52.その言い草はあんまりではないですか?
自身のハイテンションに置いて行かれっぱなしの三人に、ミリアムはようやく気づいたようだった。
「あれー?やっぱ、みんな知らないんだ。妖精って凄いのよ!」
「はあ……」
「魔力が人間の十倍になるのよ!凄くない!?」
エマは、それでようやくミリアムのはしゃぎように合点が行った。
「なるほど。十倍……」
「そうよ。ということは、魔族なんか瞬殺ってわけなのよ」
「へー」
「今の私には、あの竜族と同等の魔力があるってわけ!」
「それは凄いわねぇ」
感心するエマとウェンディに対し、アンドリューはどこか不満気な顔をしている。
「あら、どうしたのアンドリュー?元気ないじゃない」
ミリアムが水を向けると、彼は怒ったように視線をそらした。
「……別に」
「早速会議しましょう。ほら、アンドリュー。王都での一連の出来事をみんなに教えてあげなくっちゃ……」
アンドリューは恨めしそうにミリアムを見上げ、押し黙っている。
「……だから、何よ?」
「いつかは戻るんだよな?元の体に」
ミリアムは首をひねりながらも、こう答えた。
「んー?ま、戻ってもいいけど?」
「あのなぁ……馬鹿な事考えてねーで、絶対に戻れよ。元に」
「何なのようるさいわねぇ……自分の体の処遇ぐらい、自分で決めさせてよ」
エマはある予感にどきどきとし、ウェンディは微笑ましそうに二人を眺めている。
再びの魔王城図書館、ラウンジにて。
ミリアムは木偶を操作して、王都の地図を広げていた。
「ここ。玉座の間で、私はやられたの。魔法陣のトラップに引っかけられたのよ。ふっざけんじゃないわよって」
「……やっぱり、あの王に成り代わった魔族がやったの?」
「そうなのよ。ある日、七人の成績優秀者だけが集められたの。私の場合、アンドリューが待機していたからすぐに勲章を回収して逃げて貰えたけど、ほかの六人は今もあそこに転がったままだと思う」
「……そうだったのね」
「それからは一気呵成に魔物の群れが王都を占拠したわ。アンドリューも、逃げるのだけで精一杯で」
アンドリューがようやくその重い口を開いた。
「兵士の多くは役立たずだった。すぐに逃げやがって……あれじゃこっちだって加勢出来ないぜ。何のために国が兵士の数を揃えていると思ってやがんだ」
「そういうわけで、我々はいったん退避したのよ。で、魔王の力を借りようと思ったわけ。そういえばウィルはどこに行ったの?エマ」
ミリアムに問われ、彼女は答えた。
「浮遊大陸よ。そろそろ分裂が始まりそうなの」
「えー!そうなの?」
「だけど、浮遊大陸まで魔物が押し寄せて来て……それで私、下界に」
「それ、大変じゃない!早く魔族をやっつけて、この地上を平和に戻さなくっちゃ」
「王に成り代わったやつを倒せば、ちゃんと平和になるのかしら……?」
「うーん、それは分からないけど、あいつが音頭を取ってるんだろうし、やっつければこっちが有利になることは確かだわ」
そう言うと、ミリアムは得意げに髪をふわっと振った。
「それに、この……妖精化ミリアム様がいれば、あんなやつら一網打尽よ!!」
エマとアンドリューは再び能面のような顔になったが、ウェンディだけは笑顔で頷くと、こう問うた。
「王都に魔族はどのくらいいましたか?」
「そうね……とにかくたくさんよ。恐らく、世界中の魔族が集結してるんじゃない?」
「では、ミリアム様。ガーゴイルが一体どこから来たのか分かりますか?」
「へ?ガーゴイル?」
「あれは既に一度絶滅しているのです。なぜ今、この世界に復活したのかが謎で」
「あ、そうなの!?復活……」
ミリアムは腕を前に組んで頭をひねる。
「死者を復活させる、禁忌魔法を使った……としか」
「やはり、そう思われます?私もまさかとは思ったのですが、それしか考えられなくて」
エマは考え込んでから、呟く。
「確か、ウィルはメイデンも化石だと言ってたわ。あいつが復活魔法で蘇ったのはまだ理解出来るんだけど、そんなに強い魔族ではないガーゴイルを復活させた上あんな数投入して、一体魔族にはどんな意図があるのかしら」
ミリアムが頷いた。
「確かに妙ねぇ。本当に魔族以外を滅ぼしたいのなら、もっと強い奴を復活させればいいのにね」
「多分、こちらの殲滅が目的ではないのよ」
「だとすると、ガーゴイル投入の目的は……?」
「攻撃ではないとすると……捜索か足止めのためじゃないかしら」
女性陣は確かめ合うように互いを見交わす。エマは続けた。
「足止めであれば、魔族は今、我々に王都へ来られるわけには行かないはず。早急にぶちのめしたいわね。捜索だとしたら、ウィルと子竜の身が心配」
「なら、先に安全を確保した方が良さそうね。人質にでも取られたら叶わない。それこそバッチリ足止めされちゃうわよ。魔王たちを守り、早急に敵を叩く。これでオッケー?」
四人、互いに頷き合った。
「お話がまとまりましたね。一度、浮遊大陸に戻りましょう」
「そうね。竜族の力も貸して欲しいし」
「きっとテオドール様も協力して下さいますわ。お子の未来のためですもの」
アンドリューが、検索用木偶を「よいしょ」と担ぎ上げる。
「こいつ、便利だから連れて行こうぜ」
「いいアイデアね」
「さあ、みなさん。浮遊大陸へ急ぎましょう」
「わーっ。私、浮遊大陸に行くの初めて!わくわくするぅ!」
三人は玉座の間へと移動した。
ウェンディがふわりと竜に変身する。
三人は彼女の背に乗り、魔法陣から浮遊大陸へとテレポートした。