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僕と彼女と年越しと

前回からとても間が空きましたが、第二話です。一話の半分ほどしかないため、さらさらっと読めるでしょう。今回の話から、千代香ちゃんは恋をしていることに気づきます。近藤君とどうなっていくのか、お楽しみください。

 十二月三十一日、大晦日。部屋を片付け、年を越すための準備をする。母親は例年通り家にいない。年末年始は仕事が忙しいらしい。寂しいとは、思わない。小さい時からそうだったから。


「おーい、淋都、今年も年越しに来たよ」


玄関からそう言う声が聞こえる。これも小さい時から変わらない。こうやって隣の家に住む幼馴染が年越しに来るのも。


「ん、いらっしゃい。てきとーにゆっくりしてていいよ」


幼馴染の留香がリビングに入ってきた。彼女は毎年のように家に上がってくる。留香の家も大晦日は親がいないタイプの家庭だ。なのでこうやって年越しを毎年一緒にやっているわけだが……


「近藤君、おじゃまします。急に来ちゃってごめんね」


なぜか留香の隣に、白井さんが居た……どうやら今年は、例年通り年は越せなそうだ。


 「なんで来てるんですか。びっくりなんですけど」


昼ご飯を二人に出し、自分はパンを食べながら白井さんに聞く。


「私が説明しよう。実はだね、彼女は私の家で年越しお泊りをすることになったんだよ。でもね、私はこうやって淋都の家に来るでしょ?ちよちゃん一人にするのは悪いし、彼氏の家だしちょうどいいと思って連れてきたの。気が利くでしょ」


それならいっそ来なくても良かったのだが。留香は毎年年越しした後、そのまま泊まって朝に返っているのだ。つまり必然的に白井さんも僕の家に泊まることになるわけで。


「気が利くとかじゃないんだけどな……まだ僕と白井さんそこまでの関係ではないわけで、年頃の男女が一つ屋根の下で夜を過ごすのはどうなのって思ったんだけど」


何言ってんだ、留香の頭の上に疑問符が浮かぶ。


「何言ってんの。毎年私という女子が泊っているじゃないか」


留香は幼馴染だからそういう感情は特にないから良いのだ。


 「私、やっぱり来ないほうが良かったかな。ごめんね、近藤君。留香ちゃんがどうしてもっていうから」


申し訳なさそうに、白井さんがしおれたように言う。


「来てしまったものはしょうがないです。帰れとは言わないですけど……どうやって寝るの、留香。僕の家来客用の布団一組しかないけど」


一番の問題はそこだ。寝ることができない。いつもは僕の部屋に布団を敷き、留香が布団で、僕がベッドで寝ているのだが。


「てきとーに寝たらいいじゃん。ちよちゃんは私と一緒でもいいし、淋都の布団の中でもいいと思う」


なんだろう。無性に頭にくる。完全に他人事だ。こっちの身にもなって欲しいものだ。もしも白井さんと一緒に寝る、なんてことになれば、僕はたぶん、恥ずかしくて爆発する。


「白井さん、もしも抵抗がなければ、僕のベッド使って下さい。シーツとかは大晦日で一回洗ったので未使用です。僕はリビングのソファで寝ますから」


これが最善策だろうと思った。あとは白井さんさえよければ丸く収まるのだが。


「別にいいよ、私は急に来た立場だし、わがままは言えないよ」


その回答に正直ほっとした。これで誰が寝るか問題は解決と言えるだろう。彼女らの食べた後の茶碗を片付ける。二人は勝手にリビングのテレビを見始めていた。


 今、私はなぜか近藤君の家にいた。というか泊まることになっていた。朝からの行動を振り返る。まずは休みだからと思って十時ごろに起きたら、留香ちゃんが家に来て、年越し一緒にするから泊まらないか聞かれて……気づいたら今に至るといった状況である。


「どうしたの、ちよちゃん。やっぱり急にこんなところに連れてきて迷惑だったかな」


隣に座る留香ちゃんが、私のことを心配してそう聞いてくる。


「ううん、大丈夫。むしろ近藤君の家には来てみたいと思ってたの、その……彼女として」


クリスマスの後から、近藤君が頭の中にちらつく時がある。好きに、なってしまったかもしれない。


「淋都~、プリン食べたい、冷蔵庫の中見てもいいかな」


隣に座っていた留香ちゃんがおもむろに立ち上がり、台所へと向かった。


「いいけど、プリン二つあるか?無いなら買いに行くけど。お前だけ食べるのは白井さんに悪いだろ」


茶碗を洗い終え、棚に戻しながらそう近藤君が言う。彼は優しい。やっぱり私、好きなんだと思う。


「一個しかないね。私買ってくるわ。それじゃ、二人とも仲良くね」


留香ちゃんはプリンを買いに行くようだ。ということは……


「ちょっと待って、留香ちゃん、私も行く」


そう言った時には遅かった。留香ちゃんはもう、家から居なくなっていた。

 今、私は近藤君と、近藤君の家で、二人きりである。しかも同じソファに座って。片づけを終えた彼は横にさりげなく座ってきた。ちゃんと座っていいかを聞いてから。


「白井さん、いつも留香と仲良くしてくれてありがとうございます。あいつは、僕にとってもう一人の妹みたいなものなんです。中学が別々になって、留香は人見知りだから、友達出来ないんじゃないかって心配してたんです。でも友達ができたって聞いて、僕すごく嬉しかったんですよ。留香は自由で、気分屋だけれど、これからも仲良くしてやってくださいね」


何を急に改まって。と思ったが、今しか言うタイミングがないのだろう。私としては、留香ちゃんは中学校で唯一仲良くしてくれた友達だし、感謝したいのだが、近藤君に伝える事ではないだろう。


「ほんとに留香ちゃんのこと、大事にしてるんですね。ほんとに兄妹みたいですもん」


こんなに思ってもらえて、留香ちゃんが羨ましい。兄妹みたい、そう聞いて近藤君は満足そうに笑顔を浮かべた。可愛いと思ってしまうのは、好きだから、だろうか。


「近藤君は好きな人のタイプってどんな感じなの?」


どうせ彼は私のことは形だけの彼女と思っているんだ。だからせめて彼には、彼の好きな人とちゃんと結ばれてほしい。というか元々そういう条件での付き合いなのだし。


「好きな人のタイプ……あんまり考えたことは無いですが、自分を隠さない人が良いです」


あまりよく分からなかった。というか高校一年生なのに考え方が達観していないだろうか。自分のことを隠さない、そうすれば、彼は振り向いてくれるだろうか。私を形だけでなく、ちゃんと彼女として見てくれるだろうか。


「あとは、元気な人でしょうか。僕、一人だとすぐ根暗になっちゃうので」


少し以外ではある、クリスマスのとき、あんなに楽しんだのに、一人だとそうなってしまうのかと。


「そうなんだ。自分を隠さなくて、元気な人……留香ちゃんとかはそうじゃない?」


私には近藤君は留香ちゃんのことが好きなのではないかと、無意識の好意でそれに気づいていないのではないかと、そう思えた。


「無いですね。留香のことは友達としてはほんとに大好きですけど、恋愛対象では無いです。小さい時から一緒に居すぎて、そんな感情芽生えないですね」


その答えにホッとした。まだ私にもチャンスはあるんだ。そう思った時。


「白井さん、ここ、座ってくれませんか」


自分の足の上をぽんぽんと叩き、近藤君が言う。なんで?急すぎて頭が追い付かない。判断するよりも先に、私の体は近藤君の上に座っていた。


「急にどうしたの。近藤君はそういうの言うタイプではないと思ってたんだけど」


近藤君は私の頭を優しくなでてくれていた。すごく心地良い。


「やっぱり白井さんって綺麗な髪してると思ったので……少し遊んでも良いですか」


少し恥ずかしそうに言う彼。構わない。むしろやって欲しい。


「良いよ、近藤君は髪結ぶの上手いし、可愛くしてね」


その返答を聞くと近藤君は私を膝から降ろし、部屋へと上がっていった。私は一人でソファの上で悶えていた。すごく、すごく嬉しいのだけれど、やっぱり恥ずかしい。

 しばらくして、近藤君は降りてきた。


「お待たせ。また上座ってもらってもいいかな」


私は近藤君の上に大人しく座った。慣れた手つきで、私の髪を結っていく。好きだという意識が、一回目のクリスマスの頃よりも恥ずかしさを増させる。


「相変わらず丁寧だね。留香ちゃんの髪とかもしたりするの?」


結わえてもらう間暇なので、会話を振ってみる。


「そうですね、偶にやってあげたりもしますよ。あの子も自分の髪に無頓着なタイプなので」


留香ちゃんが髪に無頓着、か。分かる気がする。


「白井さんは留香と比べると、ずいぶん女の子です。僕、ちゃんと女の子っぽい女子と初めて仲良くなったかもしれません」


そんなことを言うのは失礼では、と思ったが、この二人の仲だし、気が置けないが故の言葉だろう。私が女子っぽい、と言われたのは普通に嬉しかった。そこからは特に話は繋がらなかった。沈黙。でも嫌な沈黙ではなかった。


 白井さんはずっと、大人しく僕の上に座っていた。クリスマスの時は少し抵抗された気がするが、今回はそんなことは無かった。というより、むしろ彼女は安心しているようだった。


「できましたよ、今日は編み込み多めでやってみました」


僕の膝の上から降りた白井さんが、似合うかな、とでも言わんばかりにくるくると回って見せる。新しい服を見せびらかす子供のようで可愛い。


「やっぱり近藤君は髪結ぶの上手だね。これから学校の日は毎日やってもらいたいくらいだよ」


そんなことを白井さんが言う。別にするのは構わないけれど、教室でやるのは恥ずかしい。となると……


「それ僕か白井さんのどちらかが学校の前に家に行かなきゃですよね」

「そうだよ、面倒くさいよね、冗談だよ。冗談」


手をひらひらと振り、冗談だよ、というのを強調する白井さん。そんな彼女を、僕は静かに見守っていた。

 暫く後のこと。


「近藤君、上乗っても良い? 大きくて、包まれている感じがして落ち着くの」


別に構わない、そういう意思表示で手を開いて見せる。白井さんはちょこんとその上に座った。そこからしばらく、僕達は中身の特にない雑談を十分ほどしていた。留香が帰ってきたのは、その少し後だった。


 「お二人さんアツアツだねぇ、プリン買ってきたよ」


留香が帰ってきた。扉を大きく開けた彼女に向かって、人差し指を立て、静かにするように促す。


「どうしたの?静かにしろなんて……そうゆうことね」


留香の疑問は僕の膝の上で眠っている少女を見て解決したらしい。あまりにも落ち着きすぎだとは思ったが、彼女を起こすようなことはしない。眠っている様子はとても可愛らしい。


「アツアツとかそういうの良いから。プリンは冷蔵庫に入れといてあげて。起きたら食べさせてあげよ」


そうだねと、留香が買ってきたプリンを冷蔵庫に入れる。その後、僕の隣に座った。


「ちよちゃん可愛いよね。私がことの発端ではあるんだけれど、2人とも仲良くしてるようで良かったよ」


そうだ。今こうなっている状況のそもそもの原因はあの時留香が僕たちをひっつけたことだ。でもその時に、嫌なら断れた。断らなかったのは何故だろうか。答えの出ない問いを、1人で延々と考えていた。


「あのさ、淋都がこんなに人のこと気にいるなんて珍しくない? 今までは人のことなんか全く気にしないような奴だったのに、ちよちゃんのことこんなに気遣ってあげてさ。もしかしてほんとに好きになっちゃった?」


そんなはずが無いだろう。僕と白井さんはそんな関係じゃない、ただ、ただ寝ているのを邪魔してはいけないという善意からだ。でも……


「気に入ってるのは事実だから否定しないよ。僕はほんとに白井さんのこと、気に入ってる。すごくいい子だし、一緒にいて楽しいよ。でもそういう関係じゃないし、そういう感情も別に持ってないよ」


それを聞いた留香はニヤニヤしてこっちを見ていた。


「あのさ、僕、トイレ行きたいんだけどどうすればいいと思う?」


それを聞いた留香が少しため息。その後、自分の膝の上をとんとんと叩いて見せた。


「ここに乗っけて。ちよちゃんなかなか起きないから、そのくらい大丈夫だと思うから」


そう言われ、僕は彼女の上に白井さんを乗せ、トイレへ向かった。


包まれたような安心感が少し小さくなり、私は目を覚ました。私は留香ちゃんの上で眠っていた。


「あれ、私近藤君の上で寝ちゃって……それから……どうなったの?」


留香ちゃんに聞いた。


「淋都は今はトイレに行ったよ。ほんとにあいつはちよちゃんのこと気遣ってるよ」


私のことを気遣ってくれているのは感じる。けれどその言い方に少し違和感があった。まるで私以外の人にはあまり気遣いなんかしないみたいだ。


「近藤君、みんなには優しくないの? 私にはすごく優しいから、みんなにもそうなのかと思ってたんだけど」


留香ちゃんはリビングの扉を気にしながら、私に囁くように言った。


「あいつはあまり人に自分から優しくしないわよ。根本が良い奴だから、確かに優しいってイメージは持たれることも多いけど。実際は淋都は人のことをなかなか信じないタイプの人間よ。その理由は……まぁ話すと長くなるから今日は話さないことにするわ。でもそんな淋都がちよちゃんに対して自分から優しくしてる。だから淋都はちよちゃんのこと、すごく気に入ってるよ」


そうなのかと思った。とても意外だった。理由も気になったので、夜にでも聞いてみようかと思った。


「悪いな、留香……って白井さん起きたんだ。おはようございます」


近藤君が帰ってきた。朗らかな顔をしている彼が、人を信じないなんて想像出来なかった。


「白井さん、留香がさっきプリン買って来ましたよ。食べます?」


私は首を縦に振った。近藤君は冷蔵庫からプリンを3つ、ソファの前のテーブルに持ってきた。


「私が買ってきてあげたのよ。味わって食べてね」


留香ちゃんがそんなことを言う。それを聞いた近藤君は呆れていたが、楽しそうだった。


「肩まで浸かって100秒よ、ちよちゃん」


夕方になり、私たちは今、近藤君の家の近くの銭湯に来ていた。


「そんなに子供じゃないよ。もっと入っとこうよ」


湯船に浸かり、私たちはそんな話をしていた。なぜ銭湯なのかというと、最初は近藤君の家のお風呂を借りる予定だったのだが、なんでも急にお湯が出なくなったらしく、ここに来ていた。私たち以外には人は誰もいない、静かなお風呂だった。


「ねぇ、留香ちゃん。なんで近藤君、人のこと信用しないの?」


私の頭からはその疑問が離れなかった。誰もいないし、ここなら近藤君に聞かれる心配も無い。今しか無いと思った。


「教えて欲しいなら教えてあげる。でも私の憶測も入っているからね。そこら辺は理解しておいて欲しいわ」


そう言った留香ちゃんは話し出した。なぜあの優しい近藤君が人を信じないのかを。


それは近藤淋都が12歳の夏頃の出来事だった。彼はその時、友人3人と共に、公園にいた。彼を含む全員、成績優秀な優等生だが、淋都以外は学校では猫を被り、優等生を演じていた。淋都は素を隠さなかったため、成績は良い生徒だったが少し先生に反発するような生徒でもあった。


「なぁなぁ、キャッチボールしようぜ」


グループの1人がそんなことを言い出した。2人は賛成、淋都は反対した。この公園は近くの高校の不良のたまり場となっていたし、実際その頃も5人の高校生が公園のベンチでたむろしていた。


「じゃあ淋都は見とけよ、俺たちはやっとくから」


淋都を除く3人がキャッチボールを始めた。少し時間が経った頃だった。1人が取り損ねたボールが、不良達の元へと飛んで行った。


「おい、やべぇよ、逃げよう」


淋都を置き、3人は逃げ出した。淋都は、逃げなかった。彼はこう考えた。悪いのは自分達なのだ。それにいくら不良高校生とはいえ、この程度で怒られはしないだろうと。


「このボール、お前のか?」


高校生が、こちらへ歩いてきた。その手にボールを握って。


「ごめんなさい。僕たちのボールです。返してくれませんか」


淋都の顔面を、鈍い衝撃が襲った。5人の高校生が、1人の小学校を、袋叩きにした。いくら彼が同年代の中では大柄とはいえ、高校生5人には何もできない。痛い。痛い。幾分かたった後のこと。高校生は淋都を置いて、どこかへ去っていった。

家に帰ってから、淋都は当然心配された。親、妹、隣に住む幼なじみ。でも彼は少し派手に転んだだけと嘘をついた。1人で、彼はこの出来事を1人で隠すことにした。ベッドに潜り込み、1人で泣いた。

次の日、彼は学校で、呼び出しを受けていた。優等生とは無縁なはずの校長室に。そこにはあの3人も居た。怒られるんだと思った。全員で。でも怒られたのは彼一人だった。どうやら怒られている話を聞くにこうなっているようだ。球技禁止の公園で、淋都はキャッチボールをしたいと言い出した。彼ら3人は止めたが淋都が強行。飛んでいったボールが高校生に命中。怖くなり逃げ出したが淋都を助けるために帰ってきて、傷だらけの淋都を介抱した……といった感じ。

馬鹿馬鹿しい。何一つホントのことは無い。でも誰も淋都を信用しなかった。同じ優等生なら3人の方を信じると、至極当然のことだろう。それでも淋都の心に不信感の種を撒くには十分だった。結局その後、淋都は家に返された。保護者にも連絡したからと校長は言っていた。憂鬱な気分で彼は家へと帰った。

母親には、怒られると思った。案の定、珍しくリビングに母親は座っていた。そして、帰ってきた彼を抱きしめた。


「淋都、落ち着いて本当のことを話してごらん。お母さんは淋都はそんなことする子じゃないって知ってるから」


淋都は泣いた。泣きながら本当のことを話した。母親は何も疑うことなく、全てを信じた。彼の妹も、何も言わず、そっとしていた。次の日学校に行くと、また校長室へと呼び出された。まだなにかあるのかと身構えたが、そうではなかった。あの3人が、淋都に謝ってきた。自分達の保身のために嘘をついたこと、そのために淋都を傷つけたことを。


「この子達もこう言ってるし、許してくれるかな」


校長がそう言った。ああ、そうか。大人ってこういうものなんだ。人ってこういうものなんだと淋都は思った。間違っていたことを無かったことにして、軽い謝罪の一言もなく、偉そうにふんぞり返る。その態度は、淋都に人を信じることに意味は無いと、間違った思考を植え付けた。


「ってのが事の顛末だよ……ちなみにその3人は今は別の学校に行ってるし、校長は不祥事起こしてクビになったからもう接点は無いのが救いなのかな」


留香ちゃんの話が終わったみたい。聞いてはみたものの私にはどうすれば良いか分からなかった。


「淋都のこと好きになっちゃったんでしょ。なら淋都のこと、裏切らないであげて。淋都はきっと振り向いてくれるはずよ。だってちよちゃん可愛いもの」


裏切らない、とはどうすればいいだろうか。単純に約束を破らないとか、そんなことでできるだろうか。私には分からない。でも留香ちゃんが応援してくれていると思うと、なんだかできそうな気がしてきた。


「そろそろ上がろっか、近藤君も待ってるかもしれないし」


私たちは湯船から上がり、近藤君が待っているであろうロビーに向かった。

近藤君はロビーの椅子に座り、本を読んでいた。遠くからでも分かる大きな体を見つけ、私は駆け寄った。


「お待たせ。つい長く入っちゃった」


近藤君の読んでいる本は既に半分のページがめくられていた。


「さっき上がったとこなので問題ないです。それより、もっと綺麗に髪拭いたらどうです」


見え透いた嘘。その後、私が持っていたタオルを手に取り、髪を拭いてくれた。


「淋都、ちよちゃん、さっきそこの売店でアイス売ってたんだけどさ、食べて帰らない?」


留香ちゃんの提案。反対する理由は無い。私と近藤君とちよちゃんの3人でアイスを買い、それを食べながら、もう暗くなった街を歩いた。


「今年ももうすぐ終わりかぁ……大丈夫? やり残したことない?」

留香ちゃんが聞いてくる。


「私は特に無いかな。普通の、楽しい1年だったよ」

「僕も無いよ。留香は今年も彼氏できなかったな」


近藤君がそんなことを言う。


「余計なこと覚えてなくて良いのに……確かにそういう出会い全く無かったけど」


腰に手を当てて怒った様子の留香ちゃん。でも多分そんなに気にしていないだろう。


「来年は私の近くで恋が実ることを願うことにするわ」


なにかに誓うように留香ちゃんが言う。それに水を差すように近藤君が。


「他人の恋より自分の恋になりそうだけどな」


2人の微笑ましいやり取りに、私は自然と笑顔になっていた。


リビングのテーブルの上にボードを広げ、僕達3人は何故か人生ゲームをしていた。


「普通にやってたけど、なんで人生ゲームなんだよ。他にあっただろ」


これを始めた留香に文句を言う。


「しょうがないじゃない。淋都の家にあるテレビゲームは1人用しか無いんだから」


別に僕は構わないのだけれども、白井さんが、と考えていた。


「じゃあ私ここに家建てることにする」


……どうやら案外楽しんでいるようだ。良かった。あと年越しまで2時間を切った。ついでにテレビをつけ、年末の特番を横目にしながら、僕達はまったりと人生ゲームをやっていた。


「淋都、私飽きた」


30分ほど経って、留香がそう言った。始めたくせに自由すぎやしないだろうか。まぁ僕も結構飽きてきたのだが。白井さんに関してはうつらうつらとしていた。


「白井さん、白井さん起きてますか。年越しまでもう少しですよ」


肩を軽く叩き、少し声をかけてみる。


「起きてる……大丈夫……」


ふにゃふにゃとした声で返事があった。普段は早く寝ることが多いのだろう。明らかに眠いのが伝わってくる。


「眠たいなら無理しないでください。ちゃんと起こしますから」


彼女を膝の上に乗せ、留香と雑談を交わす。


「私には起きとけって毎年言うのに、甘々じゃない?」


不満そうな留香。


「お前は毎年やってるだろ。白井さんはお前に連れてこられたの。優しくするのは当然と思うけど」


腕の中で眠ってしまった白井さんを気にかけつつ、留香に反論する。


「それだけなのかな。ほんとかな」


ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見てくる。何度も言うが、決して白井さんにそういう感情があるわけではないのだ。多分。

 少したって、僕は手の中で眠っている白井さんを起こした時計は11時57分を指していた。


「ありがと、近藤君。私少し元気になったよ」


立ち上がり、背伸びをする白井さん。小さな体がめいいっぱい伸びる。


「あと三分。淋都カップ麺できた?」


毎年恒例の年越しそば。とはいってもインスタントだが。三人分、少し前から準備していた。


「ちょうどできたくらいだと思うよ。食べよっか」


深夜のカップ麺というのは、なんだか少しテンションをあげてくれる。白井さん一生懸命、インスタントそばを啜っていた。


「年越しそばなんて初めて食べるな、私の家、こういうの無いから」


白井さんがそう言う。それなら、もう少しちゃんとしておけば良かったなと思った。


「年越しそばなんて大したものじゃ無いですよ。いっつも僕ら、めんどくさいからってカップ麺で済ませてるんです」


良いなぁと、白井さんが目をキラキラさせている。この程度でそんな反応されては少し申し訳ない。


「お、淋都、ちよちゃん、あと十秒で年明けだよ」


留香がそう言ってきた。


「来年も三人で年越しできますように!」


僕達三人は、そんな言葉を交わして、年を越した。








はい、間をあけた割に短い話になってしまった和水ゆわらです。本当は次の話の分までまとめて投稿したかったのですが、あまり時間が取れず、急遽分割して第二話、第三話として投稿します。なのであまり話は進んでいませんね。近藤君の人間嫌いっていうのがわかってもらえればOKです。第三話、もし待ってくれる方がいらっしゃれば、お楽しみにしていてください。

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