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第十五話 シルビナ⑤

 お兄様と合流する数時間前、私に紺のローブを羽織った若い男性が接触してきました。

 ルクセラ・セルレト。お兄様の妹──“ひなた”を名乗る女性の配下です。

 彼は私とルクセラの連絡要員です。彼が持つ、白色透明の水晶玉を使ってルクセラと連絡を取ります。


 正直、本当に“ひなた”であるのかは分かりません。判断材料はお兄様に纏わる話だけなので、“ひなた”を宿すものを拷問にでも掛ければ、情報を引き出せるでしょう。

 それをする意味と、数多いる者達からたった数人を見つけ出せられるかは疑問ですが。


「一人、奥の部屋を」


 愛想のない声音で素っ気なく彼がカウンター越しに伝えます。

 店番の店員さんが、カウンター下から鍵を取り出して置きました。


 交わす言葉もなく、私は彼の背中を追います。


 ここは謂わば高級料亭のような場所です。貴族や商人が他人(ひと)に聞かれたくないことを話し合う、大きな街に一件は存在する、世を動かす場所と言っても過言ではありません。


 二階に上がり、奥に続く通路を進みます。左右に扉が点々とあります。


 扉の間隔が広いですね。

 ここを利用したことはないので内部構造は分かりませんが、さほど大きな部屋ではないと予想します。無属性の消音魔法【サイレント】に加え、壁を分厚くすることで徹底した防諜を図っているのでしょう。


 彼が奥から二番目右の部屋の前で立ち止まりました。私も合わせて足を止めます。


「ここです。……終わったら、いつも通り鍵と水晶を置いたまま帰ってください。回収は自分が」

「分かりました」


 水晶玉と鍵を手渡し、彼は去っていきます。


 カチャリと鍵を開けて部屋に入り、中から閉めます。これで入れる者はいません。


 奥に腰を下ろし、水晶と鍵をテーブルに乗せて内装を確認します。


 窓は見当たりません。

 床はフローリングで、部屋の中央に一脚のテーブルと、三人ほどが座れる革張りの椅子が壁に備え付けてあります。

 思った通り広くはありません。


 密談をするにも食事は必要です。壁に居酒屋のようにメニューの札が引っ掛けられています。


 奥に小窓があり、そこから料理が届くのだと予想します。


 ならば注文はどうやってするのでしょう? そう首を傾げ、部屋を見渡します。


『テーブルに品の書かれた紙がある。それを下に送ればいい』


 私以外の声が聞こえます。勿論、私以外にこの部屋に鎮座する者は居ません。


 声に従い、テーブルの紙の束を見ます。十三種のサイドメニューに七種のメインメニュー、それと五種のドリンクメニューがあります。

 酒類三つにソフトドリンクが二つですね。品揃えが良いとは言えません。


 主目的は会談なので、そちらに集中するためでしょう。


「お兄様と食事をするので、軽い物とあっさりしたジュースにしましょう」


 必要もなく口に考えを出します。


『羨ましい限りだ。私も許されるなら兄上の傍で侍りたいものだな』

「侍るなどと……まぁ、構いませんが。それに、話し合った結果でしょう?」


 声の出処は水晶玉からです。

 白色透明だった水晶玉は明確な白色を持ち、その中に一人の女性を映し出しています。


 黄金に輝く髪をハーフアップに纏め、強気でキリリと目尻を吊り上がらせて、深い緑の瞳で私を射抜いています。

 整った顔立ちと、健康的な色艶を持つ肌。戦乙女(ヴァルキュリア)の呼び名は伊達ではありませんね。


 見えているのは頭から胴までです。

 肌に貼り付く首元まである蒼のインナーが、均整のとれた身体のラインを浮かび上がらせています。

 細く引き締まった腕。

 細いお腹周り。

 掌に収まりそうな収まらなさそうな、大きいとも小さいとも言えない胸部。

 肩幅は少し広めでしょうか? 少なくとも、私よりは広く思います。


 彼女はルクセラ・セルレト……バイパー共和国総師団団長の任に着く女傑です。バイパーの軍部ナンバー2にして、“ひなた”を宿す者です。


 彼女の上には、国と軍部を繋ぐ元帥が居るそうです。実体は橋渡しのようなものなので、ルクセラが軍のトップであることは疑いようがありません。


『うむ、納得してはいるが、呑み込みきれないのも事実だ。役職は放り出せんが、何とか直接お声が聞きたい』


 女性にしては少しハスキーな声音で、むむむっと唸る彼女は真剣に思い悩んでいる様子です。


「それよりも本題を」


 サイドメニューからサラダ、ドリンクメニューからオレンジジュースを選び、昇降機を開けて下へ送ります。


『それより、とは酷い言い草だな。私にとっては最も憂慮する事柄なのだが』

「私には関係ありませんので」

『お前は兄上のお傍に居られるからだろう。私と同じ立場なら思い悩んだはずだ』


 それはそうでしょうけど、事実はそうではないので、気にすることはありません。


「その立場に居ないので」

『……動じんな、お前は』


 がくりと肩を落とし、深い溜め息を零します。

 罪悪感でも抱けという思いだったのでしょうが、私には通じません。


『オホン……さて、報告だが、……四ヶ月前、勇者召喚が行われた』

「――っ!?」


 態とらしい咳払いの後に投下されたのは、核弾頭にも似た特大の爆弾でした。

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