第二十五話 修行⑧
三が日スペシャルってことで、0時と12時に二回ずつ更新しようと思います。
三日連続のストック消費……また貯めないと。
昼食を終えれば鍛錬だ。
この世界に来て二週間。シルビナの言うように、この身体の成長は随分早い。
肉体年齢的な意味合いではなく、身体能力的な意味合いで、だ。
クライミングなんかが最たるものだろう。百メートル、二百メートルの崖なんて、少し練習した程度で登れるようになるわけがない。ましてや、荷運びのバイト程度で、登りきる体力が付くはずもない。
それに、都合の良いことに、死に戻っても、身体能力が死ぬ直前までと変わらないってことも大きな要因なのかも。
今日の鍛錬は、ひたすらシルビナとの組手だ。
刃引きした模擬銀槍を相手に、ズッシリ重い大剣で立ち向かう。
幅が俺の胴程もあり、刃渡りは身長ほど。分厚さは十センチもある。
正確な重量は五十キロだとか言っていた気がする。
疎らに乱立する木々の中で、コイツを扱うには苦労させられるが、彼女はそれも織り込んでいるんだろうな。
立地を把握しながら戦えと。
「ふんぬぁっ!!」
そんな超重量を両手に添えて、腰だめの状態から力任せに横薙ぎに振り抜く。
ゴヒュゥッ、と風を巻き込んで、槍を半身で構えるシルビナに向かった。
今まででは考えられない腕力で、大剣を水平に薙ぐ。
「甘いです」
地平ギリギリまで身体を屈めて、大剣が頭上を通り過ぎるのと同時に、巻き上げた風に白髪が踊るのも構わずに槍を突き上げる。狙いは顔だ。
シルビナが手加減しているのは分かる。ただ、今までと違うのは、動きが見えることと、それに対応できることだ。
槍は首を捻って躱し、振り抜いた大剣を引き戻し、肩に担ぐように、けれども振り下ろしは早く。間を置かずに上段から叩きつける。
ドボォッ、と地面を穿った。槍を突き出していたシルビナはいない。躱すのが見えていた。
円を描くように宙でベリーロールをきめて、大剣を避けて着地と同時に……高く跳んだ。
そこを大剣が横薙ぎに通り過ぎる。地面を削りながら、刃は上下に向いたままだ。
俺は剣の腹で左に逃げた彼女を叩こうとした。
それは叶わず、空中へ跳び上がったがった彼女はそのまま背後に着地して、石突きで強かに俺の肩甲骨付近を打ち据えた。
「――ぐっ!」
前のめり傾く身体を流れに逆らわずに泳がせた。既に大剣は手放している。
俊敏に動くのに邪魔だ。それは幾度もの組手で理解した。得物を離すなと指示する漫画を読んだことはあるが、自分が体験して分かったのは、それは状況によるだろうってことだ。
この場合、踏ん張ったところで追撃は避けられないのだから、与えられ衝撃に逆らわず、尚且つ逃げるのに邪魔な大剣は離した方がいい。
迷えば負けだ。ただでさえ手加減されているのに、俺に行動を迷う余裕などあるはずもない。
肩甲骨の痛みもそのままに、前転して追撃を躱す。転がる時に見えたのは、振り向きざまに槍で薙ぎ払うシルビナの姿。そして、直ぐ様、突きの構えへ移る予備動作だ。
目が合ったことから、彼女がわざと俺に見せていることも理解できた。
「っ!」
立ち上がるまもなく、四つん這いの状態で手足で地面を押して一メートル跳び上がる。さながら、気分はカエルだ。
身体の下を穂先が通過した。一瞬遅ければ、俺の背中は貫通していたかも……
刃引きはしてあるけど、そう思わせるに十分な威力だった。
伸びた槍を蹴り付けて、前に身体を動かして前宙をきめる。
更にそのまま膝を折って右足を伸ばして反転。低い位置で回し蹴りを放ち、転がった大剣の柄を蹴って宙に浮かせる。
刃は重すぎて浮かなかったが、柄だけはなんとか浮き上がった。
「器用なことを……」
感心するような声が聞こえる。
少し気分が良くなりながらも、動きはとめない。そのまま、右手を伸ばして大剣の柄を掴む。
「ぜぇあぁっ!!」
流動する血液を右腕全体に感じる。血管が浮きでているかもしれない。
それだけの膂力を発揮して大剣を片腕でぶん回した……が。
「ふごっ!?」
横合いから、開いた右腋から首を引っ掛けるように槍が差し込まれて、俺を地面に押し倒した。
大剣は呆気なく手をすっぽ抜けて先の木にぶっ刺さる。
「ぐっ、つぅ……ギブアップだ」
俺と同じように屈んでいたシルビナが槍を離す。
「足であの重さの剣を蹴り上げるのは予想外でした。惜しむらくは、剣が重過ぎたことで、動作に多少遅れが出たことでしょうか」
「遅れなければ届いていた? そんなわけないよな?」
「ええ、勿論」
良い笑顔で返答された。まぁ、分かってたことだ。得物が軽い程度で、シルビナの速さに追い付けるわけがない。
「さぁ、続きです。連戦など当たり前なのですから、そう多くは休憩を取れませんよ?」
「ああ、分かってる、よっ」
シルビナが立ち上がり、差し出した手を掴む。
彼女の華奢な手に引き起こされて向かい合う。
二歩、三歩、四歩と後ろ向きに下がって距離を取る。
「次はこれを」
どこからともなく取り出した、黒塗りの百五十センチほどの棒を投げて寄越す。
フォンッ、フォンッ、と軽く振るえば、よくしなるのが分かる。感触からして木製だ。
俺の構えは全部映画や漫画、アニメの見様見真似だ。そこから繰り出す動きは、構えてからの動き易さを考えてのことだ。
全て我流。独自に、サブカルチャーを参考して思い描いたものを再現しているだけ。
今の俺には、それを実現できるだけの身体能力が既に備わっている。
とあるアクションスターの構えを真似る。
足は肩幅程度に開き、棒は半ばより少し先に持ち、腕に添わせて腋の下を通して背中側へ。空いた左腕を前に伸ばして完成だ。
ここから繰り出す動きは……
思考を続け、合図もなく、踏み込みと同時に腰を捻って腕を回して背中に回していた棒を振るう。
足を動かさないまま上体を逸らして躱したシルビナは、元の位置に戻ると、前のめりに踏み込み刺突を放った。
空ぶった棒を左手で迎えて、右手は持ち易いように変えて、彼女の刺突を上から迎撃する。
下がる棒を構わず、地面にぶつけて更に踏み込み、同時にシルビナの槍が簡単に上がらないように抑え込む。
「っ!」
息を呑み込み、棒高飛びのように地面に接地させたたわむ棒に任せて身体を浮かせた。
垂直に立った棒に左腕を絡めて身体を支え、右足を伸ばして回転蹴りを放つ。
しかし、まぁ、シルビナにそんなものが通用するはずもなく、側頭部を狙った足を左手で捕まれ、こともなげに後ろに投げ飛ばされた。
この時は得物を離さない。手の中で棒を滑らせて地面に擦らせて、飛ばされた勢いを無理矢理殺す。
着地と同時に、再度棒を滑らせて突き出す。
カッ! カカッ!
一合、二合、三合と、棒と銀槍が交差する。
最後の交差で、棒は大きく弾かれて俺の手を離れた。
「っ!」
あっさり手放し、ステゴロでシルビナに肉薄する。
振り上げた姿勢のまま槍を半回転させて、石突きで俺の顎を狙ってきた。
上がりきる前に右手で槍の柄を叩いて迎撃し、更に踏み込む。
タタン、とステップを踏んで下がるシルビナ。
彼女の眼前を、横から撃ち抜くように放った俺の左拳が通過する。
「では、こちらも」
その言葉の意味を理解するよりも早く、二激目の顔面を狙った右ストレートをひんやりした細い指が優しく下方へ払う。
「ぐっ!?」
踏み込む際に出した左脚の内腿を、強かにシルビナの左脚が打ち据える。
シルビナは鍛錬時には、白を基調とした軍服のような服を着ている。
普段は装着している同色の皮の手袋は今はしていないが、少しダボッとしたズボンの膝下五センチまでを覆う革製のブーツは履いている。
所々に金属のプレートが装飾されていて、脛辺りにあるそいつが上手くヒットして痛い。
あれだけ激しい動きをしても頭に乗せた服と同色の――ツバは黒色――軍帽がずり落ちないのは、魔法の影響か?
「動きが遅いです」
追撃に備えようと腕で顔を守る動作をする前に、ワンツーとシルビナの小さな拳が右頬、左頬と打ち抜く。
「ぶっ、づっ」
シルビナの拳は小さい。けれど、どんな大柄なヤクザの拳よりも硬く、そして重い。
ハンマーで殴られたような衝撃に視界が揺れ、たたらを踏んで後退る。
「くあっ!」
鳩尾に右膝が突き刺さり、身体がくの字に折れる。
地面から足が浮き、そのまま二転、三転する。。
鍛錬時のシルビナは容赦がない。親の仇とでも言わんばかりに隙を逃さず、反撃の余地を与えない。
「痛みで動きを止めてはいけませんよ、お兄様。それは致命的な隙です」
「ふぅっ……はぁっ……あ、ああっ……」
尋常じゃないほどに呼吸が苦しい。息を吸うだけで胸全体がズキズキする。
シルビナの言うことも分かるんだが、あまりに重すぎる攻撃に耐えろと言うのは、なかなか厳しいぞ。
「では、もう一度」
蹲る俺の顔の左右に二本の曲刀が突き刺さる。
右は赤いラインの入った桜色の刀身。左は青いラインの入った水色の刀身。
「上手く魔力を流せれば、炎と氷を纏わすことのできる一対の魔剣です」
見上げると、にこりと女神のような頬笑みを浮かべる美女が、悪魔の如き囁きを告げる。
「死ぬほど頑張ってものにしてみて下さい」、と。
いや、魔力が放出できないのに、どうしろと?
まぁ、それをやってのけるための鍛錬なんだろうけど。
決意を固め、チャキリと子気味の良い音を鳴らして曲刀を握る。一対の双刀は右の刀がほんのり熱く、左の刀がひんやり冷たかった。
性質による影響なのかもしれない。
彼らを支えに、立ち上がる。
大きく呼吸するとまだ痛むから、小さく、浅くを心掛けて、息を整えた。
正面を見据えると、シルビナは三メートルの距離を取って構えていた。
「……ふぅ……行くぞっ!」
自分を奮い立たせる意味も込めて宣言する。同時に、足を前に踏み出させた。
今更ですが、シルビナの戦闘時の服装を描写してみました。
銀髪、白髪に白軍服は個人的趣味です。
自分的には凄く萌える。




