第二十六話 実戦も訓練ですっ⑥
食事後は前と同じ行動を取り、ダンジョンまで進む。
もう一語一句間違えることなく、歩幅さえ全く同じ感覚でなぞれるようになった。
そこまでしないと、人の位置が入れ替わったり、出逢う魔物が違ったりする。
ほんの些細な出来事だが、これで少女が隠れていたりされると困る。人数が増えられても面倒だ。
同じ状況に持っていく必要がある。
で、目論見通り、正面には貴族様と細身の男。左右、背後を男の仲間らしい連中が囲う状況になった。
少女は……後ろだな。
ガタイの良い、重鎧を着込んだ男の陰に隠れている。
タイミングは今か。タンクっぽいからな、あの男。
悟られると防がれる算段が大きい。不意を突く必要があるな。
「聞いているのか、貴様ぁっ!!」
「──っ!!」
召喚は素早く、行動は迅速に。
貴族様の激昴を合図に、短剣を持たないもう一方の手の中にナイフを召喚して振り向き様に投げる。
これは短剣と違って業物だ。漆黒の刃は陽の光を吸い込むような暗さを持ち、峰に掘られた五つの溝は刃を砕くソードブレイカー仕様。
切れ味は厚み一センチの鉄板を優に貫く。
ウェザーという名工が鍛えたことから、ウェザーナイフと呼ばれる世界に二つとない暗器だ。
「はがっ、かあ!?」
「ひぃっ!?」
傍の大男が喉から血飛沫を散らして苦しがる。相当な恐怖だろう。
増してや、そいつの肩に男が飛び乗り、自分を見下ろしてるとあっては、絶望的な心境なのは間違いない。
「エミーア! 逃げろおぉ!!」
細身の男が叫ぶ。だが……
「それは無理だ」
「ひぐぅっ!?」
大男からウェザーナイフを抜いて地に降り立ち、低い姿勢から少女の胸に突き刺す。
少女は軽く、突き上げると簡単に浮き上がった。
少女の潤む瞳から光が消えていくのを間近で見た。……一雫、頬を伝って涙が零れた。
「恨んでくれて構わない。次の人生があるなら、こんな荒事には首を突っ込まないことをおすすめする」
もう聞こえていないだろうが、これを冥府への旅路の送り言葉とさせてもらう。
「てめぇ! 妹に何してくれてんだぁぁああ!!」
怒号は木々を揺らすようなもので、貴族様が使った魔力放出するチンケなものではなく、全身から怒気を発するようなオーラの放出は空間を歪ませるほどの濃厚なものであった。
「大事なら、こんな荒事に巻き込むな。守れやしない癖に連れてくるからこうなる」
少女の遺体からナイフを抜き、そっと地面に下ろす。
「ぐぎぎっ」
前は余裕ぶっていたのに、今は見る影もない。
反応からしてシスコンだったのかもしれんが、仕方ない。自分で蒔いた種だ。諦めてもらおう。
「……」
囲いの背後に居たのは大男と少女だけではない。
俺を囲った時点で、貴族様含めて連中の残りは十三人だった。
三人ずつ左右を固めて正面に貴族様と細身の男。残りは背後を取った。
そして二人殺した。後は……
「このっ!」
ウェザーナイフを仕舞い、短剣で切り掛る若い男の剣を受け止める。
「エミーアには夢があった!」
何か語りだしたぞ、おい。
「パン屋になるって夢があったんだ!」
「だから何だ? 俺に何の関係があるんだ?」
「くっ。まだ、十四歳だったんだ! 未来があったんだよ!」
それはあるだろう。俺にだって未来はある。
襲った相手に吠えることか?
「なら安全に稼げば良かったんじゃないか? まさか、襲っておいて反撃されるなんて思わなかった、なんてことはないだろ? なぁ?」
ググッと押し込むと、若い男は片膝を突く。
キリキリと引き絞る音を捉え、首を傾げるれば頬すれすれを矢が通過した。
「【フレイム・ランス】!」
「ぎゃぁああ!!」
「リオン!」
男の胸ぐらを掴み、片腕で持ち上げて声のした方に投げれば、炎の槍に焼かれた。
焦げた男を剣で突き刺し、奥の魔道士の男もぶっ刺す。
「ぐっ、がはっ」
ウェザーナイフとは切れ味に差があり、楽には刺さらないが、力押しで突き進む。
やっぱり、【魔素渡し】ができないとこんなもんだな。
「ふんっ」
「ぎあっ!?」
力み、差し込んだ短剣を逆袈裟に切り上げて振り向き様に斬り下ろす。
剣身は虹色のオーラを纏い、迫る雷撃を斬り払う。
「魔法を斬りやがった!?」
「臆すなっ! 殺せぇっ!!」
怯んだ魔道士に喝を入れて、簡単な指示を出す。
が、それも遅い。
ごとりと雷撃を放った魔道士の首が転がる。
首を失った身体が血飛沫を上げて崩れ落ちた。
「おおぉぉっ!!」
前に斬り殺した、大剣を携えた男が突貫してくる。
男の脇を水砲と矢が抜けて俺の逃げ場を奪う。
男の腕は俺の太腿程に太く、あれで押し潰せば勝てるとでも踏んだか?
「死ねぇっ!」
押し潰さんと迫る大剣は巨岩の落石のような重量感を覚えさせる。
──イイィィインと甲高い音と火花を散らして大剣は半ばで断たれた。
「な、にぃっ!? うぐぅっ!?」
斬り上げた短剣を引き戻して横倒しにして、一歩、二歩と確実に刻んで振り抜く。
刃は男の腰周りの鉄装備を容易く裂き、守るべき生身にくい込んで背中へと抜けてまた装備を裂いて外気に触れた。
「ジェームズゥッ!?」
確か男の恋人だったか、魔道士の女が悲鳴を上げる。
「惚けないで! 来ますよ!」
「──っ!」
並ぶ弓士の忠告で、女は男を斬り裂いても歩を止めず肉薄する俺を睨め付けた。




