1ー65 刹那の冥境
天性魔術・解放は天性魔術を持つ者にとってまさに奥義であり極致でもある。
それを更に無詠唱で発揮できるとなるとドニーはやはり五大魔術師と同等くらいの力を持っていると言える。
まあ、言えるだけであってゼルベルンに勝てる保証は無いが。
「面白い」
ゼルベルンはニヤリと笑う。
一体、どのような天性魔術なのか。
見物だ――――。
ドニーは一瞬で間合いを詰め、ゼルベルンの胸に触れた。
「死ね」
そしてゼルベルンから心臓だけをもぎ取り潰した。
「なるほど。そういう事か」
「……!!」
しかし、ドニーが視認していたのは分身体。
高位魔術《蜃気楼》。
「すごいだろ。わざわざ内臓まで再現した分身体だ」
「ちっ……!!」
高位魔術《蜃気楼》は外見を再現するだけの実体のある分身体を作り、身代わりにするのが基本である。
だが、ゼルベルンは自身のあらゆる部分までも再現し、ドニーの天性魔術を伺った。
「おそらくその魔術は対象の身体に触れて致命的な一撃を与える、といったところだろう」
「……そうだ」
だが、それにしてもこれで天性魔術・解放はあまりにも弱すぎる。
ドニーが剣を取り、ゼルベルンに剣先を向ける。
そういう事か。
見えない、聞こえない、予備動作も無い座標攻撃。
ゼルベルンは勘だけでかわした。
「へぇぇ。いいね」
「これもかわすか……!!」
ゼルベルンが人差し指の先から放つ。
「高位魔術《鋭利の旋風》」
高速で空気の亀裂のみで対象を切り裂く風系魔術。通常なら違和感のあるガラスで反射したような歪みが見える魔術だが、相手は世界最強。
それすらも予見させない程の透明さで、ドニーの首を切り裂いた。のも束の間であった。
「……!!」
高位魔術《蜃気楼》。
その首は分身体。本体はゼルベルンの背後に居た。
《制動眼》。
ゼルベルンが振り向く前にドニーはゼルベルンの身体を動かなくする。
だが、相手は世界最強。
このような状況でも冷静に対処する。
ドニーはすぐに気づく。
自分が動かなくした化け物の身体は分身体だと。
ドニーは魔眼をそのままにゼルベルンの方へ振り向く。
《消滅眼》。
ゼルベルンはドニーが《制動眼》のまま仕掛けてくると見込んで、魔術の効力を失う魔眼で対応した。
ここで思わぬ刺客がゼルベルンに襲う。
「天性魔術を行使する」
「……!!」
ドニーの天性魔術は《刹那の冥境》や魔眼以外も存在していた。
(動けない……!!)
なるほど。
「お前も気づいているだろう。我々、中位魔族以上になると複数の天性魔術を所有している」
「……」
「なんだ。もう死にたいのか」
「いや、この程度の魔術でよくもわたしを制限できるなと思って」
「……なに?」
座標攻撃による一点突破の必殺魔術。そして、それを確実に仕留めるために動きを制限して、確実に狙う魔術。
確かにこれは強力だ。
――――で?
「どうやらすぐ死にたいようだな、ゼルベルン・アルファ!!」
ゼルベルンに剣先を向けて、天性魔術を放つ。
だが、それより先にゼルベルンは一瞬で姿を消した。
「くそっ……!! どこだ……!!」
「ここだ」
地の格闘術“【踏襲】天地の洞穴”。
ゼルベルンは既にドニーの頭上をとり、高々と上げたかかとを振り下ろして、ドニーを確実に地面に叩き込んだ。
「……がはっ!! くそっ……!! なぜだ!!」
ゼルベルンは地上に降りてドニーの元に近づく。
「おいおい。それだけか、魔族。その程度の力であのフレイ・ハズラークが倒されたとはとても思えない。相性かもしくは日々の研鑽を疎かにしていたのかだが……。まあ、どちらにしても全盛期の彼女には及ばないだろうな」
「……なにを!!」
ドニーはまた最高位魔術《超速再生》で完治させ、再び立ち上がる。
「それでどうする? 全く使えない魔術でわたしに挑むか、もしくはたいしてつまらない体術で挑むか。君はどうせ死ぬ身なんだ。最後に好きな方で来たまえ」
「ど、こまでも俺を見下しやがって! 必ずお前を殺す!!」
ドニーは一瞬でゼルベルンの首元まで接近した。
首を描き切ろうと真下からしゃくるように剣を振るが、ゼルベルンは人差し指と親指のみでその剣を摘む。
《炎上眼》。
ドニーはゼルベルンの顔面のみを炎上させ、視界を奪おうと試みる。
《消滅眼》。
ゼルベルンはその魔眼をすぐさま抹消し、一切の隙を見せない。
「……!!」
中位魔術《礫地の剣》。
ドニーの魔眼はダミー。
ゼルベルンを魔眼に集中させて、足元を疎かにする。これにより、ゼルベルンを地中から突き上げる剣に反応できないようにした。はずだった。
ゼルベルンは中位魔術を発動するや否や、すぐさま姿をくらませ、そしてドニーの頭を蹴り飛ばす。
ドニーは蹴り飛ばされながらもすぐさま体勢を整えて、立ち上がった。
「いいね。君にはその泥臭さの戦い方の方が合ってるよ。……!!」
ゼルベルンはこの時、初めて頬に擦り傷を負った。
「へえぇぇぇ。やるじゃないか。君はどうせわたしになにも出来ず倒されると思っていたが、まさかここで一本取られるとはね」
ここでゼルベルンの一人称が変わる。
「良いだろう。褒美だ。おれの天性魔術を見せてやる。せいぜい歯を食いしばるがいいよ」
この時、中位魔族ドニー・デビルブルは五大魔術師ゼルベルン・アルファの真の力を知ることになる。
もうどっちが悪役かわからん。
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