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シルビナ②

 私は驚いていました。お兄様を蹴り付けて、一分ほどで彼は起き上がりました。


 明らかに耐久力が増しています。私の想像以上に、お兄様は強くなっています。勿論、私には遠く及びません。

 ですが、この世界の二流、三流程度の武芸者なら太刀打ちできないでしょう。リザードマンを倒せたこともその証明になります。


「……」


 音も小さく、銀槍で突きます。時に大きく薙いで、周囲を風で荒らして感覚を鈍らせたり、ワザと音を大きく立ててフェイントを掛けたりと、余念なくお兄様の察知能力を乱します。


 常に集中できる環境というのはそうあるものではありません。

 なので、どんな時でも集中力を乱さない冷静な思考を備えて欲しいと願いもあって、目を塞いだのですが、どうにもその辺は心配無用のようです。お兄様はフェイントを見抜く能力を持っています。

 欠点は、目が見えないことで勝負を急ぐ傾向にあり、先が読めなくなってしまったことでしょうか。

 改善は見られますが、まだまだです。


 ◇


 鍛錬後、私はお兄様に筋力トレーニングを課して、一人森の中を進みます。

 ここ数日、行ってきた行為です。


「すぅ……」


 浅く息を吸い、ピーと指で作った輪を銜えて指笛を鳴らします。

 魔力を乗せた特殊な指笛で、音波を微調整します。

 魔物笛と呼ばれる、魔物を引き寄せる笛が存在します。用途は、クセーフスのような家畜になる魔獣を操るための物で、魔物の種によって通じる音波の域、と言うのでしょうか、それが違ってくるのです。


 ややあって、上空に現れたのは体長二メートルを超えるコウモリ六体です。

 人食で有名な彼らの生息地である洞窟がこの近くにあり、今の呼び笛は彼らに得物の発見を知らせるものでした。

 薄い皮膚なのに一切の光を通さない羽。今日の目的はそれです。新しく立てた小屋があります。寝起きする小屋とは違い、一室だけで窓もない殺風景なものです。

 その小屋を光を通さない羽で覆い、完全な闇に閉ざします。そこを、暗闇の鍛錬場として利用するのです。


「ふっ」


 浅い呼気と共に跳躍します。鍛錬時にも被っている軍帽はズレないように魔法で固定しているので、どんなに勢いを付けても落ちません。


 瞬く間に木々を超えてコウモリらの空域まで飛び上がり、両腕を二線振るいます。

 不可視の風刃が彼らを刻み、両の羽を切り離しました。二対のコウモリが絶命しました。


「せっ!」


 風に乗って最寄りのコウモリまで近付いて、上段から大きく足を蹴り落とし、彼の首を跳ねました。


 そのまま空を蹴り、後ろ手に風刃を飛ばして加速を得て前進します。

 反応をさせないまま、貫き手で対象を抉ります。ブシューッと紫掛かった血が吹き出し、絶命させます。


 あと二体。


 このコウモリ達で気を付けなければならないのは、超音波攻撃です。

 鼓膜を揺らし、果てに脳まで揺らします。激しい超振動で揺らされた脳は、頭蓋の中でシェイクされて、彼らの好物なジュースになるのです。

 不思議なことに、超音波攻撃を受けた者は、脳がジュースになっても暫く意識を保っています。

 しかしながら、身体は動かず、逃げることもできないので、鋭い牙で頭蓋に穴を空けられ、彼らが口の中で持つ管を通されて脳ジュースを吸われる感触を味わわされてしまうのです。


 超音波は人間には聞こえない音域で、察知できません。モーションもないので、気付かぬままに超音波攻撃を受けて脳を吸われる強者も少なくありません。

 ですが、不意を突かれなければ、風魔法で音は遮断できるので、私に効果はありません。


「――っ!」


 魔力で風を操り、横移動します。コウモリが一体通り抜けました。

 接敵から初めての反撃です。もう彼は首を失ったので、これで最後ですが。

 通り抜けざまに、腕に纏わせた風刃で首を切り飛ばしました。刹那の出来事なので、彼は痛みすら感じなかったでしょう。


 残り一体には、腕に纏わせた風刃を掴み、投げ付けることで終焉としました。


「――っ!? これ、は……?」


 制空権を得た私は、遠目に見える空が崩壊していくのを見て目を見開きました。

 次いで山脈が、木々が、大地が、湖や川が、角砂糖が水に溶けるように、ホロホロと崩れて散る様を見ています。


 世界の崩壊です。この世界は続かない。何故なら、お兄様が死んだのですから。


 信じ難いことですが、お兄様が死ぬと、世界は崩壊してしまう。分岐するわけではないのです。

 お兄様の死に戻りと同時に、世界は巻き戻り、上書きされてしまう。


「ああ……また、守れませんでした」


 足の爪先から自分が消えるのが分かります。他の方はどうでしょう? 私の予測では、気付かぬままに今日を繰り返していると思います。


 それはさておき、早くしないと私は記憶を持って巻き戻れません。

 光魔法で記憶を保護して……お兄様はどうやって死んでしまったのでしょうか。今のお兄様は中途半端に強いので、最初の頃のように楽に死ねないかもしれません。


 んんっ、集中です。お兄様の感じた痛みを想像している場合ではありません。


 …………これで記憶は保護されたでしょう。

 お兄様には禁じられていますが、私にはお兄様を呼び出した責任があるので、お兄様の死に戻りと同時に、記憶を保護して巻き戻る世界にデリート、オーバーライトされないように気を付けています。


 貴方を一人にはしません、お兄様。


 ………………

 …………

 ……


 そして世界はまた今日を始めます。

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