第三十五話 クワンド③
闇夜に紛れて散策する。沖から吹き付けてくる風がひんやり冷たくて身震いした。
体感的に二十度もないかもな。今の季節がいつだとか、この大陸に四季があるのかも分からないが、緑葉が多いことから、勝手に夏だと思っていた。
それは兎も角として、俺がいる森林から海まで、二十メートルあるかないかというところ。
蠢く影はない。潮風が枝葉を揺らす音と、漣だけが静寂を破り、他には何も聞こえない。
「魚肉を好むって、どうやって食べるんだ?」
ふと湧いた疑問である。シルビナ曰くそういうことらしいのだが、詳しくは聞いていなかった。
枝を使って、どこかにある口まで運んだりするのだろうか?
「ん? 何だあれ。島、か?」
浜辺を超えた先にこんもりとした影が見える。星明かり、月明かりでは見通せない。
一キロも離れていないと思うが、よく見えない。
「……明日にするか」
枝に座ったまま幹にもたれ掛かる。こうも見えないと、行動を起こすのは危険だ。
ドラゴンの肝が効力を発揮するのは鼻の効く魔物だけで、元々発達していない魔物には効果が薄い。
未だに俺はその手の魔物に遭遇したことはないが、用心するに越したことはないだろう。
これまた持たされた干し果物を包みから取り出し、柿に似たものを齧る。
すっごい濃厚な甘みが口内全体を満たす。瑞々しさはないが、旨味で唾液が溢れて、喉が潤される。
無言で食事を続け、やがて腹八分目まで満たされると、妙に睡魔に襲われた。
ほぼ一日、動き続けたからかもしれない。疲労が蓄積しているんだ。
包みから二十センチ四方の布を取り出す。
表面はふんわりしていて、手触りは柔らかい。顔をうずめたら一気に眠れそうだ。
それの角を両手で掴んで、ホコリを払うようにバッと広げると、あら不思議、長方形の毛布に成りました。
これも魔道具の一種らしい。組み込まれた術式は闇魔法で、特定の動作で全体像が出現する。
戻したい時は同じ動作をすると、二十センチ四方を残して異空間に消える。便利なものだ。
よく見るライトノベルとかだと、異世界物は文明が遅れていることが多いが、どうもこの世界は、上手く魔法を扱って世間に広めているようだ。
研究熱心な学者も多く、新魔法学もまだまだ発見される余地はあるらしい。
…………一人の夜は久しぶりで、なんだか寝付けないな。
瞼は重いのに、どうも脳が中々に覚めている。
ユイは大丈夫なんだろうか。俺がいなくなって心配していないだろうか。
ひなたも泣いていないか不安だ。父さんや母さんも、何も知らないまま探していたりしないか。
ユイは泣いてないだろうな? 付き合う切っ掛けが切っ掛けだから、若干依存じみたところがある。
シルビナが言うには、戻る時には同じ時間か、少し過ぎた時間に返せるはずだと言っていた。
ただ、今も時間は過ぎているわけで、ズレはあると言っても、一日二日は経過しているとみていい。
無断外泊なんてしたことないからな。一日連絡付かないだけで大騒ぎになっているかも。
なんか申し訳なくなってきたぞ。
被った毛布をぎゅっと握り、ホームシックに陥った俺は、結局寝付くのに数時間を要した。




