メッセージにて
風祭会長の依頼をこなすため、琴乃さんに必要ない資料をお願いしていたのだが、企業の業績のデータ、研究分野、買収計画色々と重要な書類が多すぎて、どこから手につけていいのかわからない。
そこで、琴乃さんにメッセージを送り、データの保管場所から閲覧場所、どう動いた方が受け手が動きやすいか、重点的に調べたいところはどこなのか、それらを打合せしたいと伝えた。
『今日は時間ある?』
早くも反応があった。
『時間はあるけど、どこで話をしましょうか?』
『場所は確保できます。手紙屋本舗の代表のあなたには関係が薄いけど、私たちの人生が掛かっているから、私の時間はフルに使用して頂いて構いません。場所は私の実家、あなたの仕事は姉の真香に依頼済み。これから1月間は、かんづめになっても終わらせてもらいたいんです。これが終われば、あなたにはグループの統括役員的な立場とそれに見合う報酬などが与えられます』
えっ、これは意味深な。
『私たちって、風祭さんの家のことですよね?』
『それ以外ないでしょう。でも、その中に誰かさんはいると思いますよ』
『いや、僕は、まだまだ独身でいい。というより、まだ大学生でもない。学生時代に彼女ぐらいは普通に欲しいんだ。茶化さないでくださいよ』
『私って、華の女子大生ってご存知かしら?』
『ええ、それはもちろんです! 誰もが知る有名人とまではいかないまでも、今をときめく読モですよね』
『あーら、そんなことはどうでもいいの。わたしも一人の女子大生だということですけど? それに葵くんが大学生になったとしても、その時もわたしは現役女子大生ってこと、しってる?』
『それは、そうですね。だけど、あなたはハイスペック過ぎる。僕は普通の恋愛がしたいだけ』
『そう、それなら葵くんのしたい恋愛を具体的に教えてくれないかな?』
『ええ、いいですよ。まず、一緒に登下校とか、お昼を一緒に食べて、図書館に行ったり、定期テストの時もお互いに勉強を教えあったり、たまに映画や水族館とかでデートして、日帰りで遠出とかもいいな。僕の部屋で遊んだりとか普通のこと』
『あら、わたしも、葵くんと仕事帰りに一緒だったり、この前もランチに行ったわね。なんなら先週はディナーも。前に行ったレイトショーも楽しかったし、真香もいたけど海沿いのドライブも楽しかった。君の部屋で夜通しゲームした時もあったし、なんなら、もう数えきれないほど、あなたのお宅にお泊まりもしたわね……あなたの姉友という立場ではね。
どう?ほぼ同じじゃない。女子高生と女子大生の違いだけ。女子高生がいいなら、コスプレしてもいいし、まだ、高校の時の制服を取っといて良かった。それに、わたしは大人。女子高生と違って責任も取れるよ。唯一、葵くんのためならね』
……どこまで本気なのかわからない。
全力で僕のことを揶揄っているみたいにも思えるが、ここまではしない、よな?
それとも、新たな揶揄い方として、習得した技なのか?少しだけ試してみようか?
いや、やはりやめた方がいい。
命に関わる。
『おーい、返事は?』
『……大学生になってから、考えます!』
『このへたれ!!!』
『いや、実際は、風祭さんと、もし、万が一付き合えたとしても、僕にはあなたを満足させる自信がない。車も運転できないし、あなたは深層のご令嬢でもある。
何も持っていない僕には、何を持って口説くことがで来るのだろう』
『へえ、少しは考えてくれてたんだね。でも、私の葵くんの悪口は、本人でも許せない!車なんて無くても電車がある。あなたは、高校生の身で実業家でもある。深層のご令嬢? わたしはあなたの秘書なのよ。お飾りじゃないし、お父様もあなたとならって、とっくの昔に認めてくれてるわ。でもね、わたしからは言えないわ。あなたのタイミングでいいから、待ってる。
わたしの心の準備は出来てます。もちろん、身体の方もね。それに誰かに靡くことはない。では、明日会いましょう』
メッセージのやり取りが長くなり、気づかなかったが、もう日付が変わっている。
あの、肌にうるさい琴乃さんが、こんな時間になっても僕とやり取りしてくれた。
これは、どう考えてもヘタレを卒業しないといけないな。
ここで、メッセージだからこそ、普段話せないことも話題に出せたのだと気づいた。
それと同時に、僕のバラされては嫌な話まで彼女に知られてしまった。
万一、彼女を怒らせる事になれば、これは役員連中に拡散されてしまう恐れがある。
姉には明日の朝にはバラされることだろう。
ちょっと恥ずかしいよな。
それはそれで仕方ない。
しかし、琴乃さんとの関係やお互いの距離もキチンとしなければならない時期には来ているようだ。
前々から逃げていたが、あんな美人の才女からのアプローチ、気づかない訳はないじゃないか。
あとは、僕の問題だ。
風祭グループの立て直しが出来たら、琴乃さんと2人で話をしてもいいのかも知れない。
軽く疲れた頭を振って、これからすべきことをスマホのスケジュール帳に記録する。
その中にK.Kと備考に記録し、いつでも思い出せるようにした。安心したからか、そのままスマホを充電せず、僕はベッドに転がり、いつのまにか、そのまま意識を手放した。




