第三話 説明③
ストックが溜まってきたので本日二話目投稿。
まだまだ続くよ説明回。
シルビナの説明をざっと纏めると、俺が彼女に呼ばれた日の二日後、彼女はこの世界に勇者として召喚されたらしい。
勇者として召喚されたひなたは、この世界の言語を理解し、常人ならざる身体能力を得ていた。
異世界召喚は膨大なエネルギーの圧縮により行使されるそうで、そのエネルギーの余剰分は全てひなたの身体に吸収された。
それがひなたの異常な身体能力向上の原因だった。
勇者――そう呼ぶからには、この世界の人間達には、対処してもらいたい事案があり、それはここセルベティア大陸で数百年前に産まれたという魔人族の長――魔王であった。
魔王は閉鎖的な魔人族を纏め上げ、世界に侵攻した。
数多くの都市や街、村が滅ぼされ、支配された。
支配された各国は恭順を強いられ、王族、貴族、富豪でさえ、一律に奴隷階級に落とされた。
日に決まった供物を魔人族に与え、次の日の我が身を心配する毎日に疲弊しきった人間達は、抗う気力を削がれ、尚も労働を強いられ、地獄を生きていた。
子を成しても明日明後日には命の保証はない。
勿論、抵抗勢力は各地に点々と存在していたが、魔王に矛を届かせる術は無かった。
そこで、逃げ延びた一部の人間の猛者が遺跡を世界の果てで発見。数多の試練をくぐり抜け、一冊の書物を持ち帰った。
古代語で書かれたそれを解読すれば、召喚の義を行う方法が記されていた。
幾人もの血を用い、大地に走るマナの根源――地脈点にて行うそれはまさに勇者召喚の義。
異世界より来たる勇者は万の軍勢を退け、枯れた大地を緑で潤わせる。そう記されていた。
藁にも縋る思いで人間達は勇者召喚の義を行った。
多くの人が命を落とし、地脈点に辿り着いた。で、一代目の勇者が召喚され、魔王に支配されつつあった世界の十分の一を取り戻した。
勇者は一大決戦を終え、力尽きた。この世界の人間達は勇者に感謝し、二度目の勇者召喚を行った。
そうして、勇者が力尽きる度に召喚を繰り返し、魔王誕生から数百年、七代目の勇者――ひなたの代で漸く魔王討伐は相成ったのである。
チャンチャン♪
……ここまでクソめでたくない話も珍しいな。まるっきり勇者が捨て駒だ。
さて、時系列を順序立てると、ひなた召喚→俺召喚、となるようで、膨大な魔力――この単語を聞くと、『ああ、異世界なんだな』って思う――を用いて覗いた“元の世界の俺”――この場合は、ひなたが召喚されて、そのまま時間が流れた愛妹を失った俺となる――は相当な消耗を強いられていて、異世界渡航なんて耐えられる精神状態ではなかったんだとか。
ひなたが消えて探し回って、何日も寝てなくて、ユイとの関係もギコチなくなって、心身共にボロボロになっていた。
それは二ヶ月先の未来の俺。だからシルビナは再度魔力を貯めて、自分が召喚された時よりも前の俺を呼んだってことらしい。
ただ、幾人もの血を用いるとか、地脈点でってセオリーを無視したから、俺の万全な状態での召喚は叶わず、精神のみの上、肉体が崩壊するって羽目になったんだとか。
それが分かっていたから、こうして錬金術で肉体を生成して、精神を入れたとかなんとか……
ぶっ飛んでんなぁと思わざるを得ないが、なんとも縋るような目で見上げてくるもんで、文句も言えない。
一々仕草がひなたと重なり、扱いが甘くなる。
「つまり、意識のないひなたを救いたい、と」
「……はい」
このシルビナ・ステントはひなたの精神の一部が宿った三代目の勇者らしい。
力尽きた後、その美貌を死して尚保った彼女をコレクト目的でこのセルベティアに持ち帰り、魔王は丁寧に保存していたらしい。
光魔法と風魔法を得意とした彼女は、聖女とも呼ばれたんだとか。
まぁ、広告に使われたんだろうがな。「まだ希望はある。抗う者よ集え」的な感じで。聞けば、街頭演説的なことも多くやらされたそうだ。
魔王討伐の功労者であるひなたは魔王の呪いにより眠りについた……という建前で、遺跡で発見された古代の遺産――古の魔法具を用いて意識を封印され、人間達が身体を持ち帰り、眠り姫宜しく、豪奢なベッドで寝かされているらしい。
新しく建築され、布教された七代勇者教とやらの教会。その……なんだ……礼拝堂、でいいのか? よくテレビで見るような祭壇のような壇上に見世物のように寝かされているらしく、実際、世界を救った勇者の御姿を一目見ようと、勇者召喚の義が初めて行われた土地――スポック・サルベリアに訪れる者は後を絶たないそうだ。
一代目から七代目までの勇者の召喚場所は異なり、それぞれに教会が建てられ、一大都市を築いたらしい。
その中で初めて勇者召喚が行使された場所が選ばれたのは、『初めて』を重視したからだとか。
ただ、意識は封印ではなく、肉体から引き剥がされたようで、それも分割するような力が働いた、と。
そもそもの話、古の魔道具に取説があるわけもなし、使い方なんざ検証してみるしかない。
実験はしたんだろうが、意識を飛ばしたとして、それが封印なのかどうかってのは、本人くらいしか分からないだろう。
多分、古の魔道具の能力を勘違いしたんだろうな。封印ではなく、意識を引き剥がし、分割するものだった。
幽体離脱的な理屈なのかもしれない。尚且つ、意識を幾つにも分けるっていう。
ひょっとすると、大昔には人間同士で戦争もしていたらしいし、霊体的なものになって、偵察とかをスムーズに行うためのものだったんじゃなかろうか? と憶測を立てる。案外、覗き用とかかもしれんけど……
「どうやって元に戻すんだ?」
「それは古の魔道具を使えば可能かと思います」
「希望的観測だな」
「ええ。ですが、意識を引き剥がす力であろうと、封印する力であろうと、戻す方法はあるはずなのです。それが、使用されたものでないにしろ、対になるものは必ず存在する」
道理だ。封印であったとしても、解く方法は用意されている。
その辺の思考は俺には分からない。映画やアニメ、ゲームなんかでも、大体解く方法があるからそう思うだけだ。
単純に思い付くのは、自分にソレが使用されたときのための抜け道とか、解く方法は自分しか知らないから従えと、脅しに使うとかくらいだ。
正直、ない方が報復等の心配をしなくても良いのになぁ、とも思うが、今回は有ってくれた方が有難い。
「それと、ひなたを救うのになんで俺だ?」
理解しきれない話を無理くり飲み込み、浮かんだ疑問をぶつけた。
「“私”自信に縁の深い者が一番呼び易く、尚且つ、私がお兄様が良いと望んだからです」
「……なるほど」
うぅむ。嘘はなさそうだ。
それに一人で呼ばれたんなら、心細いってのもあるのかもな。
召喚されてから魔王討伐まで五年。それから更に俺を呼ぶまでに三年の月日を費やしたらしい。
計八年。元の世界は二ヶ月。時間の流れに差があるのは、まぁ定番か。
俺の知るひなたなら、耐えられるとは思えない。
甘えん坊で寂しがり屋だ。天真爛漫に振る舞っていても、それは家族がいるからだと自負している。いや、今実感したと言った方が正しいか。
俺は今、彼女を信用しようとしていた。全てに共感はできないけど、誰も理解者がいない寂しさは分かるつもりだ。




