0ー20 テミール商店街①
――――新星暦二九九七年四月三十日
フレイとアズバングさんが未だに帰って来ない。
フレイは魔術師としての仕事だから十日以上帰って来ないのはわかるが、アズバングさんは帝都の仕事と言えど必ず三日以内には帰ってくる。
――――……妙だな。
そんなことを考えながらオレは帝都にあるテミール商店街に来ていた。
テミール商店街はザノア帝国の中でも最大規模の市場を誇っている。
世界各地から集められた新鮮な肉、野菜、魚などの食材。
一般ブランドから高級ブランドまで揃った衣料品や化粧品。
他にポーションなどの医療品や薬草、変わった物までもがここに置いてある。
オレはここにある小さな武器屋でいつも剣を買っている。
武器屋はこのザノア帝国では帝都の数店舗しか存在しない。それは二百年前に起きた第三次世界戦争で魔術が実用的になったことで武器の需要が無くなったことが原因だ。
今では一部の魔術師が魔術のために買ったり、貴族がコレクションとして高級な剣を買ったりと一定の需要がある。
そして、オレがいつも通っているこの「マクナード八百屋」は一階は八百屋をしているが、地下に行くとそこには武器が並んでいる。
「いらっしゃいませ。あ、ノアくん。久しぶり……」
「……うす」
オレが地下に降りると、そこのレジには一人の少女がいる。
アリア・マグナード。
一言で言うと、絶世の美少女。銀色のショートに透き通る目をしている。柔らかそうな口をしていて、正直可愛い。
おいおい。オレは別にアリアに会いに来たんじゃないぞ。
剣を買いに来たんだ……!
と、アリアがここでオレに話しかけてくる。
「今日はフレイさんは居ないの?」
元々ここを知ったのはフレイのおかげだ。
武器屋は表だって店頭に出ることは無い。それはこんな物騒な物を売っていると商店街の見た目が悪くなるし、さらにニッチな物を売っているのだから店頭に出す必要が無い。
だから紹介してくれたのはすごくありがたい。
でも、あいつが居ると面倒なんだよな。
いつもオレにアリアのことについて
『ねぇねぇ。あの娘、気になってるでしょ。いつ告るの? ほら、教えてよ! 私は君の師匠なんだから聞いたっていいでしょ!?』
とか聞いてきやがる。本当にうざい。
「フレイは今仕事。今日は一人で来たんだよ」
「……そうなんだ」
アリアはそう言って持っていた魔導書で自分の顔を隠した。
彼女は今、魔術の勉強をしているという。どうやら私立タレミア魔術学園に入学するらしい。
だから今、こんな地下深くで武器屋の店員をしつつ魔術の勉強をしている。
そんなことより、なんで顔隠すの?
上目遣いとか本当に辞めて欲しいんだけど。
萌えてしまうだろうがアアァァァッ!
ごほん。気を取り直そう。
今は剣を探そう。
オレは店に出ている剣を探す。
と言ってもいつも剣は安いもので済ますけどな。
いつも通り値段の安い剣を手に取りレジをに行……。
アリアは魔法の勉強で少し考え込んでいるように見えた。頭を抱えて魔導書を読んでいる。どれどれ……。
「その魔術陣はあれだ。算術と文字を組み合わせることでその人の身体能力を底上げする魔術、付与魔術《身体強化》だよ。例えばその人に身体能力を二段階上げるとなると、魔術陣には『魂よ、その勇ましき身体をさらに強化せよ。元の身体一と強化段階二を掛け合わせ我々に更なる高みへもたらしたまえ。《身体強化》』を書くと付与ができる。やってみて?」
アリアは肩をびくりと震えたものの、すぐにオレの助言のもと、床に魔術陣を敷き、魔術文字を入れ始める。
すると、魔術陣は発動。アリアはその魔術陣の中に入り、こう言った。
「力が……湧いてくる……」
不思議な感覚……みたいな表情を見せるアリア。どうやら魔術は成功したみたいだな。
「なんで……わかったの?」
「毎日勉強してるからな」
そう、オレはザノア帝国国立図書館の魔導書は全て読破している。だからそんな魔術陣ぐらいどうってことない。
アリアが聞いてくる。
「ノアくんも魔術学園に入学するの?」
「んいや、入る気なんて無いけど」
「じゃあ、なんで勉強してるの?」
「魔術師になるためだ」
「? 魔術師になるんだったら魔術学園に入学した方が良いんじゃないの?」
「オレはオレの実力で魔術師になりたいんだ。魔術学園のことはまだ考え中だけど……。それでも、オレはできるだけ魔術師として強くなりたいと思ってる」
「……そうなんだ」
アリアが再び魔導書を読み始めた。やはり受験生というのは忙しいものなのだろうか。
ここで、アリアは上目遣いながらオレにこう言ってきた。
「……ありがとう。勉強、教えて……くれて……」
前言撤回。
オレはアリアに会うためにこの武器屋に来ました。
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