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16.幼馴染は魔王のしもべになるのですか?

 木偶メイドが紅茶を運んで来て、魔王、エマ、アンドリュー、ミリアムの前に置く。


 いつもの食堂に、四人が会した。互いに、敵か味方か分からない混沌とした状況である。


 そんな中、魔王はあえてこう言った。


「安心しろ。俺は世界を滅ぼす気など毛頭ない。しかし、どうやら魔族は魔王と人間を滅ぼそうとしている。魔王と人間で手を組まないか?魔族に対抗するために」


 アンドリューとミリアムは信じられない、といった表情で互いに顔を見合わせている。


「そんなわけあるはずがねぇ……口車には乗らないぜ」

「この口車に乗らないと、人間は魔族の方に滅ぼされちゃうんだがそれでいいのか?」


 アンドリューは途端に顔を強張らせる。ミリアムはなぜか静かに目を輝かせている。


「魔王の命令を聞くというのは抵抗感があるだろうが……お前たちも、世界を救おうと魔王城に来たのだろう?手を貸してほしい。魔王城には俺と木偶しかいないのだ。木偶は命令を聞くだけで、考える頭がない。そこで、考える頭のあるお前たちの力が欲しい。お前たちの様子は水瓶で見ていたから、優秀な戦士と魔法使いであることはこちらでも承知している。とりあえず時間がない。今すぐハイかイイエで答えろ」


 問われた二人は同時に、魔王の隣のエマに目を向け意見を求めた。


「……本当に、大丈夫なのか?こいつの話に乗って」


 エマが答える。


「多分大丈夫。だって魔王がいたから人間が滅んだってこと、今までなかったじゃない。魔王は人間の闇を食らって生きる。ということは、人間が滅べば魔王も生きられないってことだから」

「なるほど。んーまぁ、確かにそうだな……ミリアム、お前はどう思う?」

「こんなきれいな顔の人が、悪巧みなんてするはずないわ!」

「お前……面食いなところは昔からブレねーな」


 アンドリューは女二人を見比べ、決まり悪そうに回答した。


「分かった、魔王の話に乗ることにしよう。あんたの言う通り、魔物の凶暴化を止めるのを目標に俺たちはここまで来たわけだからな。戦う相手が変わったってだけで、最終目標は変わらねぇっつーわけだ」

「それは助かる。ところで……」


 魔王はにっこりと笑って問いかけた。


「アンドリューとミリアムも魔族か?」


 二人は驚きに目を剥き、首を横に振った。


「んなわけねぇ。シグが魔族の仮の姿だったことも、未だに信じられないくらいだ」

「シグなんて、昔は泣き虫で弱っちい子だったのよ。虫も殺せない優しい子だったのに……」


 言うなり、ミリアムが声を詰まらせる。エマは紅茶の香る湯気に顔をさらしながら、ぽつりと呟いた。


「……なら、勇者装備を私から奪おうと言い出したのは、誰?」


 食堂内がしんと静まり返る。魔王ウィルはにやーっと気の抜けた笑みを浮かべる。


 アンドリューとミリアムは青くなった。


「そ、それは……」


 エマはそれですぐさま理解した。


 どうやら言い出したのはシグではないようだ。このふたりの内のどちらかが言い出したことらしい。


「あなた達のせいで、シグ──いいえ、メイデンとやらに一部の勇者装備を持って行かれたわ。どうしてくれるの?」


 アンドリューが鎧と剣をまとい、ミリアムが兜を纏っているのを見るに、メイデンは具足を持って行ってしまったようだ。どれも紛うことなき、先祖代々伝えて来た珠玉の逸品。エマは頬の傷の痛みも手伝って、怒りが収まらない。


 と。


 くっくっく。


 ウィルがいかにも楽しそうに笑い出し、三人は恥ずかしさに顔を赤くした。


「魔族より、悪い人間だと?騙し合い奪い合い、罵り合い……これだから人間は面白い」


 場が余りにも冷え、紅茶も湯気を失っているように見えた。エマは苛々と紅茶を口に運ぶ。


「まあ、勇者装備なんてもういいだろう。大体あれを作ったのは、魔王だからな」

「……え!?」


 ウィルの発言に驚嘆し、人間たちはカップを同時にソーサに叩き置いた。


「あれ?知らないのか。あれを着ている者は、水瓶において監視が可能なのだ。そういう追跡魔法がかかっている」

「じゃ、じゃあ私の先祖が代々伝えて来たものは……」

「勇者発信機というわけだ。歴代の魔王がなぜ勇者が来るタイミングで玉座にいたのかが、これで分かったか?人間ども」


 エマはくらりとテーブルに突っ伏した。アンドリューとミリアムは慌てて勇者装備を外している。


「あははは。エマ、お前の先祖は騙されたと言うわけだ。どうだ?この壮大なドッキリ」

「ぐっ……またそうやってからかって……!」

「ご感想を!勇者様!!」

「ふ、ふざけんなあああ!!」


 エマがウィルに掴みかかり、アンドリューが慌てて間に入る。


「ちょい待て。ってことは、メイデンとかいう奴がどこにいるのか、すぐに分かるってことだよな?」


 エマは魔王をぱっと離した。


「……ああ、そうね」

「俺たちも勇者装備に目がくらんで、お前を騙したりして悪かった。あの話を聞いたらあんなもの用無しだ。とにかく今は、あの魔族を倒すことを優先したい。だから……許してくれ、エマ。また一緒に、世界に平和を取り戻すために力を合わせようじゃないか」


 魔王がにやっと笑う。


「ほう。謝りつつも矛先をそっとらし、責任追及を逃れる作戦だな?戦士よ」

「うっ、うるせーなぁ……ほんと、悪かったよエマ。この通りだ。とりあえず、あの魔族をどうにかしよう。単一民族主義って、大昔に流行った本当にヤベー思想だから、早く止めないと」


 エマはアンドリューに蔑むような視線を投げかけながらも、旅に出た当初の目的を思い出し、渋々頷いた。


「……話はまとまったようだな」


 魔王は紅茶を飲み干して立ち上がった。


「あの坑道から出るには時間がかかる。全員、今のうちに体を休めておけ。木偶がアンドリューとミリアムを、それぞれの部屋まで案内する。それから、エマ」


 エマはびくついて「何?」と問う。


「傷の手当てをしよう。俺の部屋へ来い」


 エマが頷くと、魔王は振り返らず食堂を出て行った。すかさずミリアムが隣でその脇を小突く。


「な、何よ……」

「あとで、詳しくいきさつを聞かせなさいよ!まったく、隅におけないなーエマも」


 エマはうんざりした視線を彼女に向ける。


「……ミリアムったら」

「ま、ちょっと魔王の気持ち、分かる気もするけど?エマってさ、自分では気づいてないけど、地味なのに妙に色っぽいのよね」


 エマは口を尖らせた。


「……じ、地味は余計……」

「ねー、早く行って来なよ。レポート待ってるからね!」


 ミリアムは木偶メイドと連れ立って出て行った。エマは少し緊張しながら、魔王の寝室へと歩き出す。

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