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僕と彼女と放課後の……

 僕は、今動けなかった。僕の膝の上に、小さな頭が乗っかっていたから。ラーメンを美味しそうに食べた後、姿勢を崩した彼女はすやすやと眠ってしまった。なんだか、よく千代香は体を預けて眠るな、と思った。可愛いし、辛いわけでもないから別に良いのだが。そっと彼女の頭に手を置いて、撫でる。相変わらず、綺麗な髪。僕に比べたら、とても小さくてひ弱な体。そして、天真爛漫で優しい心。そのすべてが愛おしい。たった1か月前には千代香にこんな感情抱くこと無かったのに。人の心って、すぐに変わるんだな。まぁ、千代香に対してなら別に良いかとも思える自分が居た。


「ほんとに、可愛い奴……」

「うん、わかるよそれ」


 そう僕の独り言に反応したのは留香だった。


「さっきからずっとチャイム鳴らしてるのに反応無いと思ったら、千代香に見惚れていたのかなぁ?」


 ちがう、とすぐには否定できない。実際のところ留香がチャイムを鳴らしているのには全く気がつかなかったわけだし、理由は千代香以外には……考えられなかった。何だか嵌められた気がして悔しい。きっと気のせいなのだが。


「それで、何しに来たのさ」


 そう聞いたが、反応は無い。


「理由なんて無いかなぁ……自然と来ちゃった」


 何食わぬ顔で留香はそう答えた。でも、留香が居てくれるおかげで千代香と二人きりでは無くなる。それはつまり、僕が余計なことに考えを使わなくて済むということだ。助かる。


「ぅ……ぃた……」


 僕の膝の上で、千代香が何か声を発する。その眉間には少し皺が寄っていて、苦しそうだ。その頭に手を置き、優しく声を掛ける。


「大丈夫だよ……」


 その声を聞くと、千代香は穏やかな表情になった。


「やっぱあんた優しいじゃん。そんな気配りできるんだね」


 留香が意外そうに言ってくる。


「優しいのは千代香にだけ……」


 僕は留香にそう言い返してハッとした。が、もう遅かったみたい。留香はこっちを見つめてニヤニヤと笑っていた。


「ち、ちがうから、別にそういうんじゃなくて!」

「いいと思いますよー? 淋都君は千代香ちゃんにだけ優しいですもんねぇ?」


 からかわせる隙を見せてしまった僕も不用意だったが、ほんとに留香は僕のことをからかうのが好きみたいだ。その顔はとっても楽しそうで、でもどこか少し寂しそうだった。でも、気のせいだろう。それを確かめる術は、僕には無かった。


 なぜだろうか、私は今、病室にいた。さっきまで、淋都の家にいたはずなのに。しばらく考えて、今私は夢を見ているのだろうという結論にたどり着いた。いわゆる明晰夢というものだ。でも、すごくリアル

で、まるで自分が本当にその場にいるような感覚だった。私は病室のベッドの上で横になっていた。体を動かそうにも、全身にうまく力が入らないし、とても息苦しい。そんなことを少しずつ確認していくにつれて、私の体を激しい痛みが断続的に襲う。


「ぅ……ぃた……」


 痛みを言葉に出そうにも、うめき声が出るのがやっとだった。もしかしたら、今まで淋都の家にいたのが夢で、この得体の知れない痛みが現実なのではないかと思えるほどに苦しいのに、目が覚めない。


『大丈夫だよ……』


 私の頭に、誰かの手が置かれたような感覚があって、それに続くように、大丈夫と優しい声。大好きな、落ち着いた声。自然と、さっきまでの苦しみは消えていく。目に入る景色も、病室ではなく、大好きな、でも全く落ち着くことのできない部屋に変わる。私の意識は徐々に覚醒していった。なんだか、留香ちゃんが楽しそうに笑っている声が聞こえた。目を少し開けると、今自分の頭は淋都の膝の上にあるんだというのがなんとなくわかった。


「千代香、起こしちゃった? ごめんね」


 淋都の声が聞こえる。今ので私が起きたことに気が付いたのだろうか。人への気の配り方が上手なのか、ただ単純に私のことを気にかけてくれているだけなのか。どっちにしろ、ちょっとすごいと思った。


「ううん、大丈夫。それよりも、留香ちゃんいつの間に?」


 体を起こし、どきどきとなる心臓を誤魔化すように、淋都にそう尋ねる。


「さっき来た。暇潰しらしいよ」

「そうだよー、私暇なのよ」


 明るく笑った留香ちゃんの顔を見ていると、自然と気持ちも落ち着いてくる。まだ私には、淋都と二人きりになるのはちょっと恥ずかしい。


「ねぇねぇ淋都、炬燵出さないの?」


 おもむろに留香ちゃんがそう言った。


「……出してもいいんだけどさ、めんどくさいんだよな」


 めんどくさいという感情は、ものすごく顔に出ていた。留香ちゃん曰く、小さい時は毎年出ていたけれど、いつの間にか出なくなったらしい。


「炬燵……私炬燵好きだな……」


 そんな言葉がぽろりと零れる。それを聞いた淋都は、頭を搔きながら立ち上がった。


「ちょっと待ってて。炬燵出してくる」


 そう言うと、淋都は廊下の方へと消えていった。


「ナイスちよちゃん。あいつはやっぱりちよちゃんがしてほしそうな雰囲気を出せばやってくれるんだよねぇ……甘々だねぇ」


 相変わらず、淋都のことを話している時の留香ちゃんは無邪気で、可愛らしい。いつもの雰囲気とは違う、まるで……


「留香ちゃんって淋都のこと好きなの?」


 ふと浮かんだ疑問を、私は思わず口に出していた。さっきまでふわふわと、明るかった部屋の雰囲気がガラリと変わり、冷たい空気が出来上がる。


「あ、あのね、別に変な意味じゃないの。幼なじみとして好きかなぁって」


 私は慌てて取り繕う。本当は恋愛対象として見れるかどうか、つまり幼なじみとしてではなく、一人の男の子として好きなのかというが気になってしまったのだ。留香ちゃんはというと、それを見抜いていたようだ。一度廊下に顔を出してきょろきょろと首を動かした後に、私の目の前に座った。


「……私は淋都のこと大好きよ。小学校の頃に好きになってからずっと。誰よりも淋都のことを知ってるし、淋都のことを好きなんだって思ってる。でも、それでも淋都は振り向いてくれなくて。気がついたら、一番仲のいい親友とくっついちゃった」


 私を真っすぐに見つめてそう言って、留香ちゃんは顔を逸らした。その瞳は潤んで、今にも涙が溢れそうで、私はどうすれば良いのか分からない。戸惑っている私の手を、留香ちゃんは勢いよく掴み、握りしめた。


「でも、私はちよちゃんのことを嫌ったりはしないよ。きっかけを作ったのは私とはいえ、淋都はちよちゃんのことを好きになったの。だから、私は全力で応援するの。もしも淋都のこと飽きさせたりしたら私が取っちゃうからね」


 胸を張って、堂々とライバル宣言をする留香ちゃん。にこにことした、いつもの笑顔だ。


「ふふ、そういう感じが留香ちゃんらしいね。でも、絶対に淋都はあげないよ、私の大事な彼氏なんだもん」


 私は私で、そう言い返す。なんだか楽しくなってきて、私たちは二人で顔を合わせて笑った。


「二人とも手伝ってもらってもいい? ちょっと危ないんだよ」


 廊下から、そんな声がきこえてくる。私と留香ちゃんは廊下に出て、声の主を探す。階段の上で大きな机を抱えて淋都が私たちを呼んでいたようだ。階段は少し物が置きっぱなしになっていて、確かにちょっと危ない。私はとりあえず、階段にあるものを一旦片付ける。留香ちゃんはさささと二階に上がって、淋都の抱えている机を一緒に持つ。私が行こうかとも思ったけれど、きっと私が行くよりも留香ちゃんが行く方が淋都の手助けになるだろう。私は力があまりないし、一緒に持てばバランスが悪くなる。そう思った。二人がよいしょよいしょと運んでいるのを、私は応援していた。留香ちゃんが机の角を壁にぶつけちゃうハプニングはあったが、何とか机をリビングに運び込んだ。


「ありがとう、二人とも」


 淋都はてきぱきと炬燵の準備をした。私たちが手伝う間もなく、すぐに大きな炬燵が出来上がった。


「あったかぁ……」


 三人で足を炬燵に突っ込むと、全員の言葉がシンクロした。


「もうだめ、私はもう帰れませぇん」


 留香ちゃんがふわふわとした声でそう言う。確かに、正直なところもう動きたくはない。


「……お前ら、遅くなる前に帰れよ?」


 そう言ってくる淋都の声もふにゃふにゃとしていて、気が抜けている。しばらく他愛ない話をしているうちに、留香ちゃんが眠ってしまった。


「ちょっと、起こさないであげよっか」

「うん、そうだね」


 私たちは彼女を起こさないように、少し声のボリュームを絞って話していた。少し話して、淋都は立ち上がった。どうしたのかな、と思っていると急に、私の横に座った。


「近くなら、聞こえやすいでしょ」

「……それだけ?」

「さあ、どうかな」


 淋都はいたずらっぽく笑った。本当に、普段は落ち着いていてかっこいいのに、こういう時に見せるちょっと幼い顔が、淋都の魅力になっているんだと思う。何か沢山話したけれど、覚えていない。心臓がうるさく鳴り響いていたことだけは憶えている。すごく楽しかったことも。気がつけば、私は彼の膝の上で、眠りに落ちていた。どこよりも安心できる、淋都の上で。

こんばんは、和水ゆわらです。小さな君と大きな僕。更新です。どうしてもこっちは書いていてどきどきするので更新遅くなっちゃいますね。申し訳ないです。今回もただただ淋都くんと千代香ちゃんがイチャイチャしてるだけです。仲良いですね。それでは、和水ゆわらでした。

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