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10.まさか、恋ですか?

 闇欲に任せてエマに接していた時は、好きな色だけを単色でキャンバスに塗り重ねていた幼児のようなウィルだったが、彼女と関係を築くにつれ、徐々に別の色も様々に使いたくなって来たということなのだろう。


 エマは色々と湧き出て来た甘美な感情をぐっと抑え、そう理解することにした。


 彼は闇欲のまま相手と接することからは離れ、少し別の角度からエマに接してみようとしているのだ。


 その気紛れがきっと、このプレゼント。


 床に横たえた木偶を眺め、エマは少し所在ない。その木偶の表面に魔王ウィルフリードは紋様を描き、あらかじめ紙に書きつけてあったプログラムを詠唱する。


 木偶はかたかたと動き始めると、起き上がって魔王から角を受け取り、机に向かってその角をがりがりと削り始めた。


「凄い……」


 間近で木偶の誕生を見届けたエマは感嘆した。


「木偶はこうやって作られるのね」

「かなり高度な魔法だ。一朝一夕に会得出来るものではない」


 魔王は何のためらいもなく自画自賛した。


 魔王の角は木偶の手によって、あっという間にカメオ細工に作り替えられて行った。




 その夜。


「……これ」


 夕食を終え、寝巻きに着替えたエマの元に、魔王はブローチを持ってやって来た。


 あの漆黒のカメオが金細工に縁取られ、ブローチになったのだ。


 エマはそれを見るや声を上げる。


「……いいの!?」

「ああ。身につけておくといい。魔王城は、これがあると色々便利かも知れないから」


 よくよく見ると、漆黒のカメオの中にいる人物の横顔は、魔王ウィルフリードその人だった。


「これ……ウィルの肖像……」

「美しいだろ?」

「全く、よくもそんな台詞をいけしゃあしゃあと……」

「これを身につけていれば、エマも木偶に命令が出来る」


 エマはハッと顔を上げた。


「そうなの!?」

「ああ。魔王の角は身につけているだけで魔力が格段に上がる魔法のアイテムだからな」

「そ、そっか……」


 エマは胸につけてみた。


「どう?」

「似合ってるよ。これで俺はいつでもエマのそばにいられるな」


 ウィルが、顔も見ずにさらりとそんなことを言ってのける。エマは頬を染めた。


「じゃ、今日はここまでだ。おやすみエマ」


 エマは頷いて、ウィルを見上げた。彼は少し微笑んで、エマの寝室を出て行った。


 エマは激動の一日を思い起こす。図書館、適職診断、魔王討伐レッスン……


 それに、このブローチ。


(全部、私のために)


 浮かんだ言葉を、エマは慌てて打ち消した。


(そんなはずあるわけないわ。私ったら、ウィルに頭蹴られておかしくなってるのよ。そうだ、これはウィルの気紛れ……)


 エマは浮ついた己に喝を入れつつ、そうっと漆黒のカメオを取り出し、その中にいるウィルを見つめる。


 それにしても。


(きれい……)


 繊細な彫りは、エマの目と心を癒して行く。


(魔力が上がるって言ってたけど……)


 エマは魔法は大の苦手だった。勇者の血筋のみが使用出来ると言われているテレポートだけはなぜか幼い頃から出来たが、攻撃や回復となると、エマはてんで使い物にならなかった。適職診断で盗賊と言われ、やっと腑に落ちたが。


(私の弱々しい魔力をかさ上げしたところで、魔王には勝てないだろうな)


 彼からの初めてのプレゼントを枕元に置き、エマは感じ入るように目を閉じる。




 翌朝。


 メイドの木偶がいつもの時間にやって来た。エマはブローチを身に着けると、試しに彼女に囁く。


「今日は、青い服が着てみたいんだけど」


 すると、木偶メイドは衣裳部屋から、すぐに青いケープドレスを出して来た。エマは内心喜んだ。


 好きな服が着られるというのは、女性には助かる。気分に合わせて服が選べると、それだけで心が癒されるものなのだ。


 エマはケープの喉元にブローチをつけ、ウィルの待つ食堂に向かう。


 食堂には既にウィルが座していて、こちらを見つけるなり、笑顔でぱっと手を振って来た。


「どうした、その服」

「裾を引きずらない、動きやすい服がいいと思って」

「ふーん」


 ウィルはエマを見つめた。


「俺の好みじゃない。鎖骨を出せ、鎖骨を」

「ざまあみろだわ」

「エマ……そういうこと言うの?昨夜は木偶がっぴいて君のためのドレスを作っていたのに」


 エマはちょっと緊張する。


「私のドレス?」

「ああ。普段着用に」


 ふわりとウィルの視線が彼女を捕らえ、笑いかけて来る。エマは困った。自分のためにこんなに色々されると何だかこそばゆいし、恥ずかしい気さえする。


「そんなにいらないよ。洗い替えさえあれば」

「そうか?俺は着道楽だから、あればあるだけいいと思ってたんだが、お前は違うのか?」


 エマは首を横に振ると、うつむいた。


「そんな……それじゃあまるで、私がずっと魔王城に住み込むみたいじゃない」


 すると、ウィルは意外なことを口走る。


「いてくれるだろう、ずっと」


 エマは弾けるように顔を上げた。


 ウィルは思いつめたような表情で、こちらにすがるような眼差しを向けて来る。


「……え?」

「俺を殺すまで、いてくれるんだろう」


 エマは混乱した。そして、じわじわとウィルの視線に体を染め抜かれて行くような感覚におちいる。


(それって……どういう意味!?)


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