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ノースポール  作者: 海鼠
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アマリリス

おしゃべり

 庭の整備が終わったら次は洗濯をする。

白い服ばかりで緑を背に靡く服は妙に綺麗で、日差しで輝いて見える。


家の中に戻り時計に目をやると17時を回っていた。時期は春の終わりに差し掛かっており、日の入りが遅くなっているため、まだもう少し早い時間帯だと思っていた。


「すぐ夕食を作ります」

「そんなに急がなくてもいいよ。初めてだからね。アセビのペースで進めてくれ」


軽く会釈をした後すぐキッチンへ向かい今日の夕食を作る。

貴方は自室とリビングを行き来したり、本を読んだり、外や私を眺めたりしている。


夕食が出来上がった頃と同時にカラスの鳴き声が聞こえ、不意に外へ目をやるとすっかりあたりは暗くなっていた。


「不思議だよね。日の入りが遅くなったかと思いきや少し見ないうちに空の表情は変わっていく」


自室から出てきた貴方が外を眺めながら言う。


「そうですね。マスター、夕食が出来上がりました」

「いい匂いだね。アセビが初めて作ってくれたご飯だ。楽しみだよ」

「すぐテーブルの準備をいたします」


「じゃ、食べようか。いただきます」

「い、いただきます」

「そ。ご飯を食べる前は挨拶をしないとね」


向かい合って座り、二人手合わせ温かさを流し込む。

窓から流れる風が食事の匂いを運んでいく。


「美味しいかい」

「私は機械なので美味しいかはわかりません」

「そっかそっか」

「それに、私はこのようにわざわざ食事を摂る必要はありません」

「そうだね。君はこの世界で最も高機能な人工知能さ。だから別に人間が食べる食事を口にしたって問題ない。君は僕の世話係でもあるけと、この先ずっと一人は流石に寂しいからね。暇に付き合ってもらう為にも作ったんだ」 

「そうなんですね」

「食事をする際にエネルギーを作り出すから、食べたほうがいいってわけだ」

「理解しました」

「よろしい」


「アセビご馳走様。美味しかったよ」

「良かったです。お下げしますね」

「ありがとう。食器を洗い終わったらソファまで来てくれるかな。お喋りしよう」

「分かりました」


 夜は気温が下がり肌寒い風が入ってくる。

皿洗いをしていると水がいつもより冷たい。気がする。


「終わりました」

「早かったね。ありがとう、お疲れ様」


少し離れた場所に腰を掛け一息つく。


「こうやって夕食の後は此処で二人ゆっくりするんだ。本もたくさんあるからね。いつでも此処で休めばいい。仕事はあっても無限にあるわけじゃない。暇になる時間もあるだろうから」

「分かりました」


貴方は本棚から本を何冊か取り出し一冊私へ差し出してきた。


「まずは簡単な短い本からでも読んでみようか」

「ありがとうございます」


英雄譚__


内容からして子どもが読むような本なのだろう。

淡々と続いていく文字を目で追ってく。

お互いのページを捲る音が鮮明に耳へ入ってくる。そんな草木の揺れるかすかな音さえも聞こえる静寂の中貴方の息を吸う音が聞こえ、口を開く。


「その本はね僕が小さい頃よく読んでいた本なんだよ。面白いだろう」

「はい。子どもでも読みやすいように構成されている話が素晴らしいと思います」

「そうだね」


と貴方は静かに微笑む。


「あの、マスター」

「ん?」

「先ほど、夕食の時間にこれから先一人。と仰っていましたが、配偶者などは居ないのですか」

「あー…」


貴方の顔が少し曇る。


「いや、居たよ。昔まではね。7年ぐらい前かな」

「そうだったのですね。昔まで。ということは何かあったのですか」

「……天寿を全うした。といえばいいかな。その人は持病があってね」

「良くないことを聞いてしまったのかもしれません。お詫びします」

「うんん、大丈夫だよ。アセビはもう僕の家族なんだから、聞く権利は十分あるよ」


「じゃ、もう遅いから部屋に戻ってゆっくり休むと良い。

また明日。おやすみ、アセビ」

「おやすみなさい、マスター」


お互い自室に戻り就寝の準備をする。

私が初めて目覚めた朝ぶりのこの部屋。ベッドへ横たわり少し天井を見た後、意識を落とした。


また次回

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