1ー62 《契約》
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新星暦二九九八年六月七日 午前十時半頃
オレと、アリア、エミリー、ルークは今、城の中間層まで何もなく足を運んだ。
違和感を思えるほどに城に誰もいなかった。
だが、儀式魔術を撃たれた際、光りだした魔術陣を見て理解した。
「ルーク」
「なんだい?」
「お前も気づいてるだろ。この魔術陣でオレたちが侵入されたのがばれたぞ」
「わかってる」
儀式魔術で媒介となった魔術陣には探知機能が備わっていた。
つまり部外者のオレたちの位置が割り出された。
「どうする」
「……なら、ここは僕に任せてくれないか」
ルークが立ち止まる。
「君たちは先に行っててくれ。ここは一本道だ。すぐ囲まれてはリーナちゃんのところまで間に合わなくなる」
「でも、それじゃあルークが……!」
「大丈夫。僕だって勝算があって言ってるんだ。絶対に死にはしないよ」
「……わかった。お前の言葉を信じる」
「ノア……!!」
エミリーがオレの手を引っ張る。
「なんで、置いていけるの! ルークが死んでもいいの!!」
「いやオレはただルークの言葉を信じただけだ。それにルークは本当に勝算があるんだろ。あの魔術陣の読解して探知されたことも気づいた。なら、心配ない。あとはオレたちがルークを信じるだけだ。それに、オレはルークも含めて誰も死んでほしくない。こいつはもう、オレの知ってる奴じゃないのはわかってる」
「……!!」
エミリーはオレから手を離す。
「いっておいで、エミちゃん」
「……わかった。でも、約束して! 絶対無理したら駄目だよ! やばいと思ったらすぐ逃げて! わかった!」
「わかった。でも、大丈夫。無理もしないから」
オレとエミリー、アリアはルークを置いて先に進み走り出す。
ルークは手を振っているのが見えた。
ルーク、お前の言葉を信じる。
だから、ここでくたばるなよ。
オレは必ずリーナを必ず助けることを改めて誓った。
「ちょっと待て。なぜ一人しかいないんだ」
「ごめんな、タレミシアの魔術師さん。ちょっと探知の魔術陣を改ざんして四人ここにいる情報にすり替えたんだ。悪いな」
ルークはすんなり多くのタレミシアの魔術師に囲まれてしまった。
「……まあいい。どのみちお前たち侵入者を始末せよとの団長のご命令だ。ここでお前を始末してあと三人も探して殺すとしよう」
「それはできないよ」
「……なに?」
ルークは言い放つ。
「いくら洗脳されているとはいえ君たちを殺さないよ。ここで君たちを足止めする。抵抗できるならやってみな」
「……餓鬼の分際が偉そうに……!! 総員……! こいつを殺せ!!」
魔術師はルークに向けて魔術を放った。
それは決して避けられない攻撃。だが、その魔術はすぐに無に帰る。
「天性魔術を行使する。今放っている魔術を解除し、跪け」
すると、放たれた魔術はすぐ消えてルークを囲む全ての魔術師が一斉に立ち膝をついた。
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「まさか、こんな早く来るとはな。ここまで来るのに一日半かかる距離を半日なのは予想外すぎた」
ゼルベルンは中位魔術《飛翔》で玉座の間まで飛ぶ。
「なに、君も聞いていただろ。わたしだって成長するんだよ。もう後悔しないためにもね」
「へえ。後悔か……。それはどうかな。残念ながら私とお前との間には互いに干渉しない《契約》がある。タレミア王国陥落後、お前を呼び出し交わさせたはずだが……?」
魔術には《契約》という概念が存在する。
その《契約》互いの利害が一致したとき初めて強く結びつき、破ったものには罰が与えられるというもの。
グレイバルはそれを利用し予め《契約》という名の条約を結んでいた。
だがゼルベルンはそれに動じない。
「ならばその《契約》を破棄する」
「そうか……。ならお前は魔術の概念から呪い殺されるぞ」
ゼルベルンの頭上より、城を両断できるほどの大鎌が出現し、首元まで接近した。
絶対不可避の呪殺。その大鎌は魂ごと切り裂く。
グレイバルが笑みを零す。
だが、その笑みはすぐに消失した。
「……は?」
精霊魔術《解呪》。
ゼルベルンは精霊族の血を引いている魔術師。
そして、精霊魔術は精霊族特有の魔術。
その中でも《解呪》は精霊魔術の中でも高難度の魔術で、更に全ての『呪い』を打ち消すことができるのは精霊族を統べる『精霊女王』のみ。
だがゼルベルンは最も解くのが難しい『概念の呪い』を見事に解いてみせた。
「概念如きでわたしを止めれると思ったか」
「なるほど……。さすが五大魔術師と呼ばれるくらいのことはある」
「……君はここで殺す。私の生徒に手を出したんだ.。ただで死ねるとは思うなよ?」
ゼルベルンとグレイバル。
それぞれが拮抗する中、一人の魔術師がその間に割り込む。
「グレイバル様。ここは私にお任せを」
「ドニ―、お前に奴を殺せるのか?」
「ご安心ください。いくら最強といえど下位魔族に負けるような実力です。本物のクインテットではありません。私、一人で十分でしょう」
「……いいだろう。存分に殺したまえ」
「御意」
もう一人のタレミシア魔術師団副団長 ドニ―・デビルブル。
奴はゼルベルンの前に立ちはだかり、黒い渦に覆われ姿を変えた。
頭部に三本生えた角、八枚の大きな翼を広げ、奴はどす黒い魔力に覆われた。
「魔族……か」
「はい、これが私の本当の姿。そしてあなたを殺します」
「そうか……。なら、わたしをせいぜい楽しませろ」
タレミア復国団団長ゼルベルン・アルファ対タレミシア魔術師団副団長ドニ―・デビルブル。
両者の戦いによりこの戦争の戦況が大きく揺らぐことになる。
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