第四十話 クワンド⑧
ユイの時とは違い、この世界での死に戻りは経験を持ち越せる。このアドバンテージは大きい。
今回で言えば、泳ぎの技術や肺活量なんかが最たるもので、気付けば俺は海流に身体が持っていかれることも防ぎ、五分以上潜っていられるようになった。
飛び込みの技術だって、海面を貫くと同時に、即座に潜水して進めるようになった。
二十二度目、どうも成長が早いように思う今日この頃である。実戦に勝る経験はないということだろう。
俺は自分の命を粗末に扱う気は無い。泣いてくれる奴がいるんだ。投げやりにはできない。常に生きる気概を持って、全力で生にしがみ付く。足掻いてやる。
イメージは水を蹴るようにだ。掻いて進むんじゃあ遅いし、小回りも利かない。
水には質量がある。ならば踏めるはずだ。そんな発想から思い付いた、……というのは嘘で、漫画で海面を蹴って進むキャラクターが存在する。海面でできて、海中でできないはずはない。
という大雑把な思考から思い付いた、海中を蹴って進む歩法。
大事なのは足裏に地面があると仮定すること。強く踏み付けることだ。
バシュッと海面が足裏で弾けた。身体が前に進む。成功だ。二十回以上も死んで、漸くものにした技術で、二歩、三歩と進む。その度に、バシュッ、バシュッ、と海水が弾けて泡立った。
足の角度を変えると、地上ではできない三次元的な動きが可能となる。
いや、足だけじゃない。腕も使う。直線で進む時は腕は邪魔だが、止まったりする時は強く海水を殴ってやると早急な停止ができる。
他にも、少し角度を付けたい時にサポートで腕を使えば、よりスムーズに小回りを利かせられる。
「――っ」
両腕を袈裟に振り下ろし、前方から迫る根っ子を斜め前少し上に進んで躱す。五分しか潜っていられないから止まれない。
後ろには退かず、上下、左右、前に身体を大きく振って根っ子を躱していく。
水の中では身体に大きな抵抗感があって、素早く動けない。向こうはしっかり踏ん張りが効く上に、根っ子の先は尖っている。水の抵抗力は俺と比べて格段に低い。
「――っ」
迫ってきた根っ子を上に上って躱し、足を付ける。そのまま根元まで駆け上がる。
泳ぐでもなく、水中で足を動かして登るのは、なんだか不可思議な感触だ。
無重力のようなふわっとした浮力みたいなのが働いて、身体が根っ子から離れてしまいそうだ。
数度繰り返す中で、俺は根っ子の中にも区別があることに気付いた。
周囲を蠢く根っ子は新しそうなもので、細く、色も若干白っぽい。
クワンドに近付く程に、太く、色の濃いものが襲ってくる。多分これは古いやつ。
だから、一番かは判断は付かないけども、黒ずんでて周りよりもなお太いやつを辿れば、内部に侵入できる……はずだ。
それともう一つ。クワンドは自分の身体を傷付けるような攻撃はしない。
こっちからの攻撃には鈍感なのに、自傷することを妙に嫌がっているように思える。
こうして根っ子の近くにいれば、叩きつけるような攻撃はしてこなくなる。
掠めるような突きを加速して回避する。
なるべく水の抵抗を減らそうと、前屈みで疾駆する。こっちの方が的も小さくなる。
体勢は上向きになっていて、クワンドの影の所為か、暗い海面も目前だ。
ドポッと海面から飛び出て、蜻蛉返りを決める。
俺を追って出てきた根っ子に絡み取られないように、大きく飛んだのが功を奏した。
根っ子は特に何をするでもなく、海中に戻っていった。
「ドンピシャ、か?」
降り立った幹から更に上を見上げる。赤紫に輝く、多角形のクリスタルようなものが、入り組んだ幹や枝の間から見えた。
多分あれがコアだ。




