表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/93

第十七話 新たな勇者を知る

 ギルドを出て帰路に付く。

 既に九時の鐘の音が響いていて、通りを歩く者の姿はまばらだ。


「悪い、シルビナ。余計なことに金使った」

「……余計とは?」


 唐突な俺の謝罪に小首を傾げる。


「グラスを投げてさ、割ったんだよ」

「その弁償代に、ということですか?」

「ああ」


 俺は無一文だ。荷運びの依頼は明日までで、報酬も明日支払われる。

 俺は情けないことに…………妹のヒモなんだっ。


 事実を認識すると悲しくなるな。


「構いませんよ。必要経費です」

「いや、それはないと思うんだが」


 横を歩くシルビナを思わず凝視する。


「そもそも、冒険者に揉め事は付き物です。あの程度の新人いびりなら、可愛いものですよ」

「そうなのか? ギルドの規則に抵触したりしないのか?」

「別にギルドも禁止していません。流石に殺人となれば拘束されて処罰されますが、冒険者同士の喧嘩に口は出してきません」


 いざとなれば職員が出てくるんだろう。

 酒場の職員からして、俺の見立てではあるが、絡んできた四人の実力を上回っているように思う。

 並大抵の冒険者なら、ウェイトレスのおばちゃんだけで制圧できそうだ。


「まぁ、荒事の多い仕事だもんな。鬱憤とかは発散しないとダメか」

「人に当たるのは良くありませんが」

「それはそうだ」


 それが大前提ではあるけどな。

 そうコントロールできる人間ばかりじゃないのも事実だ。


「まぁ、なんで止めないんだろう? そうは思ってたんだが、特に禁止されてないんじゃ、止める理由もないのか。俺としては、お咎めなしで嬉しいけどな」


 事情聴取とか、面倒くさくて受けたくないし、ギルド登録して早々に目を付けられたくもない。……まぁ、何もないだけで、目は付けられたかもだが。


 そう話している内に借宿、タイラントに着いた。

 幾つかの窓から明かり点いているのが分かる。

 冒険者は毎日依頼を受けているわけじゃない。そう何日も戦い続けられる者は多くないし、納品物を求めて歩き回れる者も居ない。二、三回大抵は一、二日の休暇を挟むそうだ。


 そういった諸々を考えると、疲れを癒すために所謂宅飲みでもしているのかもしれない。

 割の良い依頼は早朝の内に無くなるそうだから、冒険者の朝は結構早いんだ。


「さて、と。で? 話し合いはどうなったんだ?」


 シルビナが借りている部屋にて、そう問掛ける。


 ルクセラ・セルレト……“ひなた”を宿すらしい女の使いの接触で、シルビナは対談に向かっていた。

 内容は多分、“ひなた”に関してだ。


「…………」

「?」


 答えないシルビナに首を傾げる。沈黙する理由が分からない。


 ベッドの縁に腰掛けた彼女は、思案すると言うよりも、決意を固めるように瞼を閉じ、ゆっくり息を吐いている。


 まつ毛長いなーとか、上下する豊満さよとか、彼女の肢体を観察していると、白を基調とした軍服を摸したデザインに合わせた、同色の軍帽を取り、綺麗に揃えた腿の上に乗せた。

 結構鍛えているはずなのに、妙にむっちりした生足は、少しゆとりのあるズボンに隠されている。

 俺が何でシルビナの生足を知っているのかは、混浴経験があるからである。

 俺が同室に居るにも関わらず着替えるし……ホントに心臓に悪い。


「すぅ……ふぅ……心して聞いてください」


 くだらないことに思考を割いていると、瞼を開き夕焼けのような琥珀色の瞳で、窓際の椅子に座る俺を見据えた。

 いつも以上の気迫と、隠しきれない緊張が伝わってくる。それを表すように、長いまつ毛がふるふる微動している。


「お? おう?」


 オットセイのような声が出たと、逃避から仕様もないことを考えて惚けた俺の頭を……


「ユイお姉様が召喚されました」


 シルビナの発言が殴り付けた。


 ………………。


 時が止まった。そう錯覚するほどに静寂が場を支配した。

 自分の息遣いや鼓動さえ遠く、優れる聴覚がなんの響きも拾わない。

 乾く目と口さえ気にならず、半開き状態が維持される。


 シルビナが何を言ったのか、それを理解するのに暫しの時間を要し、音が戻ってきてから目頭を押さえる。

 乾いた目が少し痛み、口の中が乾燥して喉が引っ付くように感じた。


「……ユイは一人か?」


 何が目的で、何故ユイなのか、俺の大切な人が立て続けにとか、色々と言葉が浮かんだが、考えた末に導き出した問はそれだった。


「いえ、ご学友と共に」

「そうか……」


 多分、立波達と一緒なんだろうと思う。彼女らは仲が良いからな。

 ユイの記憶喪失時も、大分支えてくれていたみたいだし。


 ユイは一年前に事故に遭って記憶を失っていた。

 紆余曲折を経て記憶は戻ったが、独りだった彼女の傍に居てくれたのが、立波、片桐、刻松の三人だった。


 大変な時に傍に居てやらなかった俺に胡乱な目を向けるが、交際に関して邪魔をすることはないし、俺自身悪感情は持ち合わせてないし、ユイの親友でもあるし、友人として仲良くできたら、そう思っている。


「どうしますか?」


 その問は考えるまでもなく、ユイと会うか否かだろう。

 不安からか、伏し目がちなその瞳が揺れている。


 まぁ、それこそ考えるまでもないな。


「“ひなた”を集める」

「……何故、と聞いても?」


 ホッと息を吐くと、しっかりと俺の目を見据えて問掛ける。


「ユイには親友が居るからな。でも、“ひなた”はまだ独りだ」


 勿論、“ひなた”全員が友好的ではないと思う。それでも、家族だ。“ひなた”とは違っても、会いに行きたいじゃないか。


 それに……


「不安に揺れる目の前の妹を放っておけないしな」


 椅子を立ち、シルビナの前で片膝を着いて左頬に掌を合わせる。彼女の顔を少し見上げる形になった。

 瞼を閉じて自ら擦り付けるように頬を寄せると、シルビナは左手を俺の右手に重ねた。


 話し合うことは多い。理由とか、何時頃なのかとか、今どしているのかとか、他の“ひなた”達のこととか。


 ホントに色々目白押しだ。

 それでも、今は不安を脱ぐってやりたいと、添えた右手の親指を動かし、大丈夫だと伝えるようにゆっくりと強ばった頬肉を軽くマッサージすることに専念した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ