24.いよいよ始まるのですか?
エマとウィルは水瓶の部屋にいる。
水瓶に映し出された光景を見て、二人は慄然とする。
メイデンは坑道を出た後、シグの姿に戻っていた。彼はそのまま移動し、国王に何かを報告している。何を言ったのかは不明だが、国王は激怒しいきり立ち、何事か兵士長に命令を下している。兵士長はそのまま玉座の間を出て行った。シグは王と何か話し合い、立ち去った。
「ウィル、これって……」
「うかつだった。人間の姿に戻って国王を動かしにかかるとは。すぐに魔王城に向かってくるものと思っていたが、これは」
「……人間を巻き込もうとしてる、ってことよね」
「間違いない。エマ、国王を止めることは出来ないか?得意のテレポートで」
エマは考える。
「待ってウィル。もしもメイデンが国王に、勇者が魔王に寝返ったと報告していたら?」
ウィルは目を見開いた。
「馬鹿な……」
「ありうるわ。だって、かなりお怒りの様子だったじゃない。報告して怒る、でもシグはお咎めなしに開放されているっていう状況よ?……今すぐに戻るのは危険だと思う」
魔王は再び水面に目を落とす。
「魔王城に兵士が来るのか」
「その可能性は否定出来ないわね」
「困った。なるべく人間の被害は出したくない。何かいい案はないものか」
「そうね。シグの正体を、王や兵の前で暴ければいいんだけど」
魔王は水瓶に注力する。場面が切り替わり、今度は兵士が王宮の裏に集合させられている。何やら号令がかかり、隊が動き出した。
「これは、来るわね……」
「どうすべきか……」
魔王は腕組みをする。
「ここでじっとしていても埒が空かない。ミリアムとアンドリューは?」
「武闘場にいるわ。対メイデン戦に備えて、色々試してるみたい」
「迎えに行こう。玉座の間で、迎え撃つ準備だ」
玉座の間に、四人は集う。
「いよいよ迎撃の時だ」
ウィルが木偶と四人を配置し、てきぱきと指示を出す。
「竜が召喚されてしまう前に、今ある勇者装備を全てエマに着せよう。アンドリュー、メイデンから具足を奪い、エマを完全な勇者にするんだ」
「その練習はぬかりなくやっておいたぜ」
「ミリアムには兵士の足止めをしてもらう」
「はーい。そんなことならお安い御用よ」
「エマは……」
エマはごくりと喉を鳴らす。
「もっかい、テレポートな」
「……はい?」
ウィルはにこりと笑う。
「これはエマにしか出来ない。とにかく、メイデンの背後を取って欲しいんだ」
「それだけでいいの?」
「勇者装備を奪おうと攻撃して来るだろうから、少し持ちこたえてもらいたい。時間を稼いで欲しいんだ。その間に、俺がメイデンを何とかしよう。その後、勇者装備を揃えたエマに竜の相手をしてもらう」
エマはその場面を想像しながら頷く。
「ウィル……勝算があるのね?」
「一応、な。いちかばちかだが」
勇者と魔王は目を合わせた。
そこには、ようやく芽生えた信頼がある。
魔王城から窓の外を眺め、アンドリューが叫ぶ。
「うわっ。軍がもう来やがった、早過ぎるだろ!」
「きっと、シグが案内したのよ。今思えば私たち、魔王城に行く口実を作るために利用されただけだったのよね……腹立つぅ」
魔王はゆったりと玉座に腰掛けた。
「では頑張ってくれ、俺様の配下たち」
「……おお?まだ冗談言う余裕があるとは、たまげたなぁ」
アンドリューが苦虫を噛み潰すような顔で皮肉を言い放ち、ミリアムが不敵に笑う。
「シグ……いいえ、メイデン。私を騙した恨み、必ず晴らしてやる!」
エマは目を閉じてシグの背中を思い出す。
竜を召喚する魔法陣。
それが発動する前に、隙を作らなければ。