第五十四話 魔素でチーン
前回は投稿できませんでした。
ちょっとしたトラブルです。
土曜日に予約投稿しようと思ったら、まさかのストックが完成していないという……(^_^;
めっちゃ焦りました……ってこともないですが、「はぁ? どうした俺」状態でした。
くあqgbmjまぅgsry
こんな文が末尾にありました。千八百文字くらいの位置で。
書いている最中に寝落ちでもしたんだと思います。で、完成させたつもりで次話のストックに着手した。
そんなとこだと思います。
これ書いたのは多分ひと月以上前なので覚えてないです、ってことで、今週はもう一話投稿します。
週に一話はストックを貯めているのにもう水曜日。今週間に合うか?
それは兎も角、長文失礼しました。本編へどうぞ。
パッ……パッ……パッと光が三度弾けて、また弾けて、ついでにもう一度弾ける。
首に掛けたチェーンネックレスのトップにある十字架を、何度も強く握る。
強く握って弱めて、また強く握る。その度に青い光が拳の隙間から漏れて眼前に光が集う。
それと同時に脳裏に浮かぶ武器の一覧。【異空間収納】の魔法が刻まれたネックレスに収められている武器だ。
至れり尽くせりである。
シルビナが愛用する武器、銀槍・ドゥレム――正確には魔槍なんだが、銀槍の方がカックイイだろ?――を除いて、全てこの中に入ってる。
魔槍と言っても、ただ頑丈なだけらしいんだが。
それは兎も角、なまくらから業物まで、ピンキリの振り幅は大きいが、全部俺のために用意していてくれたものらしい。
その数が余りに多く、咄嗟に出せる練習を今している。いざって時に迷って武器も出せないんじゃ、妹に笑われてしまう。
この世界に来て四ヶ月近くになる。着々と大陸を出る準備は進んでいる。
そろそろ船も完成するそうだ。
シルビナの簡易的な診断では、俺の中に魔素を溜め込む器官が形成されつつあるのも、旅立ちが近いんだと実感させてくれる。
「ふぅ……」
息を吐く。どうにも疲れる作業だ。
ただ脳裏に浮かんだ項目に意識を合わせるだけなんだけど、それが脳に負担を掛けているようで、頭が重たくなるような感じがする。
《キュキュッ》
「ん? ああ、ありがとう」
ズボンの裾を引っ張られ、視線を向ける。トレチュがタオルを差し出していた。
それほど大きくもない彼女がタオルを持ってくると、地面に引きずって汚れてしまっている。
何故かこのトレチュ、クセーフスの穴から出たらまた寄って来たのだ。同じ個体で間違いないと思う。
餌付けしたとかじゃなくて、端から懐いていたように思う。ちょいと不可思議だ。気にしてもキュッキュッしか言わないから、理由も聞き出せん。
「いやぁ、平和だ」
見上げれば木々の合間から見える青空。下を見ればよじ登って来るトレチュ。
実に平和だ。
「何を惚けたことを言っているのです? 『鍛錬お昼の部』、行きますよ?」
白を基調とした軍服を身に纏い、呆れたような視線を向けてくるシルビナ。
さて、今日も今日とて鍛錬第二ラウンドの始まりだ。
魔素が使えるようになるまで、もっと身体を鍛えないとな。
軽〜く走り出したシルビナの背に必死に齧り付く俺の肩に、必死にしがみつくトレチュ。
随分慣れたように思うが、未だにシルビナは余裕の走りを見せているのに対して、俺に余裕はない。
足の回転率と体力に関して、俺はシルビナの遥か下にいる。いつか追いつける日は来るんだろうかと、先週よりも速く流れる景色の中で、俺は頭を悩ませた。
◇
とんとん拍子に毎日が過ぎていく。
修練の日々で生傷は絶えず、着々と実力を付けているのも実感できている。
それでもシルビナから一本も取れないのはどういうことかと物申したいが、そこはまぁ地力の差とか年季の違いとか色々あるわな。
それは分かっているが、悔しいものは悔しい。
トラップなんかは考えない。やる時はやるが、今じゃない。
さて、話は飛ぶが、いよいよである。俺の中で魔素変換器管が完成した。
指輪を受け取って一週間。
毎日クセーフスの乳にスピュラルトの粉末を混ぜて飲んでいる。
人体にさして影響は見られなかった。クセーフスを飲んだ時に覚える身体中を熱が満たす感覚は健在なれど、スピュラルトの粉末には特に何も感じなかったと思う。
強いて挙げるなら、塩っけがあるような気がするくらいか。
「ゆっくりと、自分の中にある熱を捕まえてください」
シルビナも別に遊んでいたわけじゃなかった。
俺に魔素を教えるために、自分の中を流れる魔力を掴み、どう表現すれば伝わるかを模索していたらしい。
「それを引っ張り出すんです。最初は漠然とで構いません。汗をかくようなイメージで良いんです」
目を閉じて胡座を搔いている。
澄んだシルビナの声が、耳朶に浸透した。
確かに熱は俺の中にある。クセーフスの乳を飲んだ時のような、全身に行き渡るものじゃない。
一箇所に留まり、ぐつぐつと滾るような高濃度の熱が感じられる。
川から湖に流れる水のように、外部からの流入も感じられた。多分、これが指輪と繋がった魔力線だ。
「ふぅ……くっ……」
実際に滲む汗は頬を伝い顎先から落ちる。
キュッキュッと俺の身体を駆け回り、トレチュが滴る汗を拭ってくれる。
熱を捕まえる。これは結構な労働だった。
煙のように揺らぐ不確かなソイツは伸ばした手をするりと抜けていく。
籠のイメージはどうだろうか?
バケツやシャクとか、茶器とかでもいい。隙間のないもので……全然動かない。なんだこれ?
「ん……くっ……ふぅんっ……」
「何だか色っぽいです」
シルビナの声も遠く、さっきまで気にしていた汗も気にならない。
神経が尖っていくのに、鈍化していくような不可思議な感覚を味わう。
自分の鼓動が五月蝿くて仕方なかった。尖った神経は全て己の内に向き、強い熱を感知していた。
心臓とは違う鼓動が脈を打つ。もう一つ心臓ができたような感覚を強く覚えた。
これではダメだ。ビクともしない。
魔素はそもそも膨大なエネルギーだ。動かすって発想が間違っているのかもしれない。
包む? いや、それだとエネルギーを引き出せない気がする。
分割する? ……どうやるんだよ。
一気にじゃなくて、少量ずつ引き出す? ……これが正解っぽいな。でもどうやってだ?
クセーフスの乳で得た魔力は扱えている。それは早い段階で把握していた。問題なのは、体外へ出すこと。循環させること。生成できないことだった。
さっきからやっている、掴むだの掬うだのってのもクセーフスの魔力でイメージを形作った物だった。
そのイメージを変化させる。感覚的には、心臓に繋がる血管のような物だ。つまりは管である。
プスリ。そんな軽妙な音が聞こえそうだった。
「え? ちょっ、お兄様!? 出し過ぎです!!」
遠ざかっていたシルビナの声が鮮明に響き過ぎた。
「っづ!」
キィィインッと鼓膜が震え脳を揺らし、思わず膝をつく。
それだけじゃない。目も見え過ぎている。宙を漂う細菌やダニのような虫。地を這う細かな生物達が目に焼き付く。
「うぶっ」
アップで視界に映ったあまりにリアルな虫の造形に吐き気を催す。
口を押さえてなんとかぶちまけることは避けられた。
臭いも強烈だ。土や草花の臭い。遠くから香る魔物や魔獣の死体、その糞や体臭も強く鼻腔を刺激した。
全ての感覚が鋭敏になり、あらゆる情報を普段の数百倍、数千倍に拡張してダイレクトに俺の感覚神経を攻撃してくる。
「お兄様っ、魔素の発散を止めてください! このままではっ――」
鼻から熱いものが流れ、ぽたぽたと地面を赤く濡らす。
口を押さえた手を見れば赤く染まっている。
「ぶっ……おえぇ……っ」
なんとか押さえていたモノが行き場を得て出てきてしまった。
四つん這いになって地面にベチャベチャとぶちまける。
ぐらりと視界が揺れ、身体が傾いた。意識を失う直前だ。
結構悲惨な状態なのに自分の現状を客観視できるのは死に戻りの経験故か……嬉しくないな。
「お――さ――にい――ま――」
シルビナの声も遠く、呼び掛けには反応してやれない。
管から熱が抜け続け、俺の内側をズタズタにしていく。そこで理解した。魔素の出し過ぎであると。
なんでも過多なエネルギー供給は機械をダメにする。機械だけじゃない。野菜や果物、家畜なんかもそうだろう。必要以上の栄養摂取はどこかで不備を起こす。
推測するに、俺の身体に起こった異変もそれだろう。
キャパオーバー……そう呼べる状態だろう。魔素の供給が臨界点を越えたんだ。
………………
…………
……
原因究明と同時に俺の意識は途絶え、目覚めたのはその日の朝食時。
それから分かるのは、どうやら俺は死んでしまったらしいってことだ。
「お兄様……?」
「ん? あー、シルビナ」
「……はい」
訝しむように細く整った眉を八の字にする彼女に、パスタを巻いたフォークを置いて後ろ頭を搔く。
隠すなと言われてしまったからな。たとえ、彼女が見ていたのだとしても、報告する必要はあるんじゃないか? そう思った。
「……魔力過摂取症という症状があります。読んで字のごとく、魔力の過剰摂取によって引き起こされる症状です。通常、蓄えられる魔力量には上限があり、それを保有魔力量というのですが、稀に上限を持たない者がいます」
簡潔な俺の説明を飲み込み、シルビナがつとつとと語る。
「そいつはどうなるんだ?」
「長くは生きられません。キャパシティを超えた魔力は内部から人体を破壊していきます。当然、その先に待つのは死、なのですが……」
「……なのですが?」
神妙な様子のシルビナに、喉がこくりと鳴る。生唾を呑み込む演出である。
「それは壮絶な痛みを伴うそうです」
「うん、知ってる」
「ですよね」
苦笑いのシルビナに、あははと乾いた笑みを返す。
体験したからな、俺。見聞きしたものではなく、実際にその痛みを味わったんだ。今さっきな。
「はぁ、課題だな」
「管をイメージしたのですよね?」
「うん? まぁなぁ……でも流れすぎちゃったからなぁ」
シルビナは恐らく知っている。俺がどんな死に方をしたのか。
彼女は自分の記憶を保護する術を持っているからな。俺の死に戻りと同時に記憶を守ったのは予想するに容易い。
止めろと言ったし、彼女も承諾したが……まぁ、あってないような口約束だし、絶対に守ってない。
ややこしい言い回しだな。『記憶を守らない約束を守ってない』って。
まぁどうでもいいんだけど。
シルビナは、俺が約束を守っていないことに気づいていることを理解しているだろうな。その上で白を切るつもりだ。俺も当然乗ってやる。平行線になるのは目に見えているし、口約束しても百パーセント守らない。
精神的な問題で止めさせたかったんだが、彼女が選んだ道だ。これ以上何か言うのは大きなお世話ってやつだろう。
「絞るようなイメージを持てばどうでしょう? 蛇口やシャワー等のような」
「コックみたいなもんか?」
「はい」
「なるほど……試してみるか」
「その前に、今日は目隠しでの鍛錬ですよ」
「……」
うん、頑張ろう。




