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第三十一話 合流の後に……

加筆編集の為、遅くなりました。

 開けた場所に案内され、切り株で作られたテーブルに備えられた、これまた切り株の椅子に座っている。


 当たりを見渡せば簡易テントがあって、さっきまでシルビナが使っていた焚き火が傍で燻っている。パツッと残り火で薪が弾けた。


 周囲の木々には干物が干されている。キノコ類、魚類もあるが、圧倒的に肉類が多く、血抜きされて目がペケになっている大蛇に猪、熊なんかがぶら下げられているのは狂気の光景だ。

 皮がはぎ取られ、完全にサイコホラーな絵面だった。


 それから、日の当たりが良い場所にはメアが着用しているのと同じパーカーとデニムのショートパンツ、キャミソールに薄手の長袖シャツそれから……青と白の縞模様の三角の布。クマさんプリント付きだ。


「……にぃ、えっちぃ……」

「はっ!?」


 ポソッと呟かれた抑揚のない声が耳に届いて向き直れば、瞼が半分程下りた空色の瞳が俺を射抜いていた。


「いやいやいやっ、どんな暮らしをしているのか気になっただけだからっ! ホントそれだけだっ!」


 右手を前に出して情けなく弁明すれば、メアはこてんと小首を傾げ、隣のシルビナは口元に手をあてがって忍び笑う。


 ぴーんと来た。


「はぁ、変なことを吹き込むのは勘弁してくれ」


 シルビナがメアに妙なことを伝えて実行させた結果だろう、これは。


「ふふっ、すみません、お兄様。ですが、レディの下着をそうじっと見るのは不躾ですよ?」

「いやいや、俺はただどんな暮らしをしているのか気になっただけだから。それ以上の意味はなかったから」


(ただ、三角の布地にちょっと視線が吸い寄せられたのは純情な俺には仕方のないことというか、こちとら健全な青少年だ。性には抗えんのだよ、うん)


 呆れられること請け合いな言い訳を胸中で並べ、一人頷く。


「お兄様も健全な男の子、ですものね?」


 微笑みを浮かべたシルビナに、胸中の言い訳を言い当てられたようで誤魔化す意味もあって視線はあさっての方向へ。


「……デカイな、あれ」


 テント近くの木に立て掛けられた、メア程の大きさのバトルアックスだ。

 大斧は、新品のような煌きを放ち、存在を強く主張していた。


「シルビナが贈ったのか?」


 昼食にとシルビナが用意してくれたコッペパンを一口サイズにちぎって、テントの脇で今は燻っている石囲いの焚き火で煮込んだシチューにさっと通して口に放り込む。


 昼食のメニューは、テーブルの真ん中に置かれたバスケットに山盛りのコッペパンと、ニンジンとブロッコリーのシチュー。


 それから、俺が釣り上げた(蹴り落とした)ハネマグロのステーキだ。切り分けて口に運んでみたが、美味いかは微妙だ。

 鉄分が多く、血生臭さが少しあって、脂身はほぼ感じない。

 筋肉質で繊維が固く、噛みごたえはあるな。


 あの光景(・・・・)を見た後で──自分で作ったんだが──食欲は湧かないと思ったけど、案外そうでもないらしい。

 料理を前にすれば腹は減るし、バクつくメアを見れば食いたくもなる。


「いいえ、私がメアと出会った時には既に背負っていました」


 ドリンクにクセーフスの乳が置かれている。こくりと喉を鳴らして三口下す。


 失った魔素を手っ取り早く補えて喉も潤う。一石二鳥だ。

 まぁ、俺が使うのは魔素だから高濃度の魔力を摂取しても、そうそう満たされないんだけどな。


「……新品ぽいんだが?」

「……武器は、使わない……」

「メアはビーストモードもありますし、膂力がずば抜けていますので、変に武器を使うとそっちが先に参ってしまうのです。なので、重しの意味合いが多く、背負って戦うようですよ?」


 言葉数少ないメアを補足するシルビナ。

 要は、必要ないけど、背負ってれば身体の動きを上手く押さえられるから持ってるってことか。


「それはなんとも不憫だなぁ」


 ずずっと、シチューをスプーンで掬って啜る。


「武器に感情があるかは不明ですが、正しい用途で使われないのは、確かに不憫です」

「……?」


 小首を傾げたメアに2人で苦笑いを向けて、食事を再開する。


「これからの予定ですが……」


 そう前置きをして、小さく千切ったコッペパンをシチューに浸すシルビナ。


 クチュ、と水気の多い音をさせて咀嚼する。


「一度北へ向かおうと思います」

「北?」

「はい、目的地は雪原地帯、ホローゼムルです」

「雪原……寒そうだな」


 セルベティアにある雪原は雲もないのに吹雪く。


 体感気温はマイナス百度って感じだった。

 吐く息が凍ってキラキラと輝くのは幻想的ではあったけども、その寒さを吸い込むものだから肺まで凍るかと思ったぞ。

 まぁ、シルビナ曰く、俺の身体の構成には、サラマンダーって巨大な火トカゲの精霊も使っているらしいから、そうそう自然的要因で凍死とかしないらしいが。


 それでも寒いものは寒いんだけど。


「で、誰を探すんだ?」

「ギルドで照会して頂いたところ、コハク・ミカグラが滞在しているそうです」

「コハク……ミカグラ? 誰だ?」


 聞いたことのない名前だ。


「あ……失念していました。これは二日前の会合で聞いた話ですが、以前話した、“ひなた”達の他に「そうではないか?」と目される女性が二人居ます」

「あー、あれか? 確か、ルクセラ、だよな?」


 うろ覚えの名前を出す。確か、どこぞの国の軍組織のトップ? ナンバーツーだったっけか?

 兎に角、“ひなた”を宿す女だったはずだ。広い情報網で探してくれているらしい。


「はい」

「そのルクセラに聞いたのか?」

「はい。Sランク冒険者だそうです。居場所までは知りえていませんでしたが、冒険者で名前が分かれば、現在地は特定できますから」


 なる、ほど?

 うん? 個人情報とかどうなってるんだ?


「そう簡単に教えてくれるものなのか?」

「この世界に個人情報保護の概念はありませんからね。個人情報に関しての認識、セキュリティは甘いです。ギルドや商人、貴族、王宮は確りしている方ですが、ギルドや商人に関しては、実績さえあれば職員の裁量でどうとでもしてくれます」


 ああ、そうか。

 この感覚は日本人だからで、この世界の住人は持ち合わせていないのか。

 多少の差はあれど、総じて意識レベルが低いんだな。


「ギルド間では魔道具を用いた通信手段があります。相応の金額を払えば、連絡を取ってくれるので、コハク・ミカグラに留待ってもらうようにお願いしておきました」

「通信機まであるのか?」


 そんな技術まであるとか、文化レベルは俺が思っている以上に高いかもしれん。


「実物は見たことはありません。“私”の時代にはありませんでしたし、“ひなた”は常に前線にいましたから。国家レベルの機密事項です。人目には触れません」

「それでも使ってくれはするんだな」

「使わなければ宝の持ち腐れです。道具は使ってこそ、真価を発揮できます」


 道理だな。朽ち果てさせるには勿体ない。


「コハク・ミカグラはSランクなので、招集に従う義務があります。ずっと居続けることはできないでしょう」

「そんな頻繁に緊急依頼があるのか?」


 Aランク以上の冒険者はギルドや国が発行する緊急依頼を受ける義務がある。

 それは、あらゆる特権と引き換えの有名税のようなものらしい。


「重なる時は重なるので、なんとも言えませんが、ここからだと、どれほど急いでも、一週間以上は掛かります。相手側もこちらの動きは想定できないでしょうから、入れ違いになる可能性は十分有り得ます」

「行き損になるかもしれないのか……」

「はい」


 悩ましいな、それは。


「でもまぁ、近いなら行く価値はあるか?」

「もう連絡してしまいましたしね」

「じゃあ仕方ない。入れ違いになったらそん時はそん時だ。近くなら探してみるか、どうしようもなさそうなら次に進めば良い」


 そもそも、協力を得られるか分からないのに、一人に拘る理由はない。無理なら無理で、潔く諦めるスタンスで行こう。


 会話が途切れたタイミングで切り株テーブルに視線を向けると、もうパンも鍋の中のシチューも少なくなっていた。


 会話中も食事を続けていたメアが殆ど食べてしまったようだ。


 この身体は燃費が悪い。消費エネルギー量が半端ないらしい。

 魔素を使うとそれだけ腹が減ってしまう。メア程ではないにしろ、俺の食事量も地球にいた頃に比べて五倍くらいにはなっていた。


 食い意地の所為か、ちょい残念だ。


「……もう少し、焼きますね?」

「ん? おう」


 何やらシルビナが微笑んで席を立つ。ハネマグロの切り身が並べられたトレイを片手に、燻っていた薪に空いた手を翳す。


「【トーチ】」


 詠唱から数秒後、薪にボッと火が点いた。


「火の魔法も使えるんだな」


 感心して言う。

 今まで、シルビナは風属性か光属性しか使っていない。他の魔法は初見だった。


「極めて苦手なだけです。使えない訳ではありませんよ。発動も遅く、魔力の消費量も多いので普段は使いませんが」


 シルビナの講座では、人に限らず、全ての生物に属性は付与されているらしい。

 付与というか、まぁ、適性だな。


 何が得意で苦手なのか。

 何に耐性があってないのか。

 持ちうる魔力の性質で変わるそうだ。


 “ひなた”には得意な属性がなく、また苦手な属性もない。

 “シルビナ”には風属性と光属性の適性があった。故に、二つの属性が底上げされ、一切の適性がなかった他の魔法に関しても僅かばかりの適性を得た。


 と、この場で俺の知識に補正を加えた。


「僅かばかりの適性も持たなければ、発動はしませんからね。……さぁ、焼けましたよ」

「……ん……」


 俺が動くよりも早く、メアがとてとてと木皿に盛られた肉の山を受け取り、戻ってくる。


 ……………………口をもぐもぐ動かしながら。


「お行儀が悪いですよ、メア」

「食べてるのか、それ」


 メアの両手は木皿で塞がっている。

 目を意識して集中すれば、小さな口を開けて肉の端をくわえて、後はちゅるるっと吸い上げる様を視認できた。

 スロー映像のようにして見たが、それでも残像を捉えられるだけだった。


「なんと器用な」

「感心していないで叱ってください」

「……メアより弱い、にぃの言うこと、聞かない……」

「先手を打たれたんですけど……」


 何かを言う間もなく、すまし顔で宣言されてしまった。

 それを言われると何も言えんぞ。


「仕方ないですね。人前ではしては行けませんよ?」

「……ん……」


 以外にも、素直にこくりと頷く。


「何れ、しっかりと躾ないと行けませんね」


 着席しながら溢すシルビナに何も言えず、メアが真ん中に置いた肉の山に箸を伸ばした。


 いや、お前は弱いから指図するなと言われちゃあねぇ?

 そう虚しく思う俺でした。

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