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第二十四話 実戦も特訓です⑤

 初手は相手に譲った。まぁ、雷撃が左から飛んできたのだから、譲らざる負えなかったとも言うが。


「チッ、良い反応しやがる」


 頭を後ろに反らすことで、側頭部を撃ち抜こうと迫った雷撃を回避した。


 続いて、背後から放たれた矢を背中に回した短剣で弾く。


「野郎、頭に目でも付いてやがんのか!?」

「妙な能力を持ってるみてぇだな。てめぇら、気を抜くなよ」


 細身の男はリーダー的立場らしい。

 男の言葉で連中の緊張感が増すのが分かった。


 能力と言えば能力か。

 今の俺の聴力は、連中の僅かに軋む筋肉の音すら拾うからな。

 視覚、嗅覚、味覚を鈍感にして、聴覚と触覚の感度を上げた。


 聴覚は死角からの攻撃を捉えるため。

 触覚は目で追えない攻撃を捉えるため。

 俺なりに、複数に囲まれた時の対処法として考えた結果、目や鼻、舌は使わなくても良いと判断した。


「──っ」


 掛け声はないが、息む音が聞こえた。


 視覚を鈍化した影響で視力は著しく低下し、五メートル先はぼやけて見えない。


 まぁ、その甲斐はありって感じだな。


「づっ!? こいつ、尋常じゃねぇパワーだっ!」


 貴族様程の業物を使っていない、側面から斬り掛かってきた男の、俺の身長ほどもある大剣に短剣を合わせて力押しで払い、がら空きの胸元の襟を左手で鷲掴み、腕一本で放り投げた。


 上手く着地されたみたいだが、構わない。狙いは男の背後で弦を引く男と、【フレイム・ランス】と呟いた女だ。


「ジャンとウェルマが狙いだっ!」

「もう遅い」


 二足で距離を潰し、逆袈裟に男を弓ごと斬り捨てる。短剣は虹色のオーラに包まれている。


「まだ上手くいかない、なっ」


 振り返り様に、「このっ!」と声を上げた女が放つ炎の槍を両断する。


 オーラをかち合う瞬間に合わせて纏わせるのはいまだ難しく、もう常に纏わせて戦うことにした。

 シルビナにもそう勧められている。

 貴族様の時はタイマンだったから練習がてらに試みていたんだが、この連中の練度は貴族様なんかよりもずっと上で、練習台には向かない。


「魔法を切ったっ!?」

「逃げろ、ウェルマァ!!」


 驚愕に目を見開き、硬直する女に声が掛けられる。

 でもな……


「っ!?」

「……受けた仕事が悪かったな」


 女の目の色は澄んだ青だった。

 鈍化した目でもそれが分かるほどの距離で呟き、胸に刺した短剣を引き抜く。


 事切れた女が崩れ落ちた。


「貴様ぁっ!!!!」


 深い中だったのか、投げ飛ばした男のボルテージが増した。


「おい、無闇に突っ込むなっ!」


 制止の声も届かず、愚かな程に男は真っ直ぐ向かって来る。


 大きく振るわれた剣の(きっさき)を紙一重で三度躱し、届きそうで届かないという焦れったさで男の攻撃は更に大振りになり、高く大上段の振りへと誘った。


「──ぎっ……ぁ……」


 大剣を握る両腕を半ばで斬り上げて切断し、一歩踏み込んで跳び、回転を加えて男の首を落とす。


「……」


 感慨もなくシャッと血潮を払い落とし、両手で握り直した短剣を肘を上げて俺の顔の高さまで柄を持ってくる。

 鋒は囲みの際に俺の背後を取った連中に向けている。


 膝を沈ませて前進する。剣をブレさせないようにするには、重点的に体幹を鍛える必要があった。

 重りを背負い、細い道を安定して渡れるように訓練した。それは木々の上を通るのに役立つし、狙い違わず獲物を斬ることができるようにもなる。


 しっかりと俺の身体に染み付いているみたいだ。


「調子に乗るなっ! 【サンダー・レイン】!」


 雷の雨が降り注ぐ。狙いは甘く、十メートル範囲を焼き払う攻撃だ。


 俺の耳は正確にバチチッと(ほとばし)る雷の位置を捉え、ジグザグに進むことで回避する。

 ただ、一向に攻撃範囲から逃れられないことに首を傾げる。魔法も止まらない。


(これは……)


 景色が変わらない。

 時が戻ると言うよりも、俺が前に進めていないような感覚だ。

 いや、前には進んでいる。足跡も残っている。


 前に進めないのは、俺の位置が戻っているからか。

 シルビナ曰く、転移魔法は魔法陣を行き来する設置型の魔法。

 使える者は多くないが、多くないだけで居ないわけじゃない。


「なら……」


 転移魔法陣には設置に限界がある。

 これは魔法陣同士を繋ぐ関係上、幾つも繋ぐには精神力が必要だからだ。

 あのシルビナでさえ五つが限度だと聞いた。


 俺の予想では設置できても二つが限度だ。魔法陣を行き来するという特性上、一つでは意味ないしな。


 ただ……


(なんだ? なんで抜けれないんだよ)


 様子が変だ。

 ルートを変えても戻されるぞ。数は二つ。それは間違いない。

 魔法陣は見えないが、巧妙に俺が知覚できないように隠されているものと思われる。


「【ウォーター・スラッシュ】!」


 側面から横に広がる弧を描く水の斬撃が迫る。


「──っ!?」


 ベリーロールで躱し、回避のできない俺に落ちてきた雷を短剣で払う。


「……上手いな。だが抜け出せてない。……どんどん魔法を浴びせてやれ!」


 足を止めてしまった。

 着地後に降り注ぐ雷をバックステップで躱し、迫る火球を斬り払い、風の刃をバク転で回避する。


(また戻された。なんだ? 何が起きている?)


 ステップで躱し、時に斬り払う。

 そうして【サンダー・レイン】の攻撃範囲から逃れようと試みるも、身体は元の位置に戻される。


 焦りが込み上げても、ぐっと我慢だ。冷静に分析しないと、次に繋がらない(・・・・・・・)


(感覚は転移魔法だ。でもどうやった?)


 転移魔法は経験がある。

 セルベティアに居た頃、訓練の一環で暗所の訓練場の出入りに転移魔法陣を利用していた。

 一切の光を絶つために、窓どころか入り口さえ用意されていなかった場所だ。


 戻される感覚が、その時に利用していた転移魔法に酷似している。

 ならば、これは転移魔法だ。でも、如何なる方法で? 後ろに逃げても、横に逃げても、前に進んでも戻される。


 転移魔法を使える人間はいないわけじゃない。しかし、多くもない。

 一パーティーに二、三人も集められるか? 可能性は低い。

 この状況を可能にするカラクリがあるはずだ。


「足が止まったぞ! 狙い撃てっ!!」


 意識を目に集中する。

 防御は疎かになるし、死角からの攻撃は防げなくなるが、観察すればカラクリを解明できるはずだ。


「──ぶっ!?」


 隆起した地面が俺の腹を打つ。

 身軽さを好んでガードをしていない俺には結構な痛手だ。

 数歩後退り、迫る火球と水球を斬る。


「くはははっ、そうだ諦めて死ねぇ!」


 意識の外で馬鹿声が聞こえたが無視だ。

 もっと集中しろ。音も痛みさえも遠ざけていけ。


(今は何もない? …………そうか。転移するのは俺が一定の範囲から出る時だ。じっとしてちゃ意味がない。……動くしかないな)


 意識は目に向けたまま前進する。

 見えるものは斬り払うが、見えないものはどうにもできず、この身体を貫き、燃やし、切り裂き、穿つ。


 触覚の鈍化に伴い、痛みは遠く、衝撃だけが伝わる。

 それでも足は止まらない。体感を鍛えた賜物か、バランスを崩しても持ち直す。


(あれは……紙片?)


 五センチ程の青いそれが焼かれず、濡れず、切られず、ひらりと舞い俺に貼り付く。


「──っ!?」


 これがそうか、そう口にしたつもりだが、自分の声さえ遠い。


 次は元を辿る。

 舞う土煙が視界を塞ぐも、集中した意識はしっかりと女──いや、十代前半の少女を捉える。

 目が合い、彼女が頬を引き攣らせるのが分かった。


(殺り難いが、趣味の悪い仕事を受けた自分を恨んでくれ)


 ズムッと胸に硬質な感触を覚える。

 投擲されたらしい槍が深々と刺さり、俺の命を削る。


「ふはははっ、無様だなぁっ? 愚民ッ!」


 魔法の雨は止み、貴族様が正面に立つ。


「ぐっ、ごぼっ!?」


 俺の吐血に、貴族様はさも愉快と言わんばかりに間抜けな笑い顔を見せる。


「アルベルト様、あんま近付かねぇ方がいいですよ。そいつ、普通じゃねぇみてぇなんで」

「はっ、何ができると言うんだ。半身は焼けただれ、胸に槍が刺さっている。もう虫の息じゃないか!」


 ああ、だから身体が熱かったのか。どうにも、感覚が狂っているらしい。

 自分の現状ぐらい把握できんと、またシルビナに訓練量を増やされるな。


「この僕が! 直々に! 愚民の首を狩ってやろう!!」


 ムカつく喋り方だ。

 この命はもう諦めた。それでも、あの馬鹿面は潰してやりたいな。


「ん? おいっ、アルベルト様! そいつにそれ以上近付くな!!」


 貴族様越しに目が合った。

 手練らしい細身の男は俺の目を見て何かをすると、直感的に感じたらしい。


「貴様っ、誰にそんな口を──あが? ぎぇ?」


 忠告したリーダーらしい男に振り向いた貴族様の首に、胸にぶっ刺さった槍を引き抜いた俺は飛び掛り、召喚した錆の浮いた粗悪なナイフ突き立てる。


 力一杯横に掻き切ると、ぶしゅっと鮮血が舞う。


「ぎびっ!?」


 赤い血が溢れる首を押え、振り向いた貴族様が何を言おうとしたのかは分からない。

 驚愕に見開かれた目が光を失う様を、顎下からナイフをぶっ刺した俺は至近距離で鑑賞してやる。


「ざまぁみろ」


 その言葉が声になったか分からない。

 ただ、槍を引き抜いたことで失った血は戻らず、もう俺の命も風前の灯火であろうことだけは分かった。


 仰向けに身を投げた俺の顔に陰が指す。


「大した玉だな、坊主。ぶっちゃけだ。シルビナ・ステントに目を付けられるのは怖ぇんで、適当にぶっ殺して逃げるつもりだったんだが、てめぇの首を見せりゃ、あの身体味わえるかもなぁ」


 覗き込んできた男の顔は情欲に歪んでいた。

 ……決めた。次は(・・)全員殺す。あの少女さえ対処すれば、どうとでもなるレベルだ。


 その誓いを最後に、俺の意識は途絶えた。


 ………………

 …………

 ……

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