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15.私のせいで魔王は死ぬのですか?

 メイデンの背後から抱き着いたまま、エマはとある洞穴へとテレポートする。


 過去、シグにおぶわれたことがあった。その記憶があったから、こうして共にテレポートすることに成功したのだ。エマは幼い頃のシグを思い出し泣きたくなった。こんな毛むくじゃらのモンスターが幼馴染とはどうしても受け入れられなかった。


 だがここは、ぐっと泣くのをこらえる。


 エマたちがやって来たこの洞穴は、名をタフツ坑道と言う。かつて魔王城を目指す旅路で通りかかった鉱石の採掘場だった。ミリアムが魔力を増幅させるための鉱石を欲しがったため入ったが、迷路のような地形にさんざん振り回された思い出の洞穴だ。最後にはミリアムが鉱石を爆破するための装置を誤って踏んでしまい、途中の道は瓦礫で塞がっている。


 だからエマは、ここを選んでテレポートしたのだ。


 メイデンをここで足止めするために。


 シグがテレポートを使えないことは知っていた。噂によるとテレポート出来るかどうかは血で決まると言われている。勇者と魔王の血脈に属していれば、努力次第で使用可能らしい。


 くらがりで、エマはふらっと立ちくらんだ。先程大広間に続々と木偶兵士をテレポートさせ、運び続けていたのはエマであった。魔王の角のおかげで増幅した彼女の魔力は、一気に100体の運搬を可能にしていた。しかし何度も使用したために、エマはひどく疲弊していた。


(……どうしようか)


 魔王城にもう一度テレポート出来るほどの魔力を回復するには、しばらく時間がかかりそうだ。


 エマが熟考していた、その時。


 エマの首に、メイデンの手が伸びて来た。


 ──と思いきや、彼が手に取ったのは、彼女の胸を飾るあのカメオのブローチ。


「……エマ、これを誰に貰ったんだ?」


 エマはハッとしてそれを握って隠す。メイデンはシグの声そのままに、くっくと笑った。


「おいおい、まさか魔王に与えられたんじゃないだろうな……」


 エマは表情を悟られないように下を向く。


「教えておこう。お前のせいで、魔王は死ぬ」


 エマは怪訝な顔を上げ、メイデンは彼女を嘲笑う。


「魔王はどうやって死ぬと思う?」


 エマは黙った。何を答えても相手の思う壺だろう。しかしメイデンはにやつきながら、思わぬことを言った。


「……人間を愛した時さ。世界の平和を渇望した時だ。そうなれば闇欲は薄れ、細胞分裂をしなくなる。有り余る寿命が途切れ、とたんに老けて行く。分裂を目前に、魔王の肉体は死を迎える。……そう、お前のせいでウィルフリードおよび魔王は滅びるのだ」


──あ。


 エマはぞくりと震える。図書館で聞いたことを思い出したのだ。闇欲があれば魔王は分裂し、命を残せる。すなわち、闇欲を失えば分裂出来ず命を残せない。単純な話であった。


 そんな勇者の顔を眺め、メイデンはげらげらと下品に笑う。エマはしかし、きっとメイデンを睨み上げた。


「……御託はいいわ。魔王を倒せなかった気分はどう?シグ」


 その瞬間。


 メイデンのかぎ爪がエマの頬に飛んだ。エマは熱くなった頬を呆然と抑える。


 ざっくりと傷が出来、血が流れている。


「あはは。魔王が怒るね、魔王が長生きするね」


 メイデンは飄々と笑った。


「あはは!」


 もう一度爪が振り下ろされた、その時。


 青い光が現れ、目の前に立ちはだかったのは──


「ウィル!」


 エマとメイデンの間に、ウィルが滑り込んで来た。勢い余ってエマを壁に押し潰したが、彼は鉤爪を腕で受け止める。


 血が流れたが、ウィルは構うことなく振り返りエマを素早く抱えた。


 そうして、再び青い光と共に二人は消え去って行く。


「……チッ」


 メイデンは洞穴の奥深くで舌打ちをする。


「まあいい。魔王は倒せなかったが……とてもいいことを知った」


 メイデンはにたりと笑う。


「魔王も人間も滅びるがいい。魔族が再び力を取り戻すのだ。魔王を葬り、人間を絶やせば、世界は魔族のみのものに……」


 メイデンはぶつぶつと呪いの言葉を吐き、閃光を放出しながら、少しずつ洞穴を掘り進めて行く。




 その頃。


 エマは魔王に抱きすくめられたまま、魔王城の大広間にテレポートしていた。


「エマ……」


 魔王は彼女に顔を近づけると、頬の傷口にそっと触れる。


「遅れて済まなかった。エマの場所を特定しようと水瓶を見に行っていた……もっと早く特定出来れば、お前はこんな傷を負わなくて済んだのに」


 アンドリューとミリアムは、それを見てぱかんと口を開けた。エマは魔王の肩越しに彼らと目が合う。


「エ、エマ……!お前、まさか魔王とデキてんのか!?」

「こ、これは違うの……!その……」


 エマは慌てて叫んだが、


「……何が違うんだ?」


 ウィルはそう言って体を離すと、エマの金糸の髪を指で梳く。


「こんなに愛しているのに」


 魔王がエマの御髪おぐしにその唇をあてがうと、ミリアムが「ひゃあああ」と黄色い声を上げた。エマは青ざめ、その表情をウィルはうっとりと眺める。


「エマ!お前も魔族あっちなのか!」


 アンドリューが怒り、その剛腕で剣をぶんと引き抜く。


「だから違う!!」


 エマはかぶりと手をはちゃめちゃに振った。


 一方、ミリアムは羨望と憧れの入り混じった瞳を輝かせ、美しい魔王に見入っている。


「魔王……ちょーかっこいい……」

「おいミリアム!お前もかあああ!!」


 エマは思わず床に膝と手をついた。


「あ、悪夢だわ……」

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