弱者の意地
もっと仲間と一緒に居たい。願っても、もう叶わない事だってわかっているつもりだ。
僕はパーティーのみんなに比べて圧倒的に弱い。
魔法使いのように、魔法が使える訳でもない。
僧侶のように、傷を癒せる訳でもない。
戦士のように、屈強な肉体がある訳でもない。
かの勇者のように特別な力がある訳でもない。
パーティーの皆んなは「五人いれば得意な事も違う。君はそのままでも良い。」口を揃えてそう言った。
みんなで色んな場所に行った。
世界の果てと言われる場所で、見た絶景はみんなでまた見たいと思ったし、ここに来る前には、この冒険が終わったらみんなで酒を飲もうなんて約束もした。
…しかし、約束は果たせないかも知れない。
「お前だけでも逃げろ!」
誰かがそう叫んだ。きっと、僕が怖くて聴こえる幻聴だ。
「無謀だ!!俺たちの事は置いて逃げろ!!」
あまりにも怖いと仲間を見捨てろと幻聴が聴こえるほど僕は弱いようだ。
「お願い、みんな死ぬ事はないでしょ?せめて、私達の最後を皆んなに伝えて!」
まだ終わってないのに最後なんて言うなよ。
「逃げる事は悪い事じゃない生きてこその物種だってお前言ってただろ。」
お前は嫁がいるんだろ!生きて帰れよ。
『チャンスは1回ダイスロールは一度だけ。さあ、この状況を狂わせてしまいましょう!!』
聞いたことのない声。でも、不思議と力が湧いてくる。自然と声も出てくる。
「おい、化け物!!俺を狙え!!」
無策な訳ではない、僕は大量の火薬を持っている。こいつを使えばあるいは!!
”カランカラン”
軽い音が響く。
僕の体を鋭い痛みが襲う。赤い液体が吹き出す。爆発は起きなかったのか?遠のく意識の中、皆んなが近くに見える。何か言わないと。
「皆んな、ありがとう。楽しい旅だった。約束守れなくて、ごめん。守れなくてごめん。」
そう言って、僕は意識を手放した。
のちに彼は、仲間によって遺体は持ち帰えられ、こう語られた。
彼は勇敢に戦った。
彼は悪魔にも勝利した。
彼は強い肉体はを持っていなかった。
彼は魔法を使えなかった。
彼は特別な力を持たなかった。
されど勇敢に戦った。
彼は勇気を持って戦った。
彼は誠の勇者なり。