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第二十一話 コムラット鉱石採取④

 洞窟を出て上層を目指す。

 この岩山の洞穴一つ一つが彼らの食事処だと思うと、結構な数があるように思う。


「コムラット鉱石は幾つかの洞窟で取れるそうですが、今欲しいのはより良質な物なので、上を目指しましょう」

「同じ岩山で、そんなに違いが出るのか?」

「時代時代の魔素濃度に関係しているそうですよ。特にこの山の鉱石は、魔素の影響を受け易いので、それが如実に現れるんですね」


 息一つ乱さないシルビナに懸命に付いていく。

 傾斜角度四十度。なに食わぬ顔で登るには、少々ハードな山登りだ。


「ふぅん?」


 分かるような分からないような話だ。

 でも、シルビナの話を思い出せば、コムラット鉱石は魔力伝道がどうのってことだったはず。魔素濃度とやらも、それに関連することなのかもしれない。


「場所は把握しているのか?」

「はい。食器類だけでなく、魔道具の素材採取にも利用させていただいていますから。一通りは」

「へぇ。魔道具作ってどうするんだ?」


 話が転がる。シルビナと話していると、興味が移って仕方ない。

 スルーできればいいんだけどな。情報を仕入れたくなってしまう。


「売るんですよ。この大陸に通貨はありませんから、別の大陸に移って売り込むんですよ」

「ど、んなものを? よっ」

「そうですね……」


 右へ左へと踏み固められただけの通り道を進む。

 シルビナは平然と軽やかに歩くのに対して、俺は既に手を地面について登っている状態だった。

 傾斜がほんとにキツイ。見掛けるガンジン族は、何故か地面に垂直に立てている。


「魔王が討伐されたとはいえ、魔物の脅威はいまだ健在ですからね。自然治癒や自然解毒の回復系。毒無効や石化無効、麻痺無効、睡眠無効等の状態異常回避系 。筋力アップや硬質化、俊敏上昇、感覚の鋭敏化等の強化系。炎属性や水属性等を付加できる属性強化系。回数制限ありの、魔法杖。……こんなものでしょうか」


 人差し指をピンと立てて説明してくれるシルビナは、実に饒舌で楽しそうだ。


「へぇ、色々、やって、るん、だな」

「勿論です。ニーズに答えてこその売り手というものです」


 そのニーズとやらはイマイチ分からんが、楽しそうでなによりだ。

 ああ、でも、今は体力アップとか欲しいかも。


「魔法武具や魔法防具の制作も考えているのですが、大きい物の錬金には多大な魔力を消費するので、専用の立地と施設が必要になるのですよね。既存の武具、防具に魔方陣を刻むだけでは、掻き消されてはお終いですし」


 ほんとに色々考えているようだ。趣味は錬金術、或いは魔道具作りってところか。


「魔法を機能付けするとなるとより膨大な魔力が――っと、ここですね」


 話の途中で立ち止まり、シルビナはトンと軽やかに跳び上がり、一メートル二十センチほどの高さの段差に乗る。


「よっ、と。……あれ?」


 麓を見下ろせば、五百メートルは登っただろうか。結構な距離を歩いたのだと分かる。

 その所為か、もう足が棒だ。腕をついて登ったのも悪影響で、筋肉が張っている。全然上がらんぞ。


「だらしがないですね」


 くすっと笑いをこぼして、シルビナは腰を屈めて手を差し出してくれる。

 手を掴んで登る。


「んっと。はぁ、もっと体力を付けないとな」

「そうですね。今のままでは、魔物討伐も難しいですよ」


 辛辣、でもないか。厳然たる事実でしかないな。


「では、参りましょう」

「ふぅ……ああ」


 俺の息が整うのを見計らって、シルビナは洞窟内に向かって歩みを進めた。

 ガンジン族族長のバデッドが居た洞窟よりも狭い。天井は二メートル半ば。幅も三人並んで歩けるかどうか。

 バデッドが使用しないからだろう。


 洞窟内にはやはり光源がない。俺の目では、入って奥まった所に行くと、中を見通すことは出来ないだろうな。


「さっきも思ったんだが、なんで明かりがないんだ?」

「明かりが必要ないからですね」

「魔法を使っているようには見えなかったけど?」


 三歩先を歩くシルビナは、ゆらゆらと指先に点る魔法的光をさ迷わせて解説をしてくれる。


 それは道理だろうが、理由はなんだ?

 バデッドを思い出しても、魔法を使っている雰囲気はなかった。


「彼らに目鼻は存在しますが、所謂、五感という機能は持ち合わせていません」

「ん? じゃあ、どうやって物を見て、音を聞いてるんだ?」

「魔素です」


 魔素。ここでも魔素、か。かなり万能な代物なんだな、魔素は。


「原理自体は彼らにも分かっていないようです。……詳しくは、彼らの生命の原点にも関わることなので控えますが、大気中の魔素を通じて物を見て、音を聞いて、匂いを香って、肌で感じています」

「味覚は? さっきは好みがあるとか言ってたが……?」

「彼らに舌はあれど、味蕾は存在しません。好みとは、硬さや柔軟さ、シャリシャリ具合などの触感からくるもののようです」


 つくづく人間とは違うみたいだ。魔族ってのは、みんなそんな特殊な感じなのか?


「う〜ん、分からん世界だ」

「同感です。――お兄様、アレがコムラット鉱石です」


 入って五分ほど。そこそこの奥行きがあって、グネグネとした一本道を進んでいると、最奥に突き当たった。

 シルビナが光を点した人差し指で指し示す先に、転がった小石がある。

 小指の爪ほどの大きさのものが幾つも散らばっていて、エメラルドグリーンに光を反射してキラキラ輝いている。


「さて、拾い集めますか? 掘りますか?」


 肩越しに振り返ってそう聞いてくる。


「どういう意味だ?」

「この欠片を拾い集めて錬金するか、掘り進めて見合った大きさのものを採掘するか、ですよ」

「何が違うんだ?」

「質、でしょうね。錬金の場合は、気を付けなければ不純物が混ざってしまいますが、採掘すればその心配も少ないでしょうし、選り好みできますし、鍛錬にもなります」


 これ、選択肢ないだろ。目は口ほどに物を言うという言葉通り、シルビナの目は露骨に後者を選べと言っているようだった。

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