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ノースポール  作者: 海鼠
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センリョウ

恵まれた才能

 小鳥たちのさえずりが聞こえる少し前に意識を入れ身だしなみを整える。

鏡に写った自分は、機械と言われても尚生身の人間だと勘違いしてしまう程忠実に再現されている。


陽の光が入って薄く輝く瞳も軽く、それでも重力で重く靡く髪、生暖かい肌。

自分を見ているのに自分ではない誰かを見ているような感覚に陥る。


まだ私しか起きていないようで静かな家の中に足音が響く。窓を開け洗濯機を動かし朝食兼昼食を作る。

 

「ん、おはよう、アセビ」

「おはようございます、マスター。食事が出来上がっております」


既に日は昇りきって窓から溢れていく陽の光が貴方の輪郭を確かにした。


「「いただきます」」


窓の縁に集まってくる小鳥たち。貴方はパンを小さくちぎり小鳥たちに与える。

それを私は伏せた瞼の隙間から覗く。


「今日は仕事があるから暫く部屋に籠もっているけれど、何かあったら部屋をノックしてくれ」

「分かりました」


それからまた機能と同じように庭の整備をし洗濯物を干す。今日は家の中の掃除もする。

リビング、キッチン、自室と貴方の部屋


コンコン



返事はない。

もう一度ノックをすると中から声が聞こえてきた。


「失礼します。部屋の掃除をしに来ました」

「もうそこまで済んだんだ。流石だね」


扉を開けた先は部屋一面の本棚と書類のように長い文字が書かれた紙が貼っ付いていたり、散らばったりしていた。


「僕の部屋はね…、今日はいいや。わざわざ来てくれたのにごめんね」

「いえ、では失礼します」


リビングの方へ戻ろうとした時に廊下の奥に何かが見えてそこまで行ってみると、地下へつながるような扉がついていた。


「ここの掃除は…」


余計なことはしないほうがいいだろうと思い私はその場を後にした。

リビングに戻ってきたが仕事は残っていなかったので昨日言われていたように本を読むことにした。


カラスの声を目印に本を閉じ夕食の準備をする。

それと同時ぐらいに部屋を出てきた貴方は本を読みながら沈んでいく日を見る。


「マスター準備ができました」

「ありがとう。じゃあ食べようか」




「今日は何を読もうかな」

「昨日勧めてもらった本、読み終わりました。新しく知識が増えるいい機会でした。ありがとうございました」

「良かった良かった。次は自分でなにか選んでみると良い」

「自分で、ですか」

「そう、いい出会いがあるかもね」


そう言うと貴方は本を読み出した。自分で考えて動くというのはしたことがなかったため、数秒間戸惑ったが、不意に目があった本へ手を伸ばし読むことにした。


「そういえば、今日僕の部屋汚かったでしょ」

「汚いなどとは思いませんでした。散らかっているなと」

「うんっ、汚いんだね」

「…」

「僕はね研究者なんだ。だから実験を沢山したり研究して書き留めていくんだ。

仕事をする日は部屋に籠もっている時間が長くなるだろうけど、気にしなくていいからね」

「分かりました。因みに、廊下の奥の方へ地下へ行けるような扉があったのですが、あの先の掃除はしなくてもいいんでしょうか」

「見つけたんだ。ほんと隅々まで掃除してくれているんだね。ありがとう。

あれはね、うーん、今度一緒に見に行ってみようか」

「?お願いします」


少し言葉をかわした後はお互い読書に勤しみ時間が来ると自室へ戻っていった。

また暫く天井を見つめ、時々地下室のことを考えながら、意識を落とした。




「アセビー、今時間あるかい?」

「はいマスター、大丈夫です」

「この前言ってた地下室、行ってみようか」

「分かりました」


ここ数日地下室のことばかり考えていたので気持ち足早に向かった。


「なんか歩くの早くない?そんなに気になるの?」


貴方が笑う。


「最近ずっと寝る前に何故か思い出してしまっていたので」

「なにそれ、人間みたいなことを言うね」

「いえ、私は機械です」

「そっかそっか、そうだね」


貴方は小さく笑っていた。私には何が面白かったのか、面白いという感情がないので終始よく分からなかった。


錆びた鉄が擦れる音が頭に響いて片目を瞑る。

扉の先には確かに階段が続いていて今まで見ていた景色とは対象的に殺風景だった。


「足元気をつけてね」

「はい」


洞窟のようになっているこの空間では足音やかすかな息遣いが響いている。

しばらく1m先も見えない階段を下っていくと一つの鉄の扉の前で立ち止まった。


「この先は僕の研究室。実験したりする場所だよ。そして、アセビ、君を作った場所だ」


そっとドアノブに手をかけて捻る。見た目通り重く、体重をかけながら扉を押す。


「さ、一応危険な物も置いているからね。慎重に。好きに見るといい」


目の前には謎の液体が入った筒があり2mは優に超えているだろう。


「それがアセビが今まで、上に行くまで入ったいたところだよ」


部屋の壁には大量の研究資料が貼ってあった。中には賞状などもあった。


「これは、何の賞状なのですか」

「魔法学校の卒業証書さ。ここサルトゥスからどれぐらいかな、かなり離れているけれどストレガパルマってところに行くとね、アルテミス一の魔法学校があるんだ。僕、一応特待生だったから」

「さすがです」

「そっちの賞状はアルテミスで一番の知識を得た人が貰えるやつ」

「かなり大事なものじゃないんですか。床に投げられてますが」

「うんー、取ろうと思って取ったものじゃないし。変なオジサンたちが勝手に決めて渡してきただけ」

「そうなのですね」

「それに一番と言っても研究とか実験とかの分野で一番なだけだかね」

「才能に恵まれたのですね」

「…そんなことないよ」


私のマスターは、とても、すごい方なのかもしれません。


それから何時間経っただろう。地下なのもあって時間の感覚が狂う。

機械ばかりが溢れかえっていて。少し鉄臭くもあった。


「そろそろ戻ろうか。17時を回りそうだ」

「すぐ夕食の準備をいたします」


それからはまたいつものように手を合わせ、少し言葉を交わし眠りにつく。

地下室を思い出す。


「もう…すぐ…だし…あげるからね」


微かな、掠れた記憶を脳の裏で再生しながら意識を落とした。



また、次回

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