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5 え? オンのユリオス様にお仕置きできると思う?

 悠貴から告げられた言葉に、思わず唖然とする恋子。本人は、「気持ちいいよ!」と満足げに言ってもらえると思っていたのかもしれない。


「強いて恋子に拭いてもらえて良かったと思うのは、そのデカイのが揺れるのと、ありえねぇくらいの生地の張りが見れたってことだな。そこなんかエロいよな」

「…………」


 恋子はスゥーっと息を吸い込み、Bボタンに指を添える。そして……。


「痛たたたたたた!! ちょ、まて! まだプリ学じゃねぇぞ!?」

「…………」



 ☆☆☆



「思ったより広ーい!」


 黒の背景にところどころ青のラインが入ったようなサイバー感溢れる空間。


 全力でだらっとしたいが、ゲーム機ではだらっと出来ない。そんな時に考え付いたこの特殊な空間。案外ゲーム機に転生しても楽しく過ごせるものだと実感するきっかけの1つでもある。


「でもちょっと暗くない? なんか引きこもりゲーマーみたい」

「俺はほぼそれに近いからな? つうかなんでここに来たんだよ、そもそもプリ学以外の空間にも来れんのかよ……まぁいいか」


 先ほどのホーム画面も、この空間からジャックしていた。だから来れたのだろう。悠貴はそう考え、深く追求するのをやめた。


「でもやっぱり暗いなぁ、気分下がっちゃうよ?」


 エッチな目で見たことに対するお仕置きと言って、手の甲をつねり続けたままの恋子は、辺りを見渡している。


「てか何しに来たんだよ? せめてプリ学に入ってからこいよ」

「え? オンのユリオス様にお仕置きできると思う?」


 分かりきったことを聞くなと言わんばかりの呆れ顔。悠貴はそんな恋子の顔を、あからさまにピキッた表情で見つめる。


「だいたいオンのユリオスってなんだよ」

「プリ学のユリオス様」

「オフはあんのか?」


 人差し指と親指をピンと伸ばして悠貴に向ける。


「悠貴くん」

「それオフって言うかただの悠貴じゃねぇか。そもそも王子じゃねぇしな俺」


 どうやら恋子はオンとオフで、ユリオスと悠貴を一括りにしていたようだ。

 

 向けられた指を横へずらすと、ぐでんと空間で横たわる。

 この空間では、床も壁もない。だから今は2人とも宙に浮いている。


「もう王子様でいいじゃん。楽でいいよ」


 気だるげに、恋子も同じように空間に横たわる。


「なんだ楽って。そもそも俺はただの一般人だぞ、そんなほいほい王子様になれっかよ」


 悠貴の言葉を聞いて、少し表情に疑問を浮かべた恋子は。


「ん? あれ……? 人じゃ無いじゃん、一般家庭用ゲーム機じゃん」

「そこは人ってことでよくね」

「ダメ」

「あ、はい」


 謎のこだわりを見せる。


「にしてもこの空間つまんないねぇ」

「そりゃそうだろ、何の娯楽もないただのデジタル空間みたいなもんだからな」

「へー、寂しい人生だね」

「はっ倒すぞ」


 意地らしく笑う恋子は、ぴたっと両手を悠貴の頬に添える。


「寂しそうだから、たまに遊びに来るよ。ユリオス様じゃなくて、悠貴くんに。この場所まで」

「……そうかよ」


 悠貴の顔には、少しの笑みが浮かぶ。


「あ、今笑った? 笑ったよね! 嬉しかったんだ〜?」

「なっ!? は? 別に嬉しくねぇし」

「素直じゃないなぁ、素直になった方が楽だよ?」

「うるせえ」


 少しの隙さえ見逃さなかった恋子は、ここぞとばかりにイジりまくる。


 見た目がユリオスでも、ラフな格好だからか、いつものオタクモードは発動されていない。「どちらにせよダル絡みには変わりないな」と悠貴は視線を遠くへ飛ばした。


「ねぇそんなことよりさ、この空間なんとかならない?」


 恋子の部屋とは相反するほどの、暗く陰鬱なイメージの空間に耐えかねたのか、照れと怒り半々の悠貴に空間の改善を提案する。


「なるけど、俺はこれで満足なんだが?」

「なるならなんとかして?」


 瞳をうるうるとさせて、仔猫のような愛らしい雰囲気を纏う恋子に。


「――これ以上は言いなりにはならないからな?」


 当然、悠貴は抗えなかった。指をパチンと弾くと、瞬時に景色が変わった。


 白い壁に天井。フローリングに敷かれた茶色のラグ。その上にはガラス張りのローテーブルと紺色のクッションが2つ。


「わぁ! 部屋だ! 割としっかりしたレイアウトの!」


 ひとつの壁に貼り付けるように置かれた、カウンター付きの本棚を観察しながら恋子のテンションはどんどん上がっていく。


「ベッドまである! ふっかふかだぁ……!」


 茶色で統一された収納付きベッドに躊躇なく飛び込んだ恋子は、マットレスの柔らかさに感動した。


「それは特注だからな、姉貴が不眠症の俺を心配して寝具を全て最高品質で作らせたんだよ」

「え? ここってもしかして……?」


 マットレスから、顔を浮かせる恋子は何かに気付いた。


「俺の部屋だぞ? 転生前の。じゃなきゃこんな一瞬で作り込めねぇだろ」

「だ、だよねぇ……」


 転生前の自室をそのまま再現した空間。

 それを知って赤く頬を染める恋子は、ベッドからローテーブルへと体を動かした。


「なんで正座?」


 さっきのだらけ具合から一転、今ではビシッと背筋を伸ばし綺麗な正座で悠貴と向き合っている。


「いやぁほら、ね? 男の子の部屋って意識しちゃうと……」

「別に俺は気にしないし、くつろぎなよ」


 キョロキョロする恋子を、少しおもしろそうに見つめる悠貴。

 真正面から見つめてみたものの、揶揄われてると気付いた恋子も見つめ返し、お互い引くに引けなくなってしまった。


(やべぇ、もっとおどおどすると思ってたのに)


 そんなことを考える悠貴の瞳が少し、ほんの少し揺れる。


 正確には、悠貴の瞳に映る恋子の胸が揺れている。グイッと悠貴に顔を寄せた時の反動で揺れたようだ。


「……おっぱい見たでしょ」

「見た」


 悠貴は言い訳をするつもりがないようだ。


「はぁ……どうして男の人ってそんな体ばっかり見るの?」

「仕方ないだろ、男の脳は股間に付いてんだよ」


 パチクリと瞼を動かす恋子は、しばらくして口を開いた。


「なら仕方ないか……とはならないからね? 女の子は視線に敏感なんだよ? 見られたら気付くし、知らない人や嫌いな人からの視線なら不愉快だよ?」

(そう言えば何度か耳に入れたことがあるな。女性は視線に敏感で見られただけで興奮する人もいるらしい)


 上の空の悠貴。


「……違うこと考えてない?」

「かもしんないわ。でも分かったよ、悪かった。極力見ねぇように努力すっから。あくまで努力な」


 恋子を視線から追い出すようにベッドに移動して、うつ伏せで脱力する。


「(別に嫌いとはいってないのに……)」


 先ほどまで自分が沈んでいたベッドに顔を埋める悠貴を見ながら、誰にも聞き取れないような声量でこぼす。


「なんか言った?」

「そろそろプリ学に行こっかなって!」

「おうそうだな、てか顔赤いけど大丈夫か?」


 両手を自分の頬に当てて、顔の熱さを感じる恋子は大きな声で言った。


「ユリオス様に癒されるって考えたら興奮してきただけだから!!」

「分かった大丈夫じゃねぇな」



 ♡♡♡



 ユリオスじゃない状態でキスするのかとドキドキしていた悠貴だったが杞憂に終わり、あの空間から直接プリ学に移動した2人。


 そして現在は2万人ほどは入れそうな観客席を備えた、中央に砂地が広がるコロシアムにいる。


「すっごい! 凄いよユリオス様! さながらフィクション!」

「どうしてこれでテンションが上がってるの? というかフィクションだよ?」

「上がるよ! だってコロシアムだよ!? オタクの憧れだよ! ここで熱い戦いが繰り広げられるんだよ!?」


 私立プリンス学園の代表的な建物のひとつらしい、プリンスコロシアム。

 ここでは剣術の実技練習や、決闘が行われる。


「ユリオス、ついにこの時が来たな」

(なんでここにルークがいんだよ)


 悠貴の背後から声をかけたのは、クラスメイトからの視線を集めるルーク。

 待ち侘びたと言う口ぶりでコロシアムを見渡すと、悠貴の肩に腕を回した。


「ルーク先輩どうしてここに?」

「ユリオスに言いたいことがあってな」

「なんすか?」


 ワクワクとした表情を浮かべるルークに対して、ユリオスは明らかにダルそうに接した。


「相変わらず俺様に対しては雑な敬語を使うんだな……まぁいい、気持ちの裏返しだと思っておく」


 咳払いを1つ。空気を切り替えるようにわざとらしくしてみせたルークは言った。


「俺様がお前に言いたかったことはただ1つ。この授業は絶対に手を抜くなよ?」

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