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僕と彼女と真夜中と

 「それじゃあ、ベッドは勝手に使ってもらって結構です。机の中とか、見られてもかまいませんけど何も面白くはないと思いますよ」


ここは近藤君の部屋。好きな人の部屋に私は居た。留香ちゃんと、私と近藤君と、年越しをしてそのまま泊まらせてもらっているのだが、まさか近藤君のベッドを本当に使わせてもらえるとは思っていなかったので、なんだかドキドキする。ベッドの隣では布団を広げ、すでに留香ちゃんが寝っ転がっていた。


「ありがとう、近藤君。私のためにベッド空けてくれて」


お礼を言ったけれど、近藤君は気にしなくていいよと、気さくに笑っている。


「それじゃあ、下で僕は寝ますので、何かあったら教えてください」


近藤君はそう言うと、部屋から出ていった。


 「さて、邪魔な淋都は居なくなったし、女子の話でもしよっか」


留香ちゃんが布団からそう言って来た。女子の話ってなんだろう。


「もしかして恋バナでもするの? 私の好きな人分かってるくせに?」


私は少しムッとした。留香ちゃんはからかうつもりなのだろうか。


「ごめんごめん、嘘だよ。でもちよちゃんが淋都のこと好きになると思わなかったな。だって高身長の人に対しては、悪い思い出があるじゃない」


その言葉に、一瞬私は息が詰まった。中学校の時、好きだった人の顔が頭にチラつく。頭をぶんぶんとふり、その考えを途中で止める。もう関係のないことだ。


「私がそんなに引きずると思ってるの? 確かに少し身長の高い人はトラウマになっているけれど、近藤君とクリスマス一緒に過ごしてさ、人の素晴らしいところって、やっぱり中身なんだなって思ったの。近藤君は優しいし、一緒に居ても怖くない。身長なんて関係ないって思ってる感じがして、かっこいいから」


だから私は近藤君が好き、というのはさすがに恥ずかしかった。留香ちゃんは知っているのだが、それでもそう宣言する勇気はない。


 「まぁわかるよ。淋都、結構カワイイ顔してるくせに、中身は普通にイケメンだもん。多分他人のこともっと信用するタイプだったら、あいつモテモテだと思う」


体を起こし、姿勢を正した留香ちゃんがそう言って来た。何か言いたいことがあるみたいだ。留香ちゃんはいつもそうだ。言いたいことがあるときは姿勢を正して、真面目な顔をする。だからすぐに分かる。


「それで、今回言いたいことは何?」


いつもは考えてみるのだが、今回はさっと聞いてみることにした。


「つまり、淋都のことが好きかもしれない奴はもしかしたら結構いるかもしれないってこと。それであんたはそんな淋都と付き合ってるってことを忘れないでってことよ。女子の妬みって怖いから、何かあったら私に言いなさいよ」


親友の気遣いに、私の心は熱くなった。とても嬉しい。


「うん、そうするよ。私がそんなこと相談できるのは留香ちゃんだけだしね」


これはまあ、誇張ではなく半分真実だ。私はあまりここまで親身に話してくれる友達は居ない。


「そろそろ寝るよ、朝起きたら初詣まで行く約束でしょ。あんまり起きてると辛いわよ」


そう言うと、留香ちゃんは布団に横になり、寝息を立て始めた。

 寝付くのが早すぎるなと思いながら、私も布団を被った。そして香ってきた匂いのせいで私は飛び起きた。無理だ。近藤君の匂いがする。あの温かく包んでくれる優しい匂い。


「良い匂いだな……でもこんなの、ドキドキして眠れないよ……」


私は明らかに、自分の心臓がバクバクとなっているのが分かった。思春期真っ盛りの女子が、大好きな人の香りのするベッドで落ち着いて眠れるだろうか。今からでも近藤君と場所を変わってもらおうか。別に私がソファで寝ても構わないのだから。でもわざわざ準備してくれたのに申し訳ないなとも思う。そんな二つの感情の中で私は揺れていた。上半身を起こし、一旦落ち着く。


「一旦落ち着け、私。落ち着くんだ。たかが近藤君の匂いがするだけだ。だから大丈夫でしょう」


そして私は、自分の鼻の下に温かい感じがして、手で拭う。

 私は落ち着き切れていなかった。ドキドキが鼻から、物質となって出てきた。大慌てで、私はリビングへ駆け下りた。近藤君は居なかった。ティッシュを取り、鼻血を止めるために少し鼻の上をつまんだ。


「近藤君どうしたんだろ……トイレかな」


あわよくば寝顔を見られるかもと少し期待していたが、期待するだけ無駄だったみたい。


 「トイレじゃないですよ、どうしましたか、白井さん」


後ろから急に声を掛けられ、思わず飛び上がりそうになった。近藤君だ。収まりかけた鼻血がまた出そうになるところだった。


「ちょっと鼻血が出たから止めようと思ってさ。大したことないよ。大丈夫」


とりあえずなぜここにいるのかを説明する。心配はかけたくない。


「ちょっと見せてもらえますか。もしかしたら切ってるかもしれないです」


そうなるのではと薄々は思っていた。近藤君は少し心配性だと思う。一応、大人しくしておいた。近藤君の顔が、少しづつ近づいてくる。


「やっぱり大丈夫! もう止まったから、心配しなくていいよ」


慌ててまくしたて、近藤君から少し距離を取る。恥ずかしい。心臓がバクバクと音を立てて騒いでいた。


「そうですか……急に動くとまた出るかもしれないです。ゆっくりしててくださいね」


そう言うと近藤君はリビングを出て、どこかへ行ってしまった。こっそりリビングから顔を出し、廊下を見る。廊下の一番奥の部屋から、僅かに光が漏れ出していた。私は誘われるように、その部屋へ足を向けた。


 僕は、寝付くことができなかった。理由は分からない。でもこのやるせない気持ちをどこかへぶつけたくて、元々は妹の部屋だった、ピアノを置いている防音室で、音を鳴らした。上で寝ている留香や、部屋に戻って寝たであろう白井さんを起こさないよう、念のため少し控えめな音量で。


「……上手だね、近藤君」


唐突に聞こえてきたその声に驚き、僕は振り返った。そこには、白井さんがいた。


「もしかして起こしちゃいましたか。だいぶ抑えて弾いていたはずですが」


それを聞いた白井さんは、首を横に振った。


「違うよ、近藤君まだ寝ないのかなって思って、様子見てたらこの部屋に来てたから、気になって見に来ちゃった」


それなら良かっった。僕のせいで起こしてしまったのかと思った。


「上手って褒めてくれて、ありがとうございます。小さい時からずっとやってるので、褒めてもらえてうれしいです」


白井さんは、何か言いたげにこちらを見つめていた。


「少し、話し相手になってくれないかな。眠たくならなくてさ……無理ならいいけれどね」


少し申し訳なさそうに、彼女はそう頼んできた。


「良いですよ。僕もあまり眠たく無いですし」


白井さんは嬉しそうに、僕の手を引いて、リビングに連れて行った。


 「とはいっても、なんの話しよっか。あまり思い浮かばないや」


二時間ほど前まで、三人で話していたテーブルのそばに座り、そう言って白井さんは笑った。相変わらず無計画というかなんというか。でも彼女の笑顔を見ると、なんだか許せた。


「私の好きな人の話、してもいいかな」


頬を赤らめ、白井さんがそう言った。何だろうか、ちょっと嫌な感じがした。原因は、分からない。


「私、好きな人がいるの。ほんとに大好きな人。その人は、私のことを、クラスで唯一、同じ目線で見てくれる男子。身長はとても大きくて、初対面の印象は怖かったけれど、私のこと助けてくれた、かっこよくて、優しい人。でもその人は、私が好きだって気付いてくれないの」


白井さんはそういって、僕のことを抱きしめた。


「私、近藤君のこと、ほんとに好きになっちゃったよ。初めは形だけだって私も思ってた。でも近藤君と一緒に遊んで、話して、助けてもらって……気が付いたら近藤君のことで頭がいっぱいになってるの。近藤君、大好き。ちゃんと、お付き合いしてくれませんか」


そう言った彼女の言葉は震えていた。勇気を出して、気持ちを伝えてくれたんだろう。


「淋都でいいです。近藤君じゃなくて、淋都で。でも、僕は白井さんを幸せにできるか分からないです。僕と一緒に居て、傷つくかもしれないです。それでもいいですか」


白井さんが、その答えをきいて笑った。ころころと、鈴を転がしたような、可愛い声で。


「分かった。淋都。私は、淋都といられるだけで幸せだから、よろしくね。あと、良ければ敬語じゃないほうが良いし、私のことも名前で呼んでくれたら嬉しいんだけど、お願いできる?」


敬語じゃなくても良いのなら、こちらも願ったり叶ったりだ。


「分かった。もともと敬語なのは、千代香に変な印象持たれて、せっかく話しかけてくれたのに嫌われるのが嫌だったからっていうだけだからね。よろしく、千代香」


千代香は満足げな顔をして、僕の上に座った。体が温かい。きっと、眠たくなってきたのだろう。彼女を優しく抱きしめ、寝付いたら二階に連れて行ってあげようと思った。そのうちに、僕の意識もだんだんと薄れ、深い眠りに落ちていった。







どうも、最近カフェオレが飲めるようになった和水ゆわらです!少し考えたのですが、こちらの小説はある程度の短さのものをぽつぽつと投稿していこうと思います!

ということで本編のほうにかかわる話になりますが、今回、千代香ちゃんががんばりました!関係が進展した二人を次に待つのは初詣、そして新学期……沢山書いていきたいと思います、よろしくお願いします!

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