第二十二話 実戦も特訓ですっ③
チワワサイズの毒蜘蛛。毒液を先端に塗った槍を装備した二足歩行の軍隊アリ。馬サイズのサソリ。毒霧を吐くカメレオン。
幾度か、そんな魔物に遭遇しながらも俺達は密林を進んでいた。
「毒を持つ魔物が多いな。あと虫系」
「ダンジョンには個々の特徴があります。アンデットの多いダンジョン。獣の多いダンジョン。ゴーレムの多いダンジョン。魔物が少ない代わりにトラップがひしめくダンジョン。……ここは毒を持つ魔物が多いのです。けれど、どれも致命的ではなく、麻痺毒で効果も微弱、対処が早ければ低品質の解毒剤でも解毒できます。故に、Dランク判定を受けているのです」
「なるほど」
人差し指を立てたシルビナの説明に相槌を打つ。
その特徴を理解していれば、ダンジョンを進むのは簡単そうだ。
「……まだ着いてくるな」
意識を背後十数メートル先に向ければ、足音が聞こえる。
数は十二、いや、三か?
大分減りはしたものの、いまだに後を着けられていた。
「もう良いでしょう」
「やっとか」
ダンジョン入りして二時間ほど、俺達は北へ進み南へ進み、東へ進み西へ進みと、いい加減なルートを通っていた。
このダンジョンに籠る、“ひなた”を宿す妹のところへ向かっていないのは明白だった。
目的不明の連中を振るい、数を減らすためである。
Dランク判定のダンジョンで何故こうも数を減らしたのは、シルビナが元凶だ。
なんてことはない。連中が躱すよりも早く風魔法で毒霧を送ったり、足を掬ったりと、邪魔をしただけだ。
不意に姿勢が崩れれば、連中は面白いくらいに魔物の餌食になった。
で、まぁ、連中も馬鹿じゃない。何度も繰り返せば、要因に行き着く。
シルビナが邪魔をしたのではないか? という疑問を抱き、距離を離したのが現状である。
仲間の足を引っ張られたという疑惑を持っても、襲ってこない理由は分からない。
「ぶち犯して、殺してやる」なんて呪詛も聞こえるが、まぁ、無理だ。あの不意打ちで魔物に殺されるんじゃ、シルビナには絶対に勝てない。
「狙いはなんだ? 俺か?」
「可能性は高いです。お兄様が一人になった瞬間を狙っているのかもしれませんね」
有り得る。
いや、それしかないか。理由がなんであれ、狙いが俺だってのは確定かもしれん。
「俺はどこで恨みを買ったんだ?」
理由はあるはずだ。私怨だろうとも思う。でも、その起源が分からない。
この世界に来て四ヶ月と少し。交流を持った人間は少ない。
でもなぁ、思い当たる節がないんだよなぁ。
「……数日前に起こした諍いでは?」
「諍い? そんなの……あ、ああ、そういえばあったな。なんか絡まれたやつ」
理由は思い出せないが、ケネラ到着の翌夜にギルドの酒場で絡まれた。
確か、シルビナをどうこうするって話でキレて、何人か叩きのめしたんだっけか。
「あー、逆恨み?」
「正当ではないでしょうが、お兄様の過剰な暴力も原因ではないかと。後は、新米に伸されてプライドを傷付けられたから、とかでしょう」
「やっぱり逆恨みじゃないか」
ですね、とクスクス笑い、「ご自分で対処してくださいね。殺しても構いませんから」と付け加えた。
「人を殺す、か」
「無理に、とは言いません。ですが、いずれは……」
やや後方から着いていく形で顔は見えなけど、神妙な口調から彼女が如何に真剣かが伝わってきた。
「大丈夫だ。殺れる」
「お兄様……」
暫し沈黙し、シルビナは足を止める。
「では、こうしましょう──」
彼女の提案を受けいれ、俺達は暫く別行動することになった。




