第四十一話 クワンド⑨
すぐに着いた。高さは二メートルくらいで、そう高い位置でもなかった。
海中と海上。合わせて真ん中くらいの地点。周囲に斑点はない。毒枝は襲ってこないみたいだ。
赤紫に輝くコアは台座の上にあった。
下の枝が幾本も伸びて形を作り、支えるような六本の枝にコアが嵌っている。
コアは球状に密接した幹や枝に囲まれていて近付けない。
そこそこ大きな球で、隙間からコアが見えているだけだ。
コアは球状の底にあって、俺からは見下ろすような位置にある。
コアは謂わば心臓部だ。守りが強固なのは当然か。
隙間は俺が通れるようなものではないし……
「――づっ!? 堅っ!」
斬りつけると、金属を擦り合わせたような音がして、火花が散った。
シルビナの剣でも歯が立たないようだ。
「うーん? どうしたもんか」
何かないかと、隙間から中をじっと覗く。
向かって右側に空間が見えた。どうやらそこには幹や枝はないらしい。
そこまでは行ける。堅いのはコアを囲むやつだけで、他は簡単に斬り裂ける。
「しっかし、何で開いてるんだ? これだけ硬いなら、閉め切った方が安全だろうに」
特に障害もなく、球体の入り口に着いた。
あまりに不条理だ。理屈に合わない。
首を傾げつつ、中に足を踏み入れる。丸味を帯びた足場が少し歩き難い。
メキキと音が背後から聞こえた。嫌な予感がした。振り向けば予感は確信となった。
「マジ、か〜。そうだよな。コアを無防備に晒すとか、有り得ないよなぁ」
入り口は何処からか湧いてきた枝で塞がっていた。
俺は今、完全に閉じ込められてしまった状態にある。
この展開から予想されるのは……
「やっぱりか」
視線をコアに戻せば、コアを包むように周囲を囲う枝が伸びてきて収束しだす。
セオリー通りと言うかテンプレと言うか、守護者的なものを作るらしい。堅い枝で。
コアは守れて侵入者は排除できる。実に合理的だ。
コアを逃がさないのは、多分ここである必要があるから。
斑点がないのは、コアを盾にされたら困るから。
理由はそんなもんじゃないかと思う。
「はぁ……どう勝てってんだ?」
堅い枝で守られたコアを、どうにかして破壊するのが得策だろうな。
ただ、その硬い枝をどう破壊するかが問題だ。
コアは収束した枝の胸部にある。
ソイツは人型だった。痩せぎすで長身。
あちこちに隙間があって向こう側が見えているのに、コアを収めた胸部――人で言うところの、心臓付近――は雁字搦め状態で異様に膨らんでいる。
鳩胸と呼ぶには、その一部だけが球状に膨らみ過ぎだ。
目も鼻も口も耳もない、枝で複雑な凹凸のある顔を俺に向けた。
ゾッとした。
その異様な容姿もホラーじみていて怖かったが、一切感情の分からない姿勢に、底知れぬ不気味さを覚えた。
「ぐぶっ!? がぁっ!」
一瞬だった。
ヤツの右腕が俺に向けられたその瞬間、急速な伸びを見せて、俺の腹部を尖らせた枝で刺し貫いた。
構えた剣を盾にすることもできなかった。
感情が分からない所為で、殺気を察知することができず、意識の外から攻撃されたからだろう。
「ぐっ、ぎぃぁあああっ!!」
背中を貫かれた。腹部に侵入した枝が複数に枝分かれして、俺の体内をぐちゃぐちゃにしながら背中に突きぬけたらしい。
壮絶な痛みに喉が痛む悲鳴が出て、血反吐を吐く。
ブシュッと引き抜かれたヤツの右腕は真っ赤に染まっていて、俺の肉を引き連れていた。
「ごふっ」
ぴちゃぴちゃと口から血を吐き出した。床になっている枝を染め、海面に赤いシミが広がる。
「な、んで……俺は生き、てる?」
普通は致命傷だろう。事実、ここに来るまでに、何度貫かれて死んだことか……あ、それが原因か。
前の火山と同じだ。この肉体の耐久性が上がっている。だから即死とまではいかない。致命傷ではあるけども。
何度も言う。致命傷だ。めっちゃ痛い。でも死ねない。激痛が続く。
土手っ腹を背中まで貫かれてるから、内臓損傷とかのレベルじゃない。
もう幾つかの内臓が、削られて無い感じだ。背骨も折られてるだろうし、肋だって無事じゃない。
もう助からんぞ、これは。
ドバドバと血の雨を海面に降らせている穴の空いた腹を押さえて、膝を突く。
リットル単位で血液が失われていく。何処にこんなに入ってるんだ。過剰演出が過ぎるぞ。
「ぐっ、ごろ……せ゛ぇ゛っ!」
くっ殺をやってみた。いや、ホント殺して欲しい。
もう痛みなんて感じないが、喉から上がってくる血反吐が呼吸を困難にして余計に苦しい。
自分から死を選ぶのは初めてだ。
ユイのために自殺したことはあるが、あれは目的を達成できなかったからで、今回のとは違う。と、自己解釈しておく。
まぁ、願わなくてもその時は来る。
声もなく、クワンド人型――と仮称する――はゆるりとした動作で右腕を俺に向けた。
ただ殺されるのでは芸がない。なので、ヤツの枝が伸びて来る瞬間に躱せないか、五感全てで察知を試みる。
嗅覚や味覚は意味がなかったので切り捨てて、視覚、聴覚、そして触覚に神経を注ぐ。
「見え――
………………
…………
……
――た。……あ?」
クワンド人型の右腕を捉えた瞬間、視界は暗転、次に川で座り込む自分。
そんな目まぐるしい変化に、数秒呆ける。
ヘッドショットを受けて死んだようだ。
さて、攻撃は捉えたけれど、どう攻略したものか。




