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第五話 依頼掲示板

 冒険者には銀行口座があるらしい。ギルドがその役目を担っているそうだ。

 特殊な魔法で、一部のギルド職員と本人にしか見えない銀行口座番号が冒険者カードに記載されている。

 どのギルドでも出し入れが可能らしいが、小さなギルドだと大金は引き出せなかったりするそうだ。


 明かされてはいないが、取り出されて減った分は近くの大手のギルド――冒険者が多く集うギルド――から補充しているんじゃないか、そうシルビナは予測を立てていた。


 強盗や横領を防ぐために一部のギルド職員のことは、その地域のギルドの長――ギルドマスターにさえ知らされていない。


 金庫番とも呼ばれる彼ら彼女らは、癒着と正体発覚を防ぐために数年で転勤となり、更に誰が多く転勤しているのか特定されないために、ギルド職員は転勤族となっているらしい。

 結婚しても定住は許されていないそうだ。


 それでは引き出すのに困るだろうと問えば、「そうですね」と明確な返答は得られなかった。

 考えてみれば当然のことだ。そこまで秘匿するのに、引き出し方法や入金方法を明かしているわけがない。口座の取り扱いはギルドの受付で行えるから、俺達が知らなくても問題はなかった。


 他人の金と組織の信用信頼を守るために身を粉にするギルド職員は、まさに社畜戦士と言えるだろう。


「依頼料を口座へ入れるか、その場で受け取るかは自由に選択できますので、その都度判断していけば良いでしょう」


 と、シルビナは預金口座の説明を締め括った。


「では、次は依頼内容です。先程説明したように」


 言いながら立ち上がり、カウンターの上に硬貨を置いた。食事代らしい。


 俺もシルビナに続き、「ごちそうさま」とカウンターのおじさんに一言声を掛けて彼女を追う。


 掲示板の前を陣取る。


「依頼には大まかに三つの種類があります」


 先ずは、とアルファベットに似た赤字で書かれた貼り紙を指差す。


 上にデカデカと太い線で書かれた文字があって、下に細い文字が連なる。A4サイズの紙だ。質の問題か、ちょっと茶色掛かっている。


「上に依頼名が書かれています。これは『ゴブリンの群れ討伐』と書いてありますね。下の囲いは概要です」


 §こんなマークが連なって囲いが作られている。

 その中の文字をシルビナの細く白い指が上から順に追う。


「『スウェルト森林のゴブリンを七体以上討伐せよ。群れの中にマジックキャンセラーが居る模様。魔法使いは十分に注意されたし。Dランク以上を推奨』と、書かれています」


 指先は囲いを抜け、一番下の文字をなぞる。


「『依頼者・ギルド。報酬額【百ペレネ(討伐数によって変化する)】』。これはギルドが出す常時依頼ですね。スウェルトはケネラの南東にある森林のです。ハイゴブリンと呼ばれる上位種も出るので、下級冒険者には少し危険な場所です」

「へぇ。常時ってことは何時でも貼ってあるのか?」

「そうですね。ゴブリンを討伐して討伐照明になる耳を納品すれば依頼達成になります。貼り紙を出さなくても、依頼達成出来る、格安で手頃な依頼です。ゴブリンは他種族のメスを使って繁殖するので、定期的に間引かなければなりませんから」

「うへぇ、エロ同人みたいだな」


 少し想像して、気分が悪くなった。


「……? それはよく分かりませんが、戦時中の行方不明者の四割の女性が、他種族を使って繁殖する魔物に拐われたという話がありました。今でも日に何人かは被害に遭っているでしょう」


 同人誌はシルビナに伝わらなかったらしい。


 それは兎も角、ゴブリンって断定しなかったな。他にも他種族を孕ませる魔物が居るのか……

 恐ろしい世界だ。


「他にも、仕事のない冒険者への救済処置でもあります。骨休めの意味合いも持っていたりしますね」


 そう締め括って、シルビナの視線が移る。


「こちらは採取依頼ですね」


 次に、緑字の依頼書を指差す。


「『モット草の採取』」


 先ず、緑の太い線をなぞる。


「『活性薬に使う薬草の採取をお願いします。品質は問わないので、多く欲しいです』とだけですね」


 §の囲いには大分空白スペースがある。

 場所の指定もない。


「何処にあるとか書いてないな。ランク指定もないんじゃないか?」

「モット草は謂わば雑草です。街道を歩けば生えていますから、危険性も高くありませんし、片手間で採取できます」


 額も安いですと付け加えて、一番下の文字をなぞる。


「『依頼者・エデレナ調合屋。報酬額【一束十ペレネ】』」

「一束の基準はなんだよ」

「書いてありませんね。ダメで元々、そんな気分で出した依頼でしょう。ギルドの仲介料は最低百ペレネのはずですから……」

「赤字だろ、それ」


 ダメで元々ってレベルじゃないぞ。納品量に規定はないし、雑草なら、どれだけの人間が採取するんだよ。

 穴というか、どうも抜けが多いように思う。


「最後に青文字の雑務依頼ですね」


 今度は別紙の青く太い文字をなぞる。


「『荷運び依頼』」


 同じように§マークの囲いに指先がスライドする。


「『ハタナラ村まで傷薬を届けて欲しいです。推奨Dランク』」


 後は空白スペースが続く。……どうやらそれだけらしい。


 空白がすんごく勿体ない気がするんだが……


「『依頼者・エデレナ調合屋。報酬額【千ペレネ】』。同じ店ですね」

「依頼はそんなに出せるもんなのか?」

「確か、同時に五つまでが限度だったかと。余りに多いと、ギルドが飽和してしまいますからね。ある程度の査定や、調査も行うようですし」


 依頼内容の確実性とか、安全性の話だそうだ。

 何かしらの罠であったり、想定外のことが起きないかどうかの有無。

 依頼者自身にやましいことがあれば、査定段階で依頼却下されるらしい。


 そこそこ対策を取ってるんだな、と感心し切りだ。

 まぁ聞く限り、ギルドは信用商売だ。依頼がこなきゃ仕事を斡旋できないし、斡旋対象の冒険者に不信を持たれちゃあ依頼は減らない。

 依頼が渋滞を起こせば依頼者に不満が溜まる。不満はギルドと冒険者に向かう。

 そんな悪循環の完成だ。


「さて、仕事を受けてみましょう。……これなんてどうです?」

「討伐依頼みたいだが……」

「一角兎の討伐です。常時依頼ですね。街道近くの平原に出現する一角兎の相当数退治して欲しいそうです」


 シルビナの指す依頼書を眺めて考える。


 報酬額は二千ペレネ。数字は見知ったもので、俺でも読めた。


「んー、……これは?」


 青文字の依頼書を指差す。


「……荷運びの依頼ですね。人手が足りないようで、体力のある人物を探しているようです。……範囲はケネラ内。報酬額五千ペレネですか……これにしますか?」

「ああ。街の地図を頭に入れておきたい」

「分かりました。……依頼開始は明日から。人数は五人上限。既に四人埋まっているようですから、私は別の依頼で暇を潰します」


 掲示板から俺が受ける依頼書と、シルビナが受けるらしい依頼書を幾つか剥がした。


 よく見ればピンで止めているわけでもないし、テープとかノリを使っている様子もない。


「それ、どうやって貼ってたんだ?」

「これも魔法です。掲示板に無属性魔法の【キャッチ】を施すと、軽い物なら磁石で吸い寄せられるように引っ付いてしまうのです」

「はぁ、つくづくだなぁ」


 ホント、魔法って便利だな。そう思うのは何度目だろう。

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