。でも満足だ。
こんな美味いもんが食えたのだから。
オレはフレイとアズバングさんのことをいつの間にか忘れていた。
心が清々しい。オレは満たされたまま、ハズラーク家の屋敷に帰ることにした。
だが、テミール商店街ではとある噂が流れていた。
「おい、この噂を知ってるか?」
「なんだよ急に」
「この噂は誰かが言ってたんだけどな」
「だからなんだよ。早く言えよ」
「あの最強の魔術師と言われてる五大魔術師の一人が死んだんだってよ」
※※※※※
「お帰りなさいませ、ノア様」
「……はい。屋敷を見てくれてありがとうございます」
「いいえ。それが私の仕事ですので」
「……そうですか。でも、ありがとうございます。あなたが居なかったからこの屋敷はゴミ屋敷になるので」
「ふふふっ……。知ってます」
ゴミ屋敷になる元凶はフレイの事な。
屋敷を戻ったオレを待っていてくれたのは使用人のリンさんだった。リンさんはいつも笑顔で帰りを待ってくれる。
だが今日の笑顔は少し変だ。
「何かあったんですか?」
「……いいえ」
やっぱり変だ。明らかに口調が濁っている。
――――まあいいか。
「そう言えばフレイとアズバングさんはまだ帰って来てないのか?」
「……はい。でも、今日はお客様がいらっしゃっています」
「客?」
アズバングさんはともかくフレイにそんな人望があるのか?
ここに来て屋敷を尋ねたのは魔術師団の連中と運輸の人だけだ。「客」なんて見たことが無い。
「……客室に案内して頂けますか?」
「わかりました、ノア様」
「……あの、いい加減『ノア様』は止めてくれ頂けますか? さすがにむず痒いんですけど……」
「はい、ノア様」
「……………………」
すぐに客室に着いた。この屋敷はライトマン家の屋敷より小さいからな。部屋なんてすぐに着いてしまう。
「……では、ノア様。どうぞお上がりください」
リンさんが客室の扉を開ける。
すると、客室にいたのは一人の男。
「おおぉぉぉ……。これはこれは。君があの、フレイ・ハズラーク殿の弟子か」
屈強な男だった。全身を鎧で覆い、腰に剣を携えまるで隙を与えない。誰だ……?
オレは客室の椅子に座る。
「あの、どちら様でしょうか?」
「俺か? 俺の名前をそんなに聞きたいのか?」
早く言えよ。
「良いだろう。聞いて驚け! 我が名はダンベル・シュナイダー! この誇り高きザノア帝国魔術師団の団長を務める者だ……!!」
……なんだ。魔術師団の連中か。
客だとリンさんが言ったからてっきり誰かと思ってしまったけど……。……またフレイに仕事を押しつけに来たのか。
「……あの。すみませんが今はフレイは居ませんよ。今、フレイは仕事に出ていて――――」
「そんなことは知っている。俺は君に用があってここに来たんだ。」
オレに用? どういうことだ?
オレは今まで修行と勉強をしてきた。当然人望なんて無い。そんなオレが魔術師団団長様に何か依頼でもあるのか?
「……用って、何ですか?」
「……良いか? 落ち着いて聞いてくれよ」
リンさんが下に俯き視線を逸らす。
なんだ? 落ち着けってなんだよ。なんでリンさんは目を逸らすんだよ。
訳のわからない状況のまま、ただ不穏な空気が漂う。
ダンベルさんはオレの目を見てこう言った。
「貴族アズバング・ハズラーク及びその妻フレイ・ハズラークは今朝、王宮の王室の中央で『魔術師殺し』討伐隊計十七名と共に遺体となって発見された」
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「……は?」
時は少し遡る。
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