百花
目覚め
「……て」
「…きて」
誰かが、呼んでいる
光が差し込んでいる。
「起きて、朝だよ」
あさ…朝、ここはどこだろう。
「おはよう」
目の隙間から入る日差しに目を細め、意識を確かにしていく
目の前に居るのはおはようと微笑みかける美しい少年
少し赤みがかった髪を窓から流れる風になびかせる。
「おは…よう…、ございます」
喉を震わせ音を発する
「気分はどう?変なところはない?」
「…あ、ありません」
「そう、良かった。
君が無事に目覚めてくれた事を嬉しく思うよ」
朝の暖かい日差しのせいか、それとも貴方の微笑みのせいか
まだ意識がはっきりしない。
「そこのクローゼットの中に着替えの服が入っているから着替えてから向こうへおいで。僕は待っているから」
横たわっていたベッドの前に大きなクローゼットがある
「じゃ、ゆっくり」
そう言って貴方はドアをそっと閉める。
クローゼットを開けると真っ白な服が入っていた
服に袖を通し、鏡を覗いて乱れた髪を整える。
知らない、私はその顔を知らない
目の前の鏡に映るその顔を知らない。
扉を開けて右に伸びる廊下を進むと広い部屋に出た
リビングだろうか。
貴方は日差しの差し込む窓際で腰を下ろしている。
「…終わりました」
「うん。やっぱり似合ってる」
貴方は立ち上がりソファーへ場所を移す。
「君も座って、話をしよう」
貴方の目の前に腰をかける。
「まず僕の事だけど、マスターと呼んでくれ。
君は僕の世話係として作った自立型人口知能。よろしく」
人口…知能
「はい、マスター」
「あ、君の名前を決めなきゃね。何がいいかな?」
何も気にしない
スラスラとマスターは話を進めていく。
「要望はありません。付けてください」
「んー、ちょっと待ってねぇ」
貴方は窓から覗いている外を見ながら考える。
「アセビってどうかな」
「構いません。ありがとうございます、マスター」
「そう、良かった。これからよろしくアセビ」
また微笑む
風に乗って香る花の匂いで意識を確かにした。
また次回