43.ようやく二人きりですか?
町へ向かうため軽装に着替え、エマとウィルはめいめい買い物用のつる籠をぶら下げ部屋を出る。
「あれー?」
向こう側からミリアムがやって来た。
「二人とも、どっかお出かけ?」
エマは口をつぐんだが、ウィルはすぐにこう答えた。
「ああ。赤ん坊のものを買いに」
沈黙。
「ち、違うのミリアム、これは……」
「アンドリュー!エマがおめでただって!!」
部屋から筋肉戦士が飛び出して来た。
「えええええもう!?」
「ち、違うのよ!もうっ、ミリアムの馬鹿!!」
「水臭えぞエマ!っていうか妊婦は初期が大事なんだから休んでろよ。必要なものがあれば、俺たちが買って来てやるからよ!」
「ち、違っ……もうっ、全員馬鹿!!」
そう、まずは報告をしなければならなかったのだ。
「へー、ウィルが分裂すんのか!」
アンドリューが得心したように言う。ミリアムはウィルの背中側に回って、動き回る分裂の芽をつんつんと突っつき回している。
「分裂が終るのっていつなの?」
「記録によると、大体2~3か月だ。栄養状態やその時の精神状態にもよるが」
「意外と短いのね」
「だから、動くなら今の内なんだ。あと一か月で、俺の背中に顔が出て来るぞ」
「へー、服なんか着てて大丈夫?赤ちゃん窒息しない?」
「薄着ならば大丈夫だ。鎧やマントは控えた方がいいかもな」
「へー。楽しそう。うーん、どうしようかな」
その言葉にエマが顔を上げる。
「そうだわ。ミリアム達はこれからどうするの?」
「エマこそ、魔王とここで暮らすの?」
「ええ」
「いつまで?」
「うーんと……」
エマは顔を赤らめ、微笑むウィルと目配せをする。
「あー、はいはい。〝永遠に〟ですかぁ?」
ミリアムが苦々しい顔でからかう。アンドリューが取りなした。
「嫉妬すんなよ」
「フンだ」
「俺たちは、そろそろここを出ようかと思っていたんだ。何せ、王が魔族だったし」
エマは目を丸くする。
「へっ!?」
「ああ、エマは知らなかったのよね。我々に魔王討伐を命じた我が国の王が、実は魔族だったの。恐らくメイデンの残党よ。勇者に魔王討伐をさせようとしていたわけ。考えるわね、あいつらも」
「えええ。じゃあ、本物の陛下は一体……」
「さあ?あいつ、王が死んでるのか生きてるのか、口を割らないのよ。下手したら、王族は代々魔族だったっていう可能性すらあるわね」
「だから俺たちは一度王都へ行って、実際のところを調査しようと考えてる。臣下や親戚筋の魔族率なんかも洗い出したい。あとは魔物の狂暴化の原因だな。恐らくこいつらが何か知ってるんじゃないかと思ってるんだが」
しばらく浮遊大陸にさらわれている間に、色々と地上でも変化があったらしい。エマは冷や汗をかいた。
下手をしたら、魔族にそそのかされて魔王を殺すところだったのだ。
「そうだったのね……確かにそれは、気になるところね」
「でしょ?まあ私達も二人の新婚ハッピーライフのお邪魔虫ですし、これを機会に魔王城から撤退してもいいかしらね」
「もう、ミリアムったら……」
「そうなると、しばらくこっちには来れねェな。分裂中はあんまり動けないだろうし。エマ、何かあったら教えてくれよ」
「分かったわ」
四人は頷き合った。
久しぶりに、四人は魔王城を出る。
「じゃあ、一度私達、お別れだわね」
ミリアムが荷物を担ぎながら言う。
「ああ。ミリアムもアンドリューも達者でな」
魔王が微笑む。
「今度は裏切らないでよ?二人とも」
エマがからかうように牽制する。
「王は魔族だし勇者装備はクソ仕様だし、もう裏切る理由なんてないぜ。二人とも、体だけは大事にな」
アンドリューはそう応じると、ミリアムを促してかつての出発地点、王都へと向かって歩き出した。
「さて、と」
ウィルがエマを振り返る。
「我々はさっさとテレポートでサフィアノ村まで行くか」
エマはちょいと下を向く。ウィルは怪訝な顔をする。
「……どうした?」
「あの……ウィル、今日、いい天気ね」
「そうだな」
「……歩いて行ってもいいんじゃない?」
そして少し上目遣いにそう呟いた。ウィルは唸って腕組みする。
「なるほど。俺と密着しながらも長く歩きたいし、色々話したり同じ景色を見て共有する話題を増やしたりして、更に二人仲良く、愛を深めようと言う魂胆だな?」
「詳細に解説しないでよ!恥ずかしい!!」
魔王は恥じらって叫ぶエマを、ニマニマと愉悦の表情で眺めた。