インパチェンス
強い個性
ガサガサ
「?」
いつものように洗濯物を干していると茂みの方から物音が聞こえる。兎かと思い無視をしていると、茂みの揺れが大きくなっていく。怪しくなり、手を止めて茂みを凝視する。しばらくしたその時
ガサッ
間に合わなっ…
いきなりのことで尻餅をついてしまった。茂みの中から飛び出してきたのは兎などではなく魔物のようだった。魔物には茨のようなものが刺さっており死んでいた。
「アセビっ、大丈夫だった?」
放心している間に貴方が駆け寄ってきて手を貸してもらい立ち上がった。
きっとこの魔物を倒したのは貴方なのだろう。
「助けて下さり有難うございます。今のは、何をしたのですか。魔法を使ったのですか」
「うん、そうだよ。知識はあっても見るのは初めてだね」
「はい、植物属性の魔法をお使いになるのですね」
「僕の得意属性だよ」
「私にもあるのでしょうか。魔法は使えるのですか」
「ああ、確かにアセビはロボットだからね。でも安心して!この天才科学者の僕が作った君は魔法も使えてしまうのさ!!」
「流石です」
熱弁をしている貴方を横目に洗濯物を干し終わる。
「そういうことだから、魔法、使ってみる?」
「宜しくお願い致します」
黒のワイシャツとズボンに着替え、家から少し上の方へ登ったところにある草原に来た。
「魔法を試すにはあの庭は狭すぎるからね。ここでしよう」
「はい、マスター」
「といっても、まだアセビがどんな属性の魔法を使うのかは分からないんだよね」
「最初から分かっているものではないのですか」
「人間の場合は体内で自動的に魔力が生成されるんだけど、アセビにはそれができないから魔石を入れ込んでいるんだ。だから属性は魔法を使ってからのお楽しみってわけ」
「理解いたしました」
「僕みたいに複数使う人もいるから、アセビがどんな属性持ちか僕も楽しみだよ」
その場で貴方は植物・土・水の魔法を見せてくれた。
改めて見る魔法は美しく輝いていて宝石のように見えた。魔法を使い芸術を作り上げていくように。
「それじゃ、まずは魔力を感じよう。目を閉じてアセビの胸の中心。ここに魔石が入っている。しっかり感じれるようになりなさい。そしたら周りの魔力も感じ取れるようになるよ」
「はい、分かりました」
貴方の指先が触れる奥を意識する。静かにゆっくり、水が流れるように。
むずかしい。
「ロボットだからね、想像するっていうのは多少難しいかもしれないけど、アセビなら大丈夫だよ。なんたって僕が作ったからね」
「はい、マスター」
ゆっくり、ゆっくり。空気を口の中で行き来させる。
「きた!」
貴方の声と共に体の中が熱くなる。
「これが魔力、なのですか」
「そう、それが僕の見ている世界だよ」
綺麗で少し騒がしい、そんな世界だった。貴方のことがより一層鮮明に見えた気がした。
「すごいね、アセビ。体は大丈夫そう?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ次は実際に魔法を使ってみよう。その魔力を外へ放出すすイメージだよ。魔法はイメージが命だ。」
「わかりました。やってみます」
といったものの、さっきより難しい。ロボットである私にはイメージという概念そのものがあまり理解できない。それでも、歩く想像、洗濯物を干す動くの想像、咀嚼する動き、そんな「イメージ」
「大丈夫だよ、深呼吸だよ」
「はい」
さっきと同じように体の中が熱くなる。その熱さを外へ放出するように。
イメージ、イメージ…イメージ
「イメージ…」
「来るっ!今だよアセビ、がんばれ!」
そっと瞼を開けると目の前には微笑んでいる貴方と歪な剣を持っている私の手があった。
「これは…」
「うん、これがアセビの魔法だよ。創造系、土属性ってところかな」
「そう、ぞう…」
「機械専門の人たちに多い魔法だよ。多いと言っても数えるぐらいしかいないけれどね。認知度も結構低めの魔法かなあ〜」
正直に言うとハズレを引いたと思った。
「アセビには少し不向きな魔法だけど、慣れれば物凄く便利だし強いよ」
「強いのですね」
「そうだよ〜。創造系は魔法の中でも特にイメージが命の魔法。構造などを完璧に創造することでイメージしたものを生み出せるんだ。有機物で個体のものに限るけどね」
「理解いたしました」
「アセビはいま咄嗟に剣を生み出したんだろうけど、他の武器もイメージを練習すれば作れるようになるよ」
少し当たりかなと思った。
「それにしても土属性か、僕とおそろいだ。嬉しいものだね」
「よかったです」
「どうする?体は大丈夫?まだ練習する?」
「…」
どう答えるのが正解なのだろう。
「うーん、もう少し練習してみようか。時間もまだまだあるからね」
「はい、マスター」
それから何時間だろう。日が沈み始めるまで練習を続けた気がする。終わる頃には最初作った歪な剣が剣先まで綻びなく完璧と言える程まで作ることができた。鉱石を作ったりはできないので鉄製の剣などは作れないが、耐久力や使い勝手などは作る本人の技量によって決まるようで、今作れるのは木剣ほどというところだろうか。
「お疲れ様、アセビ。今日はいいものが沢山見れたよ。ありがとう」
「いええ、私もまた新しい知識が増えました。ありがとうございます」
家に変えると今日は夕食を作ってくれるらしく、食器などの準備を終わらせた後椅子に腰を掛け沈んでゆく太陽を眺めていた。
「おまたせ。今日は朝倒した魔物を使って作ったよ」
「え」
「そんな驚かなくても。魔物を使った料理があるのは知ってるでしょ?」
私が驚いたのは魔物を料理に使ったからなどという一瞬理解し難い理由ではない。
私へ家事を任せる理由が少しわかった気がする。
「次からはきちんと私が作ります」
「?うん、ありがと!」
最初は躊躇ったが眼の前で私が食べるのを待ち遠しそうに見つめる貴方の眼差しに負け、少々目を逸らしながらソレを口へ含んだ。
おどろいた。美味しかったのだ。はっきり味がわかる訳では無いが、不味いわけではないらしい。見た目以外はきっと完璧なのだろう。
「おいしかったです。ご馳走様でした」
「よかったよ」
「料理は見た目or味」という人類が滅亡するまで続くこの論争。見た目に一票入れてしまうかもしれないがどっちもどっちといった所だろう。
だがそんなの関係なく、沢山動いた後のご飯はいつもより美味しく感じたし、誰かに作ってもらうというのも、何か、いいな。と少し思った。
また、次回