異なる未来
次に目が覚めると、白い天井、白い壁。殺風景な部屋に言いしれぬ不安を感じた。
ベッドから重い体を起こし、辺りを見回した。
窓があったが、鉄格子がはめられている。
扉から出ようとしたが、外側から鍵が掛けられているのか、開く気配がない。
部屋には不似合いな大きな鏡、マジックミラーだろう。鏡の前に立ってみた。
あれ?高校生じゃない、見慣れた今現在の俺の顔だ。ただ髪の毛が坊主にされている。
やつれてた表情が年齢以上に老けて見えた。
何故こんな所にいるかさっぱり思い出せない。
そして、さっき迄の記憶は全て夢だったのか?
夢にしては生々しすぎる感覚に、自分の手をみつめた。
ドアの鍵の開く音、見ると看護師だろうか?男性が入ってきた。
「森山さん、調子はどうですか?お薬の時間ですよ。」
彼は口元で笑顔を浮かべているが、目はまったく笑っていなかった。
その目は、完全に俺を否定していた。
「薬?ここは精神科ですか?僕は何故ここに閉じ込められているのか教えて下さい。」
「その話は、先生の診察で聞い下さい。」
「では、先生を呼んで頂けますか?記憶が混濁しているようなので。」
「伝えておきますよ。取り敢えず、お薬飲みましょう。」看護師の逆なでするような口調に苛立ちを覚えた。
「診察も無い、薬の説明も無い。これで僕が納得できると思いますか?取り敢えず、薬はそこに置いておいて下さい。」
男はわざとらしく溜息をつき
「気持ちを落ち着かすお薬です。今、飲んで下さい。服用時間が決まっていますから。」
「先に主治医と話をさせて下さい。その後服用します。」
「まずは、お薬を飲みましょう。気持ちが落ち着きます。話はそれからゆっくりしましょう。」口元には薄笑いをうかべたままだ。
「その薄っぺらな笑顔を止めてくれ。気持ち悪い。」思わず声を荒げた。
看護師は、マジックミラーに向かって合図を送った。
直ぐに数人の看護師がやってきて俺を取り押さえた。どいつもこいつも仮面を被ったように表情がない。
抵抗する俺に、「素直にお薬を飲んで頂けないので、注射にしますね。」
相変わらず、薄笑いで言った。数人の男に取り押さえられ、抵抗にも関わらず注射が打たれた。
俺は遠ざかる意識の中、看護師の薄笑いの顔が醜く歪に、蔑むような表情に変わっていくのを見た。
しばらくして、頬を叩かれ目を覚ました。
「啓介、起きろ!」
混濁した眠りを漂う中、無理矢理に引きあげられた意識は朦朧としていた。
定まらない焦点で見たのは、隼人の顔だった。
「隼人?」
「正解。取り敢えず、ここから出るぞ。説明は後だ、時間がない。これに着替えろ。」
俺は言われるまま、着替えたが薬のせいでフラフラだ。
隼人に支えられながら外に出た。
建物を出て振り返ると、やはり精神病院だった。横付けされた車に乗った直後に、俺はまた眠りに落ちた。
「静かに、ゆっくり運んでくれ。」隼人の声だ。
瞼を開けようとするが、微動だにしない。ただ、ストレッチャーに乗せられた感覚は何となくあった。しかし覚醒すことはできず、再び眠りに落ちた。