第三十六話 クワンド④
ストックが増えたので本日二話目
翌朝、朝日で目が覚めた。潮風の影響か、髪の毛がバシバシしてる。触るとごわごわした手触りがなんとも不快だ。
「は、ふぅ。う、んんっ」
枝の上で寝た所為で、身体が凝り固まっている。
少し捻るだけで、ぴきぴき、ぱきぱき、と鳴った。
「はぁ、身体拭こうかな」
独り言ちて立ち上がる。
「あれ、毛布は?」
今気が付いた。被っていた毛布がない。
辺りを見回し、視線を下にやれば、数段下の枝に引っ掛かっていた。ついでに、包みと直剣も。
寝る前にベッド代わりにした枝に引っ掛けていたんだが、寝相で落としたらしい。
「中身は……無事だな」
ひょいひょいと降りて包みの中身を確認。携帯食料残り二日分。ドラゴンの肝。クセーフスの乳が入った筒もおっけー。
毛布をパンと払うと、たちまち二十センチ四方サイズに。マジックのような早業だ。
包みの中に仕舞い、直剣と一緒に持って枝から飛び降りる。
高さ三メートルからの着地を膝をバネにして難なく成功させる。
実に様になってきたんじゃないかと、誰にでもなくドヤっと胸を張ってみた。
「……川はこっちだったな」
恥ずかしくなって、目的地へ足を進めることにした。
◇
髪を洗い、身体を濡らしたタオルで吹き、ついでに朝食も済ませてまた元の場所に戻ってきた。
「あれ、島が動いてる?」
昨日発見した影をもう一度観察してみようと目を向けると、どうも記憶通りの場所にはないような気がする。
島と言うよりも、木々が群生して海の底から幹が伸びているようだ。
沖縄にあるマングローブみたいだな。テレビで見たが、なんとも不思議な光景だった。
ここから見えるあれも、そんな感じに見える。海面から出ている部分はさほど高くはないようだ。俺の乗っている木の半分程度か。
やっぱり様子が変だ。
観察していれば、なんとなく動いているように見えた。
大きく波を立てているわけではないし、枝葉を激しく揺らしているわけでもない。
微妙に移動しているように見えるんだけど。気の所為かな? ってレベルの移動。距離もあるから、どうにも判断がつかない。
「あ」
今、魚が跳ねた。
海上にとび出た魚はマングローブの傍を跳ね……何かに引きずり込まれた。
触手のように見えたが……
「いや、まさかな」
ある憶測が浮かんだ。もしそうなら、厄介だな。
今度は前のめりに、目に意識を向けて観察してみる。なんとなく左目を瞑って、右目だけで見てみた。焦点を明確にするために右手で筒を作った。
するとどうだろう。遠くて見え難かったマングローブがクリアに見えて、望遠鏡のように視界が近付いた。これも意識したからか。
今、俺は視覚をいかんなく発揮できている。
「おっ、まさかとは思ったけど、これはビンゴか?」
十数分、その状態を維持して観察を続けていると、また魚が跳ねた。
ソイツを海中から飛び出した明るい茶色の触手――ではなく、根っ子だと思われる――がエラ辺りを刺し貫いて海中へ引きずり込んだ。
多分あれがクワンドだ。根っ子で串刺しにして養分を吸うとか、そんな獲物の取り方をしているんだろうな。
ゴーレム・タイプの魔物には弱点がある。
コア、或いは魔核と呼ばれる魔力結晶に、周囲の魔力伝導率が高い物が吸い寄せられ、凝固したものがゴーレム・タイプである。
故に、そのコア、或いは魔核を破壊すれば、魔物は体構成を保てなくなり、崩れるという仕組みだ。
厄介なのはコアの位置だな。シルビナ曰く、魔物によって位置は異なるから、確実にここって目星が付けられないんだそうだ。
まぁ、基本的に外界よりも遠いか、より頑強な場所に隠されているそうなんだが、それも確実性に欠けるんだそうで、過信しすぎないようにと言われている。
「さて、手をこまねいていても何も起きない。……行くか」
覚悟は決めた。後は、遂行するだけだ。
幹に足をつけて蹴り付ける。
ここから砂浜までそう遠くはない。七本の木々を経由して森を抜け出す。
前転の要領で受身を取り、勢いを殺さないまま駆け出す。
海に到達する前に包みを解いて浜に捨て、迫る波に飛び込んだ。
ドラゴンの肝が入った布袋だけは腰に縛り付けた。どんな魚類系の魔物に襲われるか分からないからな。中身がこぼれないようにしっかり縛っておかないと。




