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20.全ては仕組まれた計画なのですか?

 図書館の中央部、ラウンジの円卓に四人は向かい合って座る。


「資料を当たる前に、前提を確認しておきたい」


 魔王はそう言うと、アンドリューとミリアムに鋭い視線を送る。


「エマから勇者装備を剥ごうと言い出したのは、どっちだ?」


 やや間があって、しんどそうにアンドリューがその手を挙げた。


「おっ、正直者だな」

「……エマには悪いけどよ。あの極上の装備品をより有効に使えるのは俺の方だという自負があった。何でこいつなんかが、っていう嫉妬があったのは認める」


 エマは目をすがめたが、何かを諦めたようにため息をつく。


「やっぱりね……薄々そうじゃないかと感じていたわ」


 アンドリューは驚いた。


「……何だと!?」

「ええ。だってアンドリュー、貧しい家の出だったものね。騎士学校でだって、実力があったのに道具の面で劣ってしまう場面が多々あったわけだし」


 ミリアムも少しうなだれる。ウィルは感じ入るように、人間三人の顔を見比べた。


「では次の質問。エマを簀巻きにして魔王城に放置しようと言い出したのは誰だ?」


 その問いに、ミリアムとアンドリューはハッとして顔を見合わせた。


「……シグだわ……!」


 ウィルは頷く。


「やはりな。その目的、狙いが何なのかは聞いてないか?」

「そこまでは聞いてないわ。でも、王からの褒美が減るとか言ってた」

「ふん。少しダミー的な発言だな。本音は別のところにありそうだ」

「ウィル、心当たりでもあるの?」


 エマがそう尋ねると、魔王は答えた。


「エマを殺したりせずに、簀巻きにしたという部分に引っかかるんだ」


 ふと静かになってから、ミリアムが呟いた。


「まさか、エマを簀巻きにすると、魔王と人間を滅ぼせると踏んだってこと?」

「風が吹けば桶屋が儲かるみてーな話だな」

「魔王を滅ぼしたいだけなら、勇者と組して魔王を倒せばいいだけだと思う。メイデンはなぜ一度、勇者をパーティから外そうとしたのか……謎が多いが、推測されるパターンは三つ」


 魔王は指を三本立てて見せた。


「魔王とエマと懇ろにさせ、闇欲を削いで魔王を滅ぼそうと考えた──がひとつ目。これは動機としては弱い。魔王がエマに惚れる保証がない上、その程度のことでは魔王の分裂が止められないからだ。


 むしろ魔王と勇者を出会わせないようにする必要があった──がふたつ目。メイデンのみで魔王を始末しようと考えた、と仮定する。しかしこれを狙ったにしては、なぜエマが始末されなかったのかという点において疑問が残る。よって、これもナシ。


 俺が一番可能性があると思ったのは、これだ。


 エマなら簀巻きの状態から脱出し、確実に魔王を殺してくれる、と踏んだからだ。そのためには、エマ単独で玉座の間に来て貰う必要があった」


 沈黙。


「え……ええええ!?」


 エマは思わず席から立ち上がる。


「何で?だって私はウィルに拾われて」

「それが、メイデンには誤算だったのだ。まさか勇者が魔王に拾われた上、魔王にベタ惚れになるとは予想外だっただろうからな」

「えっと……それ、ちょっと語弊が」

「魔王が勇者のご機嫌を取って手懐けにかかるというのも、予想外だったのだろう」

「それは……そうかもしれないわね」

「恐らくエマは我々が知り得ない、大きな力を持っている」


 アンドリューとミリアムが、明らかに納得の行かない顔をする。エマはそれに苛つきながらも席に座って考える。


「……大きな力?」

「魔王を倒す力ということだ。メイデンはそれを知っていて、エマを放置した。その間、メイデンたちは魔王の前まで進んだ。これも予想だが、恐らくメイデンは玉座の間でアンドリューとミリアムを始末するはずだったのではないだろうか。あいつは力を使うと魔族の姿を露呈してしまう癖があるから、それを仲間、特にエマに悟られてはいけなかったのだ。城の前で始末出来たろうにエマを放置し、わざわざお前たちを連れて行って距離を取ったのは、そういうことだろうと思う」


 そう言われた彼らはあんぐりと口を開けている。


「魔法障壁を破壊しにかかったのが、その証拠だ。あれを壊せば玉座の間へテレポートが出来る。それならエマをすぐ呼び寄せられる。簀巻き状態でも、テレポートには差支えないからな」


 エマはぽかんとしてから、眉をひそめる。


「つまり、魔王、メイデン、エマを魔王の座に集めようとしたのだ。魔王、魔族、勇者を集めることに、何か意義があった。これを今から調べたいと思う。資料を当たれ。特に──ミリアム」


 ミリアムはびくりと飛び上がった。


「え!?わ、私!?」

「お前は騎士学校で最強の魔法使いだったと聞いている。資料を読み込んで、モノにするのは得意なはずだ。そうだろう?」

「ウィルがどうしてそれを……」


 エマは内心


(水瓶で見たのね)


と思ったが、口には出さなかった。


 そしてその時ふと、メイデンの心理に触れたような気がした。何かを知っていて、黙っている。知らないふりをする。目的を完遂するために。


「エマがそう言っていたんだ」


 思わぬ発言に、エマは驚く。しかしミリアムは、それを聞いて少し得意になったようだ。


「ふーん。エマ、分かってるじゃーん」


(ウィルったら、我々の仲を修復するつもりなんだわ……)


 魔王は魔王で世界を救うために、色々と考えがあるようだ。

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