0ー17 迫る恐怖
新星暦二九九七年四月八日――――ザノア帝国 深夜
わたしはこのザノア帝国の公爵にして魔術攻撃部隊隊長、マグナドール・ルシフルである。
わたしはこの帝国に忠誠を誓い、数々の功績を残してきた。
大量に帝都へ襲い来るドラゴンの群れを一掃討伐。
反魔術組織『赤の聖騎士』の完全な撲滅。
アルバーノ戦争終戦の立役者。
そして、五大魔術師候補の災厄を未然に防いだ。
そんなわたしが本来五大魔術師になってもおかしくはない。が、まんまと男爵の娘に取られてしまった。
まあいい。
それよりも今、屋敷の外からわたしを見張っている者がいる。そのせいで起きてしまったでは無いか。
こんな夜中に覗き見とはいい度胸だ。そんな殺気を散らしてバレないとでも思っている方が不思議だ。
――――罠の可能性もある。
ここ最近よく『魔術師殺し』の噂がある。
奴は最近、アズガバーナ公国の最上位魔術師を殺害をしたと聞く。奴がその『魔術師殺し』であるならば、わたしを狙っていてもおかしくはない。わたしはこの帝国の最上位魔術師なのだから。
恐らく奴はわたしが動こうと動かまいと殺しにくるはずだ。もしわたしが動かまいとすると、必ず妻子までもが狙われてしまう。ならば――――
「――――よう」
わたしは奴の後ろに一瞬で移動した。
「…………!!」
「さっきからわたしの家を覗き見しがって、何の用だ?」
「……待っていたよ」
奴が妙な笑い方をする。
「……そなたに聞きたいことがある。そなたは何者だ? もしわたしを暗殺するつもりなら甘すぎる。わたしはこの帝国の英雄だからな。殺気など簡単に見破れる」
「……暗殺? そんなこと、おれがするとでも思ったのか?」
なんだ? 奴は異様な雰囲気を出している。戦場でも味わったことの無い雰囲気だ。
それにわたしを暗殺しないだと? 愚かだな。
わたしは最上位魔術師だぞ。そんな簡単に殺せるとでも思ってるのか?
「……まあいい。そなたには二つの選択肢がある。逃げるか捕まえられるか、だ。さあ、どっち――――」
「お前を殺す!!」
奴は詠唱を唱えだした。
「我が親愛なる魔王様よ、この場で貴殿の力を欲する――――」
くそ。これは、――――。
わたしは逃げた。怯えて逃げたのではない。戦略的撤退だ。
この魔術を知っている。
これは反魔術組織『赤の聖騎士』が使っていた魔術。どの魔導書にも記されていないまるで別世界から来たような“基本”魔術。
だからこれは撤退だ。撤退しなければ――――。
わたしの判断はすでに手遅れであった。
奴の魔術に引っ掛かり、逃げられない縛りが作動したのだ。
そして奴の魔術が発動する。
「結界魔術《煉獄》……!!」
※※※※※
新星暦二九九七年四月九日
マグナドール・ルシフル公爵が行方不明となった。
それに伴って帝国では早急に緊急会議が行われた。
「遂に我が国でも『魔術師殺し』の被害が出てしまったか」
「『魔術師殺し』……? 貴殿はそんな噂とやらを信じているのか!」
「だがしかし、我らが英雄マグナドール殿が行方不明ですぞ。こんなことができるのは最早『魔術師殺し』以外に考えられないであろう」
「貴殿は少し石頭では無いか? 今回は『行方不明』ですぞ!? となると考えられるのは反魔術組織『赤の聖騎士』の残党だと考えるのが妥当では無かろうか? 奴らはそのような魔術を使ってきたであろう?」
「それは無いだろう。『赤の聖騎士』が我々に牙を向いてきたのはおよそ三十年前。たとえ残党がいようとそんな老いぼれではいくら年を取ったマグナドール殿を相手にして勝てるまい」
「だったら、誰がマグナドール殿を殺したというのだ!?」
「何を言う――――!? マグナドール殿がまだ死んだとは確定していないだろ!」
「――――静粛に!! 皇帝陛下の御前であるぞ」
皇帝陛下の側近が各領を管理する貴族達の暴言を止めた。
緊急会議は皇帝陛下の命のもと、各地から貴族達が招集され城の王室に集まる。そこで貴達が意見を出し合うのだが……大体割れてしまう。
だが彼らはしっかり自分の身分を弁えている。よって皇帝陛下の御前だと聞かされると必ず静かになる。
静かになった途端、皇帝陛下はこう切り出した。
「我が右腕、マグナドール・ルシフル公爵が行方不明となった。これは由々しき事態だ。よって我百三十代ザノア帝国皇帝より捜索隊を要請する。構成は魔術攻撃部隊十名、魔術遊撃部隊四名、貴族二名、そして我が国の誇りの魔術師――五大魔術師の計十七名だ……!!」
この提言により、各部隊から我こそはと人が集まり、捜索隊は結成された。
そしてその中に五大魔術師も加わった。
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