1-74 後悔しない
新星歴二九九八年六月七日 午前十一時十分
戦乱の中、魔界生物兵器アヴァロンが猛威を振るう。
「お母さん……」
「大丈夫……大丈夫だから!!」
家屋の三階相当、子供を抱きかかえ身ごもる母親。
この親子は戦時中逃げ遅れてしまい、身動きが取れなくなっていた。
そこにアヴァロンは覗き見る。
高位魔術《豪炎の咆哮》。
奴は彼女らに向けて魔術を放つ。
まさに絶体絶命。
だがここで彼女が現れる。
放たれたと同時にその魔術は消滅。
そして、アヴァロンの核にいた人間は宙に飛び出し、アヴァロン自体は消滅した。
「全く、キリが無いな」
五大魔術師第二位 ゼルベルン・アルファ。
彼女は今苦戦している。
核にいる人間を救う方法。
それは王都中を結界魔術《表裏の間》を張り、核にいる人に食い込ませないギリギリの高位魔術《鋭利の旋風》で切り筋を入れ、高位魔術《焦点》で宙にあげる。
あとはタレミア復国団の魔術師に宙に上がった者を拾わせることでグレイバルの人質となった者を救う。
だが、魔界生物兵器は何度消滅させようと潰す度に増えていく。
幾ら飛翔して高速で人間を救おうと多すぎる。
更に厄介なのはそのアヴァロンの中身の大半がタレミシア魔術師団であること。
彼らはタレミシアの盾となった者だが、ゼルベルンには関係無い。
彼らもまた元タレミアの民。
この戦、もう誰も死なせない。
「教会には奴の魔術を中和する結界魔術を施したが、タレミシアの魔術師はどうしようもない。だが、咄嗟に組み立てた魔術で教会に避難している国民がアヴァロンになっていないのは大きい。余程、単純な魔術なのだろうな」
ここで王都中に「モニター」が流れる。
『タレミシア魔術大国を愛する国民へ、と言いたいところだがもう君たちは勘づいているだろう。
君たちが化け物へと変貌させたのは紛れもない私だ。そして君たちはゼルベルン・アルファを抑制するための人質となった。
正直、君たち人間なんかはどうでもいいんだ。私はとある目的の為この国の王となった。
そしてその悲願が今日に果たされる。
君たちには悪いがこの国を滅ぼさせてもらう』
グレイバル、今度何しようと言うのか。
『つまり現時刻を以てタレミア王国第一王女アメリア・ランドロード・タレミアの処刑を行う!
予定は早いが、致し方ない。
さあ、アメリア。最後に戦場を見るがいい。』
ゼルべルンはそれを許さない。
「天性魔術・解放――――」
「それをさせるとでも思ったか……!」
ゼルベルンの魔術をグレイバルは《消滅眼》で抹消する。
「貴様あああぁぁぁあああ……!!」
ゼルベルンの現在地と王城との距離は遠い。
天性魔術で追いつくことはできるが、処刑まで間に合わない。
最悪の状況がゼルベルンの頭をよぎる。
グレイバルは手刀でアメリアの首元に当てる。
この時、全てのタレミア復国団の魔術師が絶望した。
そしてその処刑されると同時にその「モニター」は突然途絶えた。
※※※※※
「……来たか、ノア・ライトマン」
リーナが処刑される寸前、オレは「モニター」ごとグレイバルの腕を斬った。
「まさか、カーミュラスを敗って来るとはな」
「さすがに仲間の魔力が無くなったのはわかるんだな。グレイバル・サタン。それで、なんでオレの名前を知っている? オレが来ることも知っていたような口調なのも気になるな」
「当たり前だ。お前はアメリア・ランドロード・タレミアと同じ討伐対象だ。そしてお前とアメリアは恋人関係。良いものが釣れたよ」
「そうか。じゃあ、お前もカーミュラスと同じところに送ってやるよ」
ここでリーナは話し出す。
「なんで……なんで来たの!」
「そりゃ、お前の彼氏だからな」
「そうでも! こんな所まで来るなんて! わかってるの! あんた、殺されるかもしれないんだよ!」
「……オレの命なんか別にどうでもいい。オレはただお前を失うのが怖いんだよ。だから、オレたちは来たんだ……! お前を迎えに行くために……!」
「それで死んじゃったら、意味無いでしょ!」
「だからオレ一人で来た! もうお前はオレの大事な人だ! 死んでも連れて帰る!」
リーナはそれを聞いて一粒の涙を流す。
「熱いねぇ。で、もう終わりか」
「そうだな。待たせた。そろそろやろうか」
オレはある剣を呼び出す。
「力を貸してくれ。《天空の聖剣》」
オレを右手に顕現されし聖剣が奴に向く。
互いに睨み合い、様子を伺い、戦闘態勢に入る。
そして両者は一歩踏み出し殺し合う。
タレミシア魔術大国国王 グレイバル・サタン。
世界最強の魔術師の弟子 ノア・ライトマン。
タレミアの運命はこの戦いに委ねられた。
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