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51.封印を解きますか?

 魔王城図書館にて。


 三人はお馴染みの木偶を光らせ、早速検索に取り掛かった。ずらりと並んだ文字列の中から、ウェンディがふとある項目に目を止めた。


「……封印石ふういんせき?」


 ウェンディが呟く。検索結果の中に、見知った言葉があったらしい。


「ウェンディ、何か知ってるの?」

「はい、大昔に聞いた覚えがありますわ。封印石には妖精を封印する力がある、と」

「……ということは、ミリアムは妖精にされたってこと?」

「恐らくそうですわね、きっと」


 すかさずエマが検索窓に「妖精にする方法」と入れる。


 かつての魔王の日誌が出て来た。


「魔法陣を発動させ、妖精化させた後、封印石に閉じ込める。こいつが出られぬよう、魔法陣は消した。これがあっては出て来る可能性がある」


 エマは呟いた。


「ふーん、つまり魔法陣を再び描けば妖精化を治せるかもしれないってことね」

「その魔法陣はどこにあるんだ?」

「検索で出て来るかもしれないわ」


 〝妖精化&魔法陣〟と検索する。


「あ、これかしら」

「へー。かなりでけー陣だな」

「これを描けば、ミリアムを出せるのね!」


 ウェンディが割って入った。


「いいえ、ミリアム様は封印石に封印される魔法をかけられています。まずは石から解放する必要がありますね」

「なるほど。彼女には二重に魔法がかかっているのね?」

「はい。ですから、封印石からの解放、その後妖精化を解くための魔法陣を作成する、という順番で救出することになるかと」


 アンドリューが問う。


「封印石から解放するにはどうしたらいいんだ?」

「それも検索っと……」


 検索結果が出る前に。


「それは、解放石かいほうせきです」


とウェンディが言う。エマの手が止まった。


「解放石?」

「はい、対になる術具です。封印から解放したい時に使用します」


 アンドリューが感心する。


「そんな石があるなんておもしれーな」

「はい。封印石は元々、妖精を持ち運ぶためのものですから。解放石もあるのです」

「妖精を持ち運ぶ?何のために?」

「妖精の羽から出る鱗粉には魔力を増幅させる効果があるのです。今は余り見ませんが、かつては妖精はそこら中を飛び回っていましたので、よく捕まえて我々も頭に振りかけたりしておりました」

「すげー話だな!いつ頃からいなくなったんだか……」

「ニ・三千年あれば、そりゃ、絶滅する種族もおりますわ」

「ああ、なるほど……」


 エマは勲章を覗き込んだ。言われてみれば、ミリアムの背中に蝶のような羽が生えている。


「その解放石とやらは、どこにあるのかしら」

「それも調べて参りましょう」


 エマが検索すると、何やら見覚えのある名前が出て来た。


「……タフツ坑道?」

「タフツって言ったら、あそこじゃねーか。前にミリアムが爆破装置を踏んだところ!」


 エマが目を輝かせ、ウェンディが頷いた。


「確かタフツ坑道は、封印石と解放石の両方がある鉱石採掘場だと聞いています。そこに行けば、きっと手に入りますわね」

「んだよウェンディ。そういうの、早く言ってくれない?」


 アンドリューの抗議に、ウェンディは頭痛を我慢するように頭をゆらゆらと振る。


「……申し訳ございません。何せ3000年も生きておりますもので、記憶が多過ぎ、取り出すまでに時間がかかりますの」

「へー。長生きも良し悪しだな」


 エマは立ち上がる。


「すぐに行きましょう。私のテレポートで」

「はい。石を穿つものはお持ちで?」

「俺が石を削るぜ。こういう時のための筋肉だ!」


 エマを挟むように、ウェンディとアンドリューがそれぞれ横に立つ。


「それじゃあみんな、行きましょう!」


 アンドリューの首にかけられている勲章から、ミリアムが不安げにこちらを見上げている。


 エマは両脇の二人と腕を組んだ。


 三人は魔王城図書館から、ふわりと消えた。




 気づけば、そこは懐かしいタフツ坑道。


 さびれた鉱山だ。本当にこんなところに、封印石と解放石の両方が眠っているのだろうか?


 歩きがてら、ウェンディがその疑問に答えるように呟く。


「妖精が消えてからは、これらの鉱石は用のないものになってしまいました。それで打ち捨てられていたんですわ、きっと」

「解放石と封印石の特徴は?」


 アンドリューが問う。


「はい。どちらも独自の磁場を持っていて、近づけると磁石のように反発し合います。どちらも無色透明です」

「なるほど。見分ける方法はないのか?」

「単独で見分ける目はあいにく持ち合わせていないのですが……戦士様がお持ちになっているその勲章の封印石。それと反発する磁力の石があれば、きっとそれが解放石となりますわね」

「お、そうか。俺バカだから、そういう理屈、一向に思いつかなかったぜ!」

「ふふふ。物事は至極単純なものなのですよ……」


 と、その時。


「アンドリュー!勲章が……」


 エマが声を上げる。彼の首からぶら下がっている勲章が、カタカタと別方向に引っ張られ始めていた。


「おおっ。こいつはスゲー……こっちか!」


 三人は勲章が反発したのと反対方向へと歩いて行く。


 坑道の岩壁を見て、三人は頷き合った。


 透明な鉱石が、水晶のようににょきにょきと生えている。


「……これなのね?」

「ようし、削ってやるから待ってろ」


 アンドリューは持っていた大剣で、がつがつと鉱石柱を叩きのめした。


 鉱石の破片が散らばる。エマはウェンディが差し出した皮袋にそれらを入れる。


「……意外と量、ありましたわね」

「ああ。これだけあれば、勲章に封印された成績優秀者たちも解放出来るな!」

「でも、まずはミリアムを助けましょ。魔王城に帰ります」


 三人は再び魔王城に戻った。


「よし、待ってろよミリアム。今出してやるからな!」


 無責任に筋肉戦士がそんなことを言い、その後ろでエマとウェンディは再び検索をかける。


「ええと、封印石からの出し方。……これも魔法陣が必要なのね」

「広い場所が必要ですわ」

「それなら、闘技場があるわ。みんなでそこに行きましょう」


 ウェンディが書架の中から魔法陣の本を持って来た。


 三人は闘技場にワープする。


 エマとアンドリューが、棒と糸とで正確な円と直線を描いて行く。ウェンディが文字を描きつける。


 魔法陣の対角線上に、解放石と勲章とを置いた。


 ウェンディが本を読みながら、古代語を詠唱する。魔法陣が輝き、勲章の中の封印石と解放石が同時に割れた。


 下から上へと突き上げる大きな風が巻き起こり、きらきらと金粉のような輝きが空気中を舞う。


 と、小さくなったミリアムがその蝶のような色とりどりの羽をはためかせ、するりとエマの顔前に立った。


 しばらく、間があって。


「よ、よかったー!」


 先に叫んだのはエマではなく、ミリアムの方だった。彼女は小さい体を大きく使って身振り手振りで話す。


「エマは封印されてなかったのね?これはワンチャンあるぅ!」


 エマはそれを眺めると眉を八の字に曲げ、ふにゃりと泣き出した。


「ううう、ミリアム……」

「ちょっとちょっと、エマ!」

「よかったは、こっちのセリフ……」

「もう、昔の泣き虫エマに戻ったの?しっかりしてよ!」


 エマは鼓舞されて笑う。ミリアムはアンドリューを振り返った。


「アンドリューも、ありがと」

「おう!次は妖精化を解かないとな!!」


 するとミリアムは羽を振り振り、あっけなく空中でこう言い放った。


「え~!?何言ってるの?せっかく妖精になれたんだから、しばらくこのままにしておいてよ!」

「……は?おまっ……」


 あの救出劇は何だったのであろうか。


 エマもアンドリューもウェンディも、能面のような表情になった。


「あれ、あんた達知らないの?妖精のヒ・ミ・ツ!」


 三人の反応をよそに、ミリアムは頬を輝かせ高らかに叫ぶ。


「これは大チャンスなのよ!魔族を屈服させるチャンス!!」


 三人は顔を見合わせた。


「くくっ、馬鹿な魔族たち。ミリアム様を怒らせたらどーなるかを思い知るがいいわ!」


 ミリアムは愉快そうに高笑いした。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「俺が石を削るぜ。こういう時のための筋肉だ!」 そうなんだけど、なんか笑ってしまいましたwwww
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