1-58 深層の鉄槌
儀式魔術《嗜虐の滅光》による犠牲者の数、約一万人を確認。
これは王都の人口百万人の約一パーセントが犠牲となった。
その一万人の内、六百人がタレミア復国団の魔術師であり、貴族二百人、その他全てが平民であった。
灰塵と化した城外よりタレミシア魔術師団は国家反逆を阻止するため出撃する。
そしてタレミア復国団第二部隊もまた作戦行動のもとタレミシア城へと侵略開始。
タレミア復国団総勢四千人対タレミシア魔術師団総勢十万人。
さらに、ここに奴らが現れる。
「お願いします、タレミシア魔術師団のお方!! どうか、この子を! この子を救ってく――――」
儀式魔術により両足が分断された息子を助けるべく、母親はタレミシアの魔術師に助けを求めようとするが、親子諸共その魔術師は頭を吹き飛ばす。
「ははっ……! やっと人間を殺せる……!!」
その魔術師は歓喜を浮かべ、天を仰いだ。
「最高だよ……!! ありがとう! グレイバル!! こんな人間共を皆殺しにできる状況を作ってくれて!!」
奴の名はセントミラル・アルデヒド。
タレミシア魔術師団副団長である。
そして、奴の本性が現れる。
奴は黒い渦を巻いて姿を変えた。
頭部から生えた二本の角。肌を黒く染まり上げ、二枚の翼が顕現した。
「じゃあ、殺そう!!」
そう、この戦場に魔族が出現したのである。
※※※※※
「《断崖の業火》」
先にアミールが先制する。
指先に込めた火球がグレイバルに襲う。
グレイバルはそれを右手で軽々と弾き、代わりに鉄の魔術をアミールに送る。
「《深層の鉄槌》」
高位魔術《深層の鉄槌》。
これは鉄の塊の先を最大限に尖らせ、人体を貫通させる地系魔術。
その魔術は精度が高くなればなるほど貫通力が増し、さらに――――。
「……!!」
アミールは高位魔術《千差万別の防壁》を無意識に展開。
高位魔術《深層の鉄槌》を迎え撃つが、その防壁は瞬く間に破られた。
アミールは咄嗟に首を傾げるも、頬に擦り血が垂れる。
「にしても、お前は残酷なことを考える。わずか四千人という戦力で我々に立ち向かうのだから」
「残酷……? 何を言っているんだ? 俺達はすでに死ぬ覚悟はできている。姫様を救えるのなら、どんな手でも使う」
「……残念だが、ゼルベルンはもう来ない」
「何……?」
高位魔術《深層の鉄槌》の同時複数展開。
「既に奴の転送用魔術陣は破壊した。当然、奴が転移の天性魔術で無いことも把握している。つまり、お前らは詰みだ。潔く私に殺されればいい」
《深層の鉄槌》が放たれた。
再び、アミールは高位魔術《千差万別の防壁》を展開する。
同じことをするアミールにグレイバルはニヤリと笑う。
だが、アミールにその鉄の槍は届かなかった。
「……!!」
「俺はあの偉大な魔術師を信じている。ゼルベルン様は必ず来る」
「大口は私を倒してから言うんだな!!」
高位魔術《深層の鉄槌》の大量照射。
アミールもまた二重に高位魔術《千差万別の防壁》を展開する。
この鉄の猛攻にアミールは防壁の精度を上げるが、さらにグレイバルの魔術は加速する。
「くそっ……!」
一枚目の防壁が破られた。
「どうする……!! アミール・タルタロス!! このまま行くとお前はここで死ぬことになるぞ!!」
二枚目の防壁も突破された。
そして、その咆哮がアミールに直撃した。
「アミー……!!」
アメリアは叫んだ。
「なぁんだ、この程度か。お前には少し期待していたのだがな……。まあいい。これ、で――――」
高位魔術《蜃気楼》。
アミールの分身体はやがて消える。
グレイバルの背後より眩い光の斬撃が飛ぶ。
「光の剣術“【宝刀】煌めき”……!!」
グレイバルの首が飛んだ。
アミールは右手に魔剣を持って奴の背後をとっていた。
アミールはすぐさまアメリアのもとに向かう。
「アミー、これで――――」
「いえ、まだです。奴はまだ生きています」
アミールは振り返り構える。
グレイバルの体は起き上がり、やがて首が再生した。
「おいお前、その剣は一体どこから持ってきた」
「これは元五大魔術師フレイ・ハズラークがお作りされし魔剣だ。名は《時空の魔剣》。時と空間を司る魔剣だ」
「フレイ・ハズラーク……か……。奴なら知っている。あの下位魔族に負けるほどに弱いこともな」
「あまりハズラーク侯爵を舐めないでほしい。彼女も偉大な魔術師だ」
「そうか……ならばこれはどうだ!!」
高位魔術《深層の鉄槌》が再び跳んでくる。
「くそっ!!」
ただし方向はアメリアの方だ。
「光の剣術“【秘剣】魔術が――――”」
アミールは自分の剣術が通じないことを咄嗟に理解し、自身の身体でアメリアを庇った。
そして、アミールの腹部は貫通した。
フレイ・ハズラークが作った魔剣の多くは意思を持っています。
そして使用者はその魔剣を呼ぶことで手元まで顕現させることができます。
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