1-57 儀式魔術
※※※※※
新星歴二九九八年六月七日 午前十時半頃
タレミア復国団は所定の位置にてアミールの指示を待つ。
「団長、全員配置完了しております」
「そうか……」
これで少なくとも呪われた十年間が救われる。
アミールは深呼吸をした。そして――――
「第一部隊、撃て」
その火蓋は切られた。
「天より出でたる雷よ。その広大な力と光で我らを導き給え。
電光と高熱。
さあ、打ち砕け。
高位魔術《天翔の雷》」
「豪快なる炎、莫大な火力は我らを絶望と希望を招く。
開かれる灼熱。焼き尽くす炎光。
その炎で全てを蹴散らせ。
高位魔術《豪炎の咆哮》」
「広大な土地に突如現れるその怒り。それは燃え上がり、やがて溶岩と化す。
高温の岩石。消えていく緑。
そのマグマで全てを侵食せよ。
高位魔術《大噴火》」
「高密度の火球。慈悲なく爆発する業火。
一瞬にして消えゆくその衝撃に絶望を与え、やがて塵と化す。
打ち払え。
高位魔術《断崖の業火》」
「大渦より巻き込まれし大海よ、その渦で巻き込み対象を穿つ。
絶死の宿命。死にゆく生命。
その渦は全てを呑み込む。
高位魔術《舟艇の皆渦》」
「巨大な風に切り裂かれし大気よ、全てを食らいやがて消える。
大いなる目は慈悲なき侵攻。天命奪いし残虐の風。
終焉よ、ここで暴れよ。
高位魔術《裂切の台風》」
どれもが城に直撃した。だが、城もまた固い結界魔術で覆われている。
たかが高位魔術の猛襲だろうと、ヒビ一つ入らない。
しかし城の結界魔術は完璧なものでは無い。
この高位魔術は一般の魔術師ならダメージにすらならない。が、これは完璧な詠唱による通常より二倍ほどの魔術だ。徐々にダメージが入り、やがてヒビも入る。
アミールは作戦通りに遂行した。
だが、この策略が裏目に出た。
グレイバルはそれを見ていた。
「そうか、奴らも動き出したか」
「はい」
「ならば私たちもそれに答えないとな……」
グレイバルは全魔術師に通達する。
「皆の者、これより内戦が始める。心してかかれ。まずは始まりの砲撃を見よ」
ここでアメリアは口を出す。
「グレイバル!! あんた、何するつもり!!」
「なぁーに、ただの挨拶だ。犠牲者は出るがな」
「……!!」
「よく見とけ。これがお前に関わった人間の末路だ」
グレイバルはこれより魔術を発動する。
ノアもまたそれに気づく。
「やばいな」
「ああ」
「……?」
「……なにが?」
「いや、この無数に刻まれた魔術陣が光りだした」
魔術陣が避難ルート全てに光、それを予告される。
「それの何が悪いの?」
「この魔術陣は儀式魔術のもの、つまり大量の死人が出るぞ」
「「……!!」」
その魔術は発動される。
この城に充満した魔力が一気に一つの頂上に集まる。そして――――
「撃て」
グレイバルの合図とともにそれは放たれた。
城を囲う半径三百メートルに光の亀裂が走り、やがて城以外のすべての家屋もろとも爆発した。
『団長!!』
「なんだ!! 何が起こった!!」
『それが……第一部隊全ての魔術師が爆発に巻き込まれ壊滅しました!!』
「なに……!!」
想定外の魔術、アミールは息を吞んだ。
これは儀式魔術《嗜虐の滅光》
一点に魔力を集中させ、放たれる大規模魔術。通常、儀式魔術は多くの魔術師により行うものだが、グレイバルはそれを城中に魔術陣を敷き、城中の魔力を媒体にその絶望の光を打ちやがった。
恐らくタレミア復国団の魔術師はおろか城周辺に住まう国民全てを焼き払いやがった!!
「グレイバル!! お前……!!」
「思い知ったか、アミール。これがお前らの最後だ」
アメリアは顔を青ざめる。
「あんた、なんてことを……」
「仕方ない。これは全て秩序のためだ。国に歯向かうものは殲滅する」
「グレイバル……!! 罪もない人も巻きこんで!! よくも……よくも……!!」
「ははっ……ほざけほざけ! どうせお前は何もできない」
アメリアは十字架の台に手錠で拘束されている。さらにこの十字架の台は常に魔力を吸い取り、現状アメリアは魔術を使えない。
「せいぜい、この国が亡ぶのを見届けるがいい。そのあとにお前を殺す」
「……!!」
アメリアは噛みしめるしか無かった。
悔しくてたまらなかった。
グレイバルは余裕の笑みで外を見る。
だが、その笑みはすぐに消える。
「高位魔術《豪炎の咆哮》……!!」
グレイバルの方へその炎は放たれる。
それをグレイバルは易々と避けた。
「来たか……!!」
そこに現れたのは二メートルの巨漢でありながらこの国を支え続けた魔術師。
そして、アメリアはその男に声を上げる。
「アミー!!」
元タレミア魔術師団団長 アミール・タルタロス。
「長らく待たせてしまい申し訳ございません、姫様。もう安心です。必ずあなたを救います」
「それはどうかな、アミール・タルタロス。さあ、始めようか!!」
アミール・タルタロス対グレイバル・サタン。
ここに両者は激突する。
星★★★★★、レビュー、感想、ブックマークのほど、よろしくお願いします!!
1つでも多くの評価ポイントがあるだけで作者は泣いて大喜びします!!




